#004
「続いて、職業を候補の中から、一つお選びください」
新しいパネルが目の前に表示される。
職業候補とやらは、スキルのように数が多いわけではないようだ。4つしかない。
「候補は、その時点での実績や保有スキルなどにより変化いたします。
選ばれた職業がステータスに設定され、その職業による能力補正を受けます。設定できる職業は候補から一つのみとなります。
その職に関連する行動により経験を積むことで、職業レベルが上昇し、スキルポイントを獲得できます」
ふむ、四つしかないのは今時点で話なわけね。今後、候補を増していくこともできると。
「後ほど職業を変更されたい場合は、役場や各職の関係する組合などにて、所定の手続きを経て転職可能となります。変更された場合でも、以前の職業のレベルが消失することはございませんのでご安心ください。
但し、特殊な状況により、職業を失ったり、職業候補にあってもその職に就けない可能性はございます」
「特殊な状況ですか?」
「候補に挙がる前提要件を満たさなくなった場合、犯罪行為が露見した場合などが、それに当たります。
以前に例に出しました、お馬鹿さんの場合、件の事を起したために信用も失墜して、職を失いました。あ、こちらの世界での処遇であって、そちらの世界ではどのようになっているのでしょう?」
「知りません」
「そうですか……」
またその人の話を聞くことになるとは思わなかったよ。彼がリアルでどうなっているか聞かれても困る。残念がられても知らないものは知らないし。
余計なお世話だろうけど、健やかに過ごされていることを願いたくなる扱いである。
「それで、どの職になさいますか?」
そうだった。他人の心配より、自分の心配。話を進めよう。
候補はそれぞれ、「無職」「旅人」「見習い弁士」「見習い調理士」。
「無職」は「何の職にも就いていない者」。運勢以外の補正なし。まあ仕方あるまい。
「旅人」は「職を探して旅をしている者」。これも運勢以外の補正なし。って、これ無職ということでは? それに旅人が職業と言われても、なんか変な気がする。
「見習い弁士」は「弁士を志す初心者」。補正が主に知識に掛かるみたい。種族言語複数と話術を取ったからのようだ。
「見習い調理士」は「調理士を志す初心者」。補正が主に器用と運勢に掛かるみたい。調理を取ったため候補に挙がったらしい。
「すみません、「無職」と「旅人」の違いは、何なのでしょう?」
「はい、「旅人」は「無職」という言葉に抵抗のある異人さん向けに用意された職業です。実質「無職」との違いはございません」
「……なるほど」
そういう配慮はあるんですね。ほんと変なとこに注力してるなー。
しかしこれ、初期スキル取得時に候補発生要件のスキル取ってなかったら、「無職」と「旅人」の二択ってことになってたのか……。
ここは「見習い調理士」にしておこう。
「見習い調理士でよろしいですか?」
「はい」
「本当によろしいですか?」
「ええ」
「うけたまわりました」
ええ、弁士なんて胡散臭いのでスルーですよ。
「それでは最後にこちらの世界での分身となる姿を決めていただきます。
事前にご用意いただいた素体はございますか? この場で一からお作り頂くことも可能ではございますが、調整過程での違和感は大きくなりご負担になられる場合もございます。
ここで一旦中断して、素体をお作りに戻られることも可能でございます」
「用意してきているのでそちらをお願いします」
「かしこまりました」
素体となるデータを選択するパネルが表れるので、作製しておいたものを指定する。
実に作製時間四時間以上の力作である。メジャー片手にいろいろ計測して調整したのだ。途中、目を背けていた数値を目の当たりにして凹んだりもしたけど。
「……うけたまわりました。これから最終調整を行います。違和感を覚える部分がありましたらお申し出ください」
そう言われると同時に浮遊感が消え、様々な感覚が蘇ってくる。
大地に立つ感覚や、日に照らされて温まる体を吹き抜けていく風が心地よい。
手をにぎにぎしたり、その場で軽い屈伸運動をしてみるが問題なさそう。
いつの間にか目の前には大きな姿見のようなものがあり、裾の簡素な白のノースリーブワンピースを着た今の自分の姿を映している。
高いわけでもない身長、スレンダーな――いや、現実と変わらないものを見て楽しくない。
違いといえば、セミロングにした髪と瞳や肌の色である。作製時は黒髪黒目、黄の肌にしていたが、金髪碧眼で白い肌になっている。
「髪や肌の色がかわっていますが?」
「こちらの標準的な森人の配色・質感となっております、別のものをご指定いただくことも可能でございます」
「そうでしたか……」
森で暮らしているのに、こんな目立つ色していていいの?
