第七話 魔法の訓練
会話文多めです。
第五話目、第六話目に現在の年を追加しました。
673年です。
そして直樹達は次の魔法の訓練場に向かったのだった。
「俺はもう武器の訓練をしたくない!あの知らない間に後ろに回り込まれ尻を触ってくる感覚はただの恐怖でしかないんだ!」
「具体的過ぎるわ!」
宮本はずっと先程の訓練での不平、不満を言い続けていた。
「あーもう!わかった!わかったから!次からはもうしなくてもきっと大丈夫だろう?」
直樹は喧しい宮本をウザったいと思いながら訓練でスキルを手に入れた感覚がしたので、それは自分だけではないと確信しながら聞いた。周りの3人は頷き返した。良平だけ疑問顔だった。
それはそうであろう。4人は成長というよりも蓄積された過去の経験と言おうか。つまりVRMMOでの経験が訓練で目覚めたのだ。
何故転移の段階で目覚めないかと言うと、転移の段階では身体が一から構築されて召喚された。そのためその身体には経験が0だったからだ。いくら記憶で経験していようとも、行動などで手に入るスキルは実際に行動しないといけない。行動することによって、それが身体と記憶で結び付きスキルとなって昇華したのだ。
そしたら魔法のスキルが手に入らなかったのは?という疑問に行き着くが、こちらは単純で、直樹達がしていたVRMMOでは魔法はシステムが全て行っていたので自分で魔力を操作していなかったためである。
周りを確認した直樹がよしっ!と言ってから声をかけた。
「じゃあ、ステータス見てみようぜ!」
そしてそれぞれが歩きながら自分のスキルを見ていると…
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河内 直樹 年齢 16 性別 男
レベル:1
種族:人間 天職:魔法剣士
体力:187
魔力:33
筋力:38
敏捷:26
耐久:31
魔攻:34
魔防:27
属性 炎 風 無
スキル 鑑定Lv1 成長Lv1 統率Lv1(錬金術Lv1 調教Lv1 隠蔽Lv1 盾創造Lv1) 魔力操作Lv1 剣術Lv8 new!
エクストラスキル全言語翻訳
称号『異世界人』
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「「「「……っ!」」」」
4人が息を飲んだ。良平だけ密かにガッツポーズをしていて、周りを見ると自分だけが喜んでいたので困惑していた。そして誰も口が開けないままでいる中、直樹が破った。
「やばい…このままじゃ異世界が楽しめないかもしれない!」
「そこかよ!」「違うだろ!」「バカ!?」
「智哉、バカまでは言い過ぎだろ!いやだってあれだよ?折角普通に成長して、旅に出てワイワイしたかったのにさ…んで?みんなはどれくらいのレベルなんだよ?」
「フッフッフ聞いて驚け!俺は槌術Lv7だ!」
「あー宮本ゴメン、俺剣術Lv8だったわ」
「なにっ!おまっ早くそういうの言えよ!」
「んで?佐東と智哉は?良平は杖術が習得出来たとわかったから言わなくて大丈夫。むしろおめでとう」
「ああ…うん…はい…みんなはいいな…VRMMOやってたから強くてニューゲームみたいにできて…」
「良平がそげちゃったんだが…俺は短剣術Lv9。………二刀流は習得出来なかったけど…」
「ん?二刀流無理だったの?まあ、こっち来て初めての挑戦だったんだし仕方ないんじゃない?そんで良平ドンマイ~。そして俺は剣術Lv6と盾術Lv6かな」
「佐東が抜きん出てるな~ちくしょー」
「俺!最強!」
「ソダネー」「スゴイスゴイー」「ワーワー」「オメデトー」
「さすがにそれは酷くない!?俺が悪かったからそんな風に言わないで!」
そこで宮本が何かに気づいたように呟いた。
「俺達がこうやってスキルを取ってるってことは他の人もありえるんじゃね?」
「あ…その可能性もあるな…」
「いや、その可能性はないと思うよ。あるとしても動きとかのスキルじゃないかな。だって俺らのクラスは基本的にスポーツが得意で推薦入学してきた人や勉強が得意な人達だったし。だから結構普通?な俺達って結構睨まれてたんだよ。学校側がクラスの人数合わせに入れたってだけなのにね」
「ちなみに付け足すと学校に柔道部はあったが剣道部や空手部、弓道部は無かったはず」
「え、マジで?良平や智哉はいつ知ったんだよ?俺ら3ヶ月一緒にいて気付かなかったよ?」
「それは直樹達が他に興味を示さなかったからだよ…そもそも俺や智哉は部活出てたけど直樹達はサボってばっかりだったじゃん」
直樹達は5人とも部活をしていたのだ。直樹、宮本、佐東は卓球部に所属していて途中から幽霊部員になった。良平はサッカー部に所属していて、智哉はバドミントン部に所属していてしっかり部活に出ていた。まぁ、5人とも推薦などではなく普通に入学して入部しただけだった。
「いやーVRMMOにハマちゃって。テヘペロ☆」
「ウザイ」
「すんません…でも、智哉はVRMMOやってたけどお前やらなかったじゃんか!あんなに勧めたのに」
「悪かったよ。だって、部活やって勉強してたら眠くてそれどころじゃないんだよ」
「この真面目ちゃんめ」
「だから悪かったって」
「二人ともそれぐらいにしなよ」
「う…良平ゴメン…智哉は止めてくれてサンキュー」
「いや、気にしてないよ。むしろVRMMOをしとけば良かったなって後悔してるくらいだし。智哉ありがと」
「さとぉ俺達の存在感の薄さは…」
「言うな、宮本…」
自分達に重大だと思われる話をしている(宮本と佐東は話に交じれなかったが)と訓練場に着いた。
そこにはローブを着た美しい女性がいた。その女性は腰くらいまでの銀髪を手で弄りながらどこか憂鬱そうにし、遠い目をしていた。
そして女性は訓練場の入り口で入ってもいいのか悩んでいた5人に気付いた。
「入って来ていいわよ。あなた達5人が出来損ないの召喚者ね…ハァ」
「いきなり出来損ないはないんじゃないの?お姉さん?」
「お姉さんって呼ぶのは止めなさい命令よ。私は魔法師団団員のメリア=オズマルド。いい?わかった?」
「わかったよ」「「「わかりました」」」「……コクコクコクコク」
「そしてあなた達が出来損ないって意味だけどあなた達は非戦闘職なんでしょう?それになんの才能もないって聞いたわ。そんなあなた達は出来損ない以外のなんだって言うの?しかも出来損ないのあなた達の面倒を1ヶ月もの間、天才の私が教えなくてはいけないのよ?面倒ったらないわ」
「じゃあ別に1ヶ月も教えなくていいから、魔法のやり方だけ教えろよ」
直樹はさすがに腹が立って来たので苛立ちが隠せない声で言った。出来損ない、出来損ないと何度も言われるのだ怒らない方が珍しいだろう。
「それが物を教わる態度?」
「すみませんでした!教えて下さい!」
だが、さすがに魔法を教えてもらえないのは勘弁だったので掌を返すのは早かった。
「うるさいわねぇ…まぁいいわ。あなたが言った通りに魔法のやり方だけ教えてあげるわ」
「「「「よっしゃーーー!!!」」」」
「ほっっっっんとうるさいわね!静かにしないと教えないわよ!」
…………シーン
「切り替えはやっ!う~ん調子が狂うわね……それじゃ教えるから良く聞きなさい」
「「「「はい!」」」」
そうして魔法の訓練が始まった。
「まず、魔法の発動に必要なのは自分の体内にある魔力を把握することよ。これが出来なければ魔法を使えるようにはならないわ。それが出来れば魔力操作というスキルが取得できて魔法は発動するわ。ただし魔法は基本詠唱をしないと発動できないのよ。例外として無詠唱というスキルを持っている人はその名の通り詠唱が無くても発動できると言われてるわ。そして魔法にもランクがあって初級、中級、上級、超級、帝級、神級の6つがあるわ。まあ帝級や神級ができる人なんてここ数百年いないようだけどね。大体こんなところかしら。何か聞きたいことはある?」
「実際に魔法を見てみたいな」
「じゃあ