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風変わりなVRMMO(仮)  作者: 渡歩畝
第二章 セトの里
6/8

#006

 店内はそこまで広くないようだ。端から十歩も歩けば反対の壁に当たりそう。

 入り口正面の壁に掛けられた店内全域を照らす燭台。

 左手には商品を置く棚だろうか、何も置かれていない二段に仕切られたものがいくつか並んで置かれている。右手には草花の細かな刺繍の入った布が敷かれ、その上に手提げランプが置かれたカウンターらしき机。その奥に扉がある。


 彼は机を回って、その向こうに行くようなので、それに付いていく。

 彼が扉を前にすると振り返り左手を伸ばして、すぐ背後にいた私に一言。


「……そこの椅子にでも座って待っていて。さすがにこの奥は通せないから」

「……失礼しました」


 失敗した。見た感じ椅子が見当たらなかったから、このまま行くもんだとばかり。

 示された方向を見ると机の下に収まっている背もたれのない椅子が目に入る。

 おとなしく椅子を引っ張り出し荷物下ろして座ると、それを見届けた彼は扉の向こうへと消えていった。


 改めて見渡しても商品らしきものが見当たらず、店の片づけはほとんど終わっていたようだ。おかげでここが何屋さんなのか、さっぱり不明である。


 今やっておく事は時間の解決と背負い袋の中身の確認かな。

 まずは優先度の高い時間の方。やる(たんび)に夜だったりしたら続けていくのは厳しいだろう。夜行生物じゃあるまいし。

 ここはイヴァンナさんの助言に従い、ヘルプを当てにさせてもらおう。きっとあるはず。……あるよね?


 ――あった。

 コマンドメニューを操作すること数秒、質問ページの一ページ目に載っていた。内容を読むと設定の中にある、表示項目に関するところを弄ればいいらしい。


 早速、表示設定を弄ってみる。表示なしのほかに、現実時間やゲーム内時間、その両方が選べるようなので両方を選んでみる。


「現実が七時三十四分で、ゲーム内は十九時四十二分かー」


 思わず呟く。視界右上部にデジタル表記の年から始まる時刻が表示された。二段表示で上が現実時間で、下がゲーム内時間らしい。

 ……しかしこれ、いつも表示しておくのは邪魔だね。常に視界の一部分を占有されてうるさいし、常に時間を意識されられるのもつらいものがある。

 時間も判ったことだし、そっと元の設定に戻しておく。方法も分かったので必要になったらまた表示すればいい。


 ほかにもLP(生命力)やらMP(魔力)などのいろいろ項目があったが、同じようにうるさくなりそうなので構わないでおこう。うん、あるとわかってればいいんだよ。


 一つ目の問題も解決したことだし、次の問題、謎の背負い袋を検めてみようか。

 屈んで袋の口を開けようとしたところで、扉が開き彼が戻ってきた。


「すまない。来客用のコップ何かは処分してしまっていたので、こちらで勘弁してもらいたい」


 そういって差し出された親指が入りそうなの太さの試験管。蓋がされてあり、薄い青い色の中身がゆらゆらと揺れていた。


「これは?」


 屈んでいた身を起こし、それを受け取りまじまじと眺めながら聞く。


「適当なのが見当たらなかったので、この前作り置きしていたの風邪用の水薬。

 大丈夫、健康な時に飲んでも問題ないよ。飲み足りなかったらそこに水を追加してあげるから。よく――」

「はあ、ありがとうございます」


 手元の試験管を見る。考えることは来客用の器を処分していたとの言葉。この彼は、ひょっとしたら交友関係がとても狭い方なのかもしれない。大人らしくそっと気遣っておこう。

 青い色した飲食物ってちょっと口にするには抵抗あるけど、ご厚意を大切にいただく。

 蓋を開け口へと運び一気に流し込む。手が僅かに震えたのはご愛敬だろう。


「あ――」


 そんな様を見て、彼が何か言いかけたが。

 臭いはなく、さっぱりしたライムの様な味でおいし――くない! し、渋い、ものすごく渋い!