……そうか、日を浴びなくて色素が抜けていったのかもしれない。はたまたファンタジーな進化の結果かもしれない、耳長いし。ツッコんではダメなのだろう。
でも気になったので、こう髪は萌黄色っぽくにして、肌は少し暗めにしよう。そう、目指すは木のようなカラーリングである。いや、木になりたいわけではないが。
標準的と言われたので、それはそれでは何となく面白くない気がしたからである。悪乗りした結果ともいう。
鏡を見ながら色を変えた髪を弄っていて、ふと気になったことがある。髪って伸びるのだろうか?
「これって髪の毛伸びるの?」
「異人の皆様は、実際に代謝が行われることはございません。ですので、専用のアイテムをご使用いただかない限り、髪が伸びることはございません。運営ショップなるところでご購入可能とのことです。
但し、こちらの世界を楽しんでいただくため、食事や汗を掻いたりということは可能ではあります」
「なるほど」
うん、代謝が無いのに汗を掻くなんて謎の生態しているね、異人さん。
まあ、あとは問題なさそうだし、これでいいか。
「出来ました。これでお願いします」
「こちらでよろしいですね?」
「はい」
「うけたまわりました。……以上、でキャラクターメイキングを終えますが、間違いございませんか?」
そう言われると、今まで設定した情報のパネルが現れる。
それを順に見てみるが、問題なさそうである。
「はい、大丈夫です」
「痛覚などの感覚の設定を変更されたい場合は、コマンドメニューを開いていただいて「設定」の中にある感覚にてご調整ください」
「コマンドメニューを開く……」
と、視界右下に何やら出てきた。「設定」「終了」「ヘルプ」とあるので、これがコマンドメニューなのだろう。そして「設定」を選べば色々な設定を弄れるわけか。
「コマンドメニューは思い浮かべていただいても開くことができますので、覚えておくと便利でございます。このような豆知識などは、「ヘルプ」の中にある「よくあるご質問」の一部として取り扱っておりますので、ご活用ください」
「へー」
「さて、この場で出来ることも終えました。このまま世界を旅立たれますか? それとも、一旦戻られますか?」
三十分くらい掛っただろうか。まあこのまま続けても大丈夫であろう。
「このまま続けます」
「かしこましました。それでは、この世界を存分にご堪能ください。マーガリン様の行く先に幸あらんことを願っております」
その言葉と共に、視界が暗転した――
お読みいただきありがとうございました。
5/10 誤字修正。
ようやく話中での初期設定終了。2話分くらいで終わる予定だったのに。
これで物語を動かせそうです(動くとは言っていない)
作品の設定も一緒に頑張らなきゃ……
需要があるか分からないけど主人公の初期ステータスを以下に載せておきます。
作中ではあまり表示等しない方向です。
年齢は異人さんにはありません。新陳代謝が無いから!
◆名前:マーガリン ◆性別:女
◆種族:異人(森人)Lv.0 ◆職業:見習い調理士 Lv.0
◆生命力(LP):85/85 ◆魔力(MP):104/104
◆肉体 9.68(11)
◆精神 15.73(11)
◆知能 14.25(11)
◆敏捷 12.10(11)
◆器用 14.52(11)
◆運勢 13.20(11)
◆スキル
言語・平人 言語・小人 言語・森人 言語・獣人
魔法言語Lv.0 話術Lv.0 調理Lv.0
2018/9/25 本文の一部表現や誤字等修正のため改稿。