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約束の姫君  作者: めぐる
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略奪者とカナリアを読んでくださっているかた、ありがとうございます。

また初めましてのかた、初めましてめぐるです。

こちらはほのぼの王道系?を目指してるものです略奪者とカナリア以上に不定期更新になると思いますが、長い目で見守ってください

赤々と明るいほうをぼんやりと見ていると、隣にいた彼が肩に手を置いた。

「行こうか」

「どこに……?」

ここ以外、知らない。

どこに行けばいいのか、どこに何があるのかも全く知らない。

不安から先ほど着せられた少年の服の裾を握りしめる。

「遠いところ」

彼は明るいほうをちらっと見てからそう言った。

「とおいところ? どこ?」

場所なんて聞いたってわからないのに、それでも聞かずにはいられなかった。

隣の彼は少し考えるように顎に手を当てた。

「遠くて、そうだな…木があって人がたくさんいるところ。みんなそこでは笑って暮らしているんだ」

そんな夢みたいなところがあるのかと驚きながら、気になったことを聞いた。

「ごはんいっぱいたべられる…?」

お腹がすくのは辛い。

ぎゅるぎゅるお腹がなっても、口にできるのは一杯の水だけ。

それも飲んでしまえばあっという間で、すぐにお腹がなってしまう。

靴が与えられず、足が傷だらけになろうと痛みは我慢できるものだが、お腹がすくのだけは耐えきれない。

自分の細い手足には傷やあざがあちらこちらにある。

「……ああ、君がいっぱい食べてもまだまだいっぱい食べ物があるところだよ」

彼がしゃがみ込み、そんな自分を抱きしめてくれた。

彼の暖かい体温に目を閉じる。

しかし、すぐに体温は離れてしまった。

少し残念に思いながらも、彼を心配させたくなくて笑った。

「うん! いく!」

「……いい子だね」

今度は頭を数度、優しく撫で、フード付きのマントを被せた。

すっぽりと髪を隠したフードを少しだけ持ち上げて、彼を仰ぎ見る。

「うん、あたしいい子だよ!」

そう言うと彼はまた優しく今度はフード越しに頭を撫でてくれた。

「そうだ、もし僕たちが離れ離れになったら…… ……するんだよ。わかった?」

「……うん、でも……」

秘密ごとのように耳元で小さな声で囁く彼の声。

離れたくない。ずっと一緒にいたい。その思いを込めて、彼の服の裾を握った。

「でも、はなし。いいね?」

「……うん」

「離れ離れにならなければ、それに越したことはない…けどね、覚えておいて。それがいつか僕たちを引き合わせてくれるから。絶対に忘れちゃダメだよ」

「りおん……あたし」

離れたくないよ。その言葉を言う前に視界がぐしゃっと歪んだ。



(……暖かい。なんだか懐かしい夢を見ていた気がする。懐かしくて、涙が出そうな、そんな夢……ああ、そっか……)

「リオン」

閉じていた瞼を開けてゆっくりと周りを見渡す。

キイチゴの木陰から見る風景。いつもの昼寝場所は初夏の今、黄色に熟した実をつけている。持ち込んだ本を読みながら熟したキイチゴを食べるのは、ちょっとした楽しみなのだ。

いつもなら頬張って食べるキイチゴには目もいかず、考えることは命の恩人であり、幼馴染の彼のことだった。

「ねえ、リオン……私、約束の一番大切なところを忘れちゃった。あなたがいればすぐに訊けるのにね」

自分の言葉が耳に痛い。あの三人に聞かれたらなんて自虐的なことをしているのかと言われるかもしれない。それでも考えてしまう。

「もう、いないのね」

なんで自分の声がこんなにもさみしそうなのだろう。そんな馬鹿なことを考えてしまう自分がなんだかおかしかった。

「フィー! どこだー!」

聞きなれた声に木陰から腕だけ上げてこたえる。

「ここ~!」

声が聞こえたのかフィーを探していた声の主が木陰を覗き込む。

見上げると見慣れた大柄な体をしたレオと目があった。

「なんだ、またこんなとこいたのか。お前ここ好きだよな」

呆れたようにつぶやくレオを軽くにらんで見せる。

「あら、レオだっていつも湖の横の林の中で座っているじゃない」

そうレオだって暇さえあれば何時間も林の中にいるのは、ほかの二人もよく知っている。

フィーの指摘にたじろぐレオはその大きな体に似合わず、なんだかかわいらしい。

「べ、別にいいだろ! ほらっ!今日の昼飯の当番フィーだろ。さっき神父様が探してたぞ」

「えっ! それを先に言いなさいよ!」

神父様といわれて慌てて本を持って立ち上がる。

家事が壊滅的に出来ない神父様は今年四十路を迎えたのだが、生涯独身だと自分で困ったような顔で話していた。

「神父様に食糧、渡してないわよね?」

「当たり前だろ。神父様に渡したら食糧がもったいないことになる」

レオの言葉に思わず黙ってしまう。

料理を作ろうとすれば、食材が無残な姿で果てればまだマシであり、ひどい時は天井を焼かんばかり火の勢いで何度冷や汗をかいたことだろう。

「……よくあの人今まで生きてこれたよな」

「私とリオンが来る前は村の人にお世話になっていたみたいよ……」

あの人のダメっぷりには村の人たちもてを貸したくもなることだろう。

ああ、と納得したような、呆れたような声がレオから漏れる。

「それにしても珍しいな。フィーがリオンのこと話すなんて」

「……そう?」

普段、それほど意識していなかったが、言われてみれば確かにリオンのことを話すことはほとんどない。

フィーの顔を見て何か察したのかレオはそのことには何も触れず、「早くいかないと神父様が料理し始めるぞ」と言って、どこかへ歩いて行ってしまった。

「あーあ、私が今は一番年上なんだからしっかりしなきゃいけないはずなのに…」

だんだん年をとるごとに周りにおいてけぼりになっていっている気がする。

体は多いレオだってフィーより年下なのだ。

(リオンがいた頃は私、いつも甘えていたな……)

無条件にリオンに甘えていた。

「もうあれから五年になるんだ……」

口に出してそんなに経っていたのかと自分で少し驚いた。フィーの中ではリオンが出て行ったあの日のことが昨日のように思い出せる。

神父様が料理をするのを阻止すべく木陰からでて、ゆっくりと調理場のある母屋に向かう。

その間にもフィーの心はあの頃に馳せていた。


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