 もうすぐ飲み切ろうとした瞬間に、口の中がえぐみを感じてぎゅっとする。


「あー、よく振ってから飲まないと底に薬効成分が溜まってて、相当苦いよ? 水注ぐから入れ物出して。それで口直しするといい」

「へぁぃ」

「――」


 私が差し出した試験管を受け取らずに、彼はその上に手を翳すと何事か呟く。

 すると翳した掌から水が試験管へと流れ込む。おお、これが魔法かな? 口の中が渋くなければ、もっと感動できたかもしれない。

 出してもらった水を早速口に運び、中を洗浄する。ああ、何の変哲もない水が美味しい。


「なんというか、貴方はもう少し慎重に物事を進めた方がよろしいのでは?」

「はい……」


 ご(もっと)も。


「それで貴方は、これからどうするつもりですか?」

「これからは慎重に石橋を叩いてから渡ろうかと前向きに善処いたします」

「……反省してそうで反省してない気がするね」

「性分なもので」

「まあ分かっているなら、余計な世話でしたか。あと、『これから』というのは今晩どう過ごされるかということです」

「ああ。……今から食事の出来る店などはあります?」


 紆余曲折あったが本来の目的を果たすべく行動しよう。


「うーん。基本的に食事は各戸自分たちで用意して食べてるからないかな。外部向けには宿で取れたけど、先ごろ異人の方が大勢来たからその余裕はないだろうね」

「そうですか……」

「ああ、そうだ。寝るときは人目につかないところで寝て欲しいね。ちょっと前まで里のいたるところで異人さん方が座り込んで騒ぎになっていたから」

「はい?」

「突然、異人の方が道端で座り込んでね、それが一日中座りっぱなしとかあったんですよ。何をしても反応しないし。あの状態になるとどうも里のお偉方じゃないと動かせないようで困っていたんです。

 今はその辺のことの周知もされて、皆さん宿や木の上なんかで休まれるようなったんですがね」

「はぁ……」


 へー、あれかなゲームを中断するとそういう扱いになるのか。でも、そんな状態があちこち起きていたら確かに迷惑か、気を付けよう。今は宿に空きが無いということだから、今晩からの寝床は野宿確定ですし! ……木の上で寝るってそんな器用なことする人もいるんだね。参考にしたくないけど。


「そうすると暫くこちらではまともに食事や寝泊りができないということですか……」

「そうなるね」

「一応お聞きしますが、食材を扱っているお店はあるのでしょうか?」

「雑貨屋で多少扱ってはいるけど、食材に限らず品薄になっているよ。田舎だからなかなか次の行商人が来なくて」

「なるほど、そうですか……」


 木に囲まれているようだから、セトの里とは交通の不便なところなんだろうね。

 今度は明るい時間になってからこちらに来よう。お店なんかも一応見ておきたいし。


「では明るくなってから一度宿屋や雑貨屋行ってみます。空きができてたり、探し物がもしかしたら見つかるかもしれませんので。

 そろそろお暇しますね、色々とありがとうございました」

「そうですか、まあ宿は厳しいかもしれませんが、探し物が何か知らないけど見つかるといいですね」

「こちらお返ししますね。作業中、長々とすみませんでした。ではでは」

「はい」


 試験管を返し、軽くお辞儀をして席を立つと入口へと移動しようとする。

 今こっちは二十時前だったから、明るくなるまで十時間として現実で三時間ちょっと時間を潰せばいいわけか。いや、六時から店を開けているわけないか、もう少し遅らせよう。などと考えていたら、背後から声が掛かった。


「荷物、忘れてますよ?」

「あ」


 ……あったね、そういえば。

お読み頂きありがとうございました。


2018/9/25 一部表現や誤字等修正のため改稿。キャラクタ名変更:イヴァンヌ→イヴァンナ



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