#003
「森人でよろしいですか?」
「はい」
「本当に?」
「……はい」
イヴァンナさん、追確認の言葉を減らさないで頂きたい。余計な不安に駆られます。
「うけたまわりました。続いて、初期ボーナスポイントを各ステータス項目に分配していただきます。
各ステータスが元になり様々な行動に影響が及びます。
なお、ボーナスポイントは種族レベルが上昇することで少量ながら獲得できます。この獲得分につきましても同様に分配が可能です」
先程のパネルが森人のみが残り、ボーナスポイントとやらを振り分けることのできるであろう項目の横に「+-」が現れる。
項目は六つ、「肉体」「精神」「知識」「俊敏」「器用」「運勢」。
その横に二つの数値が並んでいて、数値の間に右向きの矢印があるので、何かしらの変化があって左の数値が右の数値になったのだろう。
ボーナスポイントは残り十ポイントらしい。
うん、分かるようで分からない項目と、よくわからない数値である。
「少し質問しても?」
「はい、どうぞ」
「各項目に十が並んでいたり、その右隣りに変化したような数値があったり、これは一体なんでしょ?」
「項目の左側にある数値は、異人としての元々の能力値を表しています。ボーナスポイントはこちらに加算されます。
右側の数値は、左の数値を基に、基礎種族による補正と、後ほどご説明致しますがスキルによる補正、職業による補正などを加味した、総合的な能力値となります。
各項目の影響については、項目を選択していただければ、簡単な説明をご覧いただけます」
「なるほど」
分かったような分からない説明を頂いた。
とりあえず一番上の項目を選択してみると、その説明のポップアップがでてきた。
「肉体:主に物理行動に影響を与える。生命力上限、物理ダメージの増減、所持可能重量上限など」。
詰まるところ、これが高いということは頑丈になったり、荷物もたくさん持てるということか?
ほかの項目も見ておく。
「精神」は「主に精神行動に影響を与える。魔力上限、魔法ダメージの増減、精神異常耐性など」。
「知能」は「主に技能習熟に影響を与える。スキルの発現/熟練上昇率/発動の短縮など」。
「敏捷」は「主に反応速度に影響を与える。スキルの発動/硬直時間、命中率、回避行動など」。
「器用」は「主に作業精度に影響を与える。生産における品質/作業時間、命中率、回避行動など」。
「運勢」は「主に確率計算に影響を与える。乱数帯の拡大など」。
なるほど、なるほど。
「お勧めの配分などはありますか?」
説明のおかげで、ちょっとは理解できた気もするが、どう配分すれば良いのか分からない。
「森人の場合、長所である高い精神とや知能を更に伸ばされてもよろしいですし、肉体を伸ばして短所を補うのもよろしいでしょう。
または、ボーナスポイントを残しておき、実際にこちらの世界で過ごされ、必要と思われるところに割り振ることも可能です」
「なるほど、この場ですべて分配しなくても良いのですね」
「はい」
ならば、それぞれを一つずつ増やして、残りは留保しておこう。玉虫色のような回答を得たので、実際に体験して足りない部分を上乗せした方がいい気がする。
「出来ました。これでお願いします」
「よろしいですか?」
「はい」
「うけたまわりました。続きまして、初期スキル取得となります」
ステータスを表示していたパネルが消えると、別のパネルが新たに表示される。
「スキルはこの世界でも肝になる部分です。
基本的に反復行動により発現、規定のスキルポイントを消費することにより、任意で取得が可能です。
取得後、所有している、または発動することにより、その補正が掛かる仕組みです。スキルポイントは主に職業レベルの上昇により獲得できます。
スキルには熟練度が設定されているものがあり、習熟することでその補正効果が高まります。
今回は特別に、基本的なスキル群から初期スキルポイント内であれば、自由に取得が可能です。なお、最低一つの言語を取得されることをお勧めいたします。
また、新しいスキル会得や職業候補獲得などのために、特定のスキル所有が必要条件になることがございます。
こちらも各スキルを選択いただければ、簡単な説明をご覧いただけます」
様々なスキルが並ぶリストを眺めながら説明を聞く。
「剣術」やら「槍術」、「魔法・火」「鍛冶」等々、かなりの数が並んでいる。この中から役に立ちそうなのを選ぶのは大変そうである。一応、分類毎にまとめられているのが救いか。
初期スキルポイントは二十ポイントらしい。一スキルの消費ポイントは大体、一~五ポイント。
「武術」「魔法」「生産」「言語」「便利」とあって、武術が十種、魔法が六種、生産が九種、言語が十種、便利が二十種。
便利カテゴリにまとめすぎでしょ、他の倍あるじゃないか。っと思ったら、「便利」の中も分類されているようで、「収集」「耐性」「特殊」などとあって、ちょっとホッとした。
「特殊」には、「健脚」や「鑑定眼」などに交じって、「美声」とかあるんですが、なに? 説明を見ると「声を美しく補正する。聴かせた相手を魅了することがある」とのこと。ナルホドネー。
きっと、前後にある「話術」や「演技」、「演奏」などと組み合わせるといいのだろう。なぜ基本的なスキルに入っているか不明ではあるが。
いや、問題はそこじゃない。――気になることは気になるけど、ここは置いておく。
流し聞いていたが、「言語」取得を推奨されていた事。そして、数ある言語スキル。「言語」には各種族や古語、魔法言語なんてものが含まれていて、説明もまんま「~で使われている言語である」とか書かれてある。これは確認せねばなるまい。
「すみません、言語を習得を勧めする理由は?」
「はい。言語はそれを有していると、その言語で書かれた文章を書いたり読んだりできます。また、同様のものを有している方との会話が可能となります。
自種族の言語はスキルとしては対象外となりますので、表示等除外されておりますが、問題なく使用可能です」
「……つまり例えば、平人と森人が居て会話する場合、平人が「言語・森人」か、森人が「言語・平人」を有している必要があるという事ですか?」
「その通りです。または、お互いが「言語・小人」などの共通した他言語を有していても、会話は可能です。但し、「魔法言語」での会話はできません。また、意思疎通を図るだけなら「肉体言語」でも可能です。
対応する言語を有していれば、読み書きや会話される際に自動翻訳されますので、特に意識される必要はございません」
異種族交流にはこちらでもハードルがあるのか。平人の多い町なんかに行くときには、これが無いと苦労することになるんだろうなぁ。自動翻訳機能あるのに言語の壁があるとか、こういうところか“不自由”という部分は。
初期スキルポイントは二十ポイント貰えているが、他種族の言語一つにつき二ポイントなので、三つ取るとそれだけ、六ポイント消費することになるわけか。
「肉体言語」は、「身振りで、意思疎通を図る言語。殴り合う必要はない」とのこと。身体言語じゃだめだったんだろうか。どうでもいいか、口で喋れるならそっちの方が楽でいいし。
あれ? 「言語・森人」もリストに載っている。
そういえば、異人とは、こちらの世界の人種と似て非なるものであったはず。森人であって森人でない。つまり――
「私の場合、基礎が森人であっても「言語・森人」を有していないと、こちらの森人の方と会話できない?」
「その通りです。異人同士であれば、基礎種族が異なっていても種族としては異人であるため、会話が可能となります」
「……了解デス」
思っていた以上に面倒くさい仕様のようであった。
住民との会話が成立しないのは遊び辛そうなので、その辺りの言語は押さえておこう。
残り十二ポイントか、あとはどうしよう……。
――悩むこと、十数分。以下の通りに決めた。
「言語・平人」、「言語・小人」、「言語・森人」、「言語・獣人」、「魔法言語 Lv.0」、「話術 Lv.0」、「調理 Lv.0」。
選んだものが抽出された確認パネルが表示される。
「Lv」は熟練度の目安らしい。言語関係を押さえるのにほぼポイントを消費してしまった。
ファンタジーらしく魔法にも憧れたが、イヴァンナさんに聞いたところ、魔法言語を覚えておけば、後々色んな魔法を使えるようになると言われたので、「魔法・〇〇」なら各三ポイント掛かるところを五ポイントの「魔法言語」をチョイス。ここまできたら、コミュニケーションが重要になってくるんじゃないかと同じく五ポイントの「話術」を押さえ。忘れかけていた本来の目的のため、二ポイントの「調理」を覚えて終了。ポイントを使い切ってしまった。
ボーナスポイント同様、スキルポイントも留保できるらしいが、まあ良しとしよう。
ちなみにそれぞれの説明文は、「言語・○○」が「○○間でよく使われている言語」、「魔法言語」が「魔法に関する言語」、「話術」が「住民との会話に補正が掛かる」、「調理」が「調理を行うときに補正が掛かる」である。簡潔である。
話術の補正が謎だったので、これも聞くと、何気ない通常の会話でも好意的に受け取ってくれるようになり、究めれば洗脳に行きつくらしい。何それ怖いである。意図的に行わなければ大丈夫らしいので、このままにしておくけど。
「これらのスキルの取得でよろしいですか?」
「はい」
「今回選ばれなかったスキルは、今後の行動如何によっては発現しない場合もございますが、本当によろしいですか?」
「はい」
「うけたまわりました」
……美声って、どんな行動をしたら発現するんだろう、いらないけど。スキルリストにあった理由も聞き忘れていた。まあいいか。
お読みいただきありがとうございました。
2018/9/25 一部表現や誤字等修正のため改稿。キャラクタ名変更:イヴァンヌ→イヴァンナ