第1話「平凡な日常」
転生してから約10年。
この国には古くからの言い伝えがある。『3歳で竜と友達になり、5歳で竜とともにゴブリンを倒す。15歳で一人前の騎士となる。』だ。
俺も生まれたての頃は竜騎士になり、チート転生者で世界を救って英雄に!とか考えていたが、そううまくはいかなかった。
冒頭にもある通り、俺の年齢は約10歳。竜と一緒にゴブリンを倒したことはなく、それどころか竜と友達にすらなれていなかった。
竜騎士になりたいと転生したばかりのころから考えていたが、絶賛落ちこぼれだった。チートハーレムどころか、転生前の世界の方がもしかしたらうまくいっていたのかもしれない。
朝からそんなことを考えていると憂鬱になってくる。ため息一つ付いてベットから起き上がろうとすると、ドアをノックして入ってくる女性がいた。
「おはようリーク。もう朝なんだから起きて、早く朝ごはん食べちゃいなさい。」
明るい声で俺に声をかけてきた母さんは、ずしずしと部屋の中に入り込んで窓を勢いよく開ける。開けた窓から入り込んでくる春風は少し肌寒いが、心地の良い香りを運んでくれる。
母さんと一緒に部屋を出ると目の前の食卓にはご飯が並べられており、既に父さんも座っていた。俺が来るのを待っていたようだ。自分の席についてご飯を見る。今日はベーコンエッグだ。母さんの作ったご飯はいつも美味しいのだが、このベーコンエッグは格別だ。前の世界と同じような味なのだが、分厚いベーコンがカリカリになるまで焼かれて、卵は黄身を突けば中からぶわっと溢れだす。この朝ごはんだけでもこの家に生まれて良かった。そう思えるぐらいだ。
「母さんの作った料理は最高だな!リークも母さんのように料理が美味しい人と結婚するんだぞ!」
父さんは ガハハ!と笑いながらでご飯を食べている。そんな父さんを見ながら母さんは少し拗ねたように
「私はご飯が美味しいだけなんですね!ご飯以外は何もできなくてごめんなさいね!」
と、父さんを困らせる。
父さんはおどおどしながら
「いや、母さんは綺麗だし、とても優しいし、言ったことはなんだってしてくれるし、それから…」
などと母さんを褒める。
母さんもそれで機嫌が良くなり、嬉しそうに父さんを抱き締めた。父さんもそれに応えるように左腕だけで抱きしめ返す。父さんの右腕は俺が生まれた時から既に無くなっていた。
「ごちそうさま」
そう言うと、ご飯を食べ終えた俺は食器を片してすぐに自室に向かう。このイチャイチャ空間からすぐに抜け出したかった。
父さんは古くからの言い伝え通り、3歳でドラゴンと友好を築いた。5歳でゴブリンどころか、一般の大人が5人かかっても勝てるかどうかわからないゴブリンリーダーを倒していた。7歳で竜騎士学校に入学し15歳で晴れて竜騎士となった。竜騎士となって8年後、この国は魔族に襲われた。父さんは国を守るため魔族タイガーバーンと死闘を繰り広げた。魔族が撤退した後、父さんは辛うじて生き延びることは出来たが、右腕と親友の竜を失うこととなった。その日から騎士をやめることを決意し、自然豊かなカヤックに移り住み今は木こりをやっている。
そんな父さんのことを俺は尊敬していて、また目標にもしている。そのため、早く竜騎士学校に合格したいのだが・・・・・・。
竜騎士学校は7歳からチャレンジする事ができ、遅くても12歳までに入学しなければならない。入学試験として3つの条件を提示され、全てにクリアすることが出来れなければ入学することが出来ない。その3つの試験は、まず筆記試験だ。転生者の俺は勉強に関してはそこそこ自信がある。小学校で習うようなことが大人で出来ないような世界だからだ。その部分はもしかするとチートなのかもしれない。次に実技試験だ。騎士たるもの、国や民を守るためには戦闘が出来なければならない。これに関しては努力をしている。テストが不合格になるような実力ではない。ソロでゴブリンを倒したことはある。竜がいないだけで。実力はある。しかし、最後の条件が俺にとっては克服しがたいものだった。それは何かというと『竜に乗れること』が条件だった。
何故か俺は竜に嫌われる体質らしい。幼い頃からなんども竜と接触しようと試みるが、竜の方から逃げられてしまう。生まれてこの方、竜に触ったことすらないのだ。当然、過去2回受けているが両方共竜に乗るという試験で落ちていた。こればかりはどうしようもないと思うのだが…。唸りながらも自室に戻った俺は、勉強机に向かって筆記試験の問題にとりかかった。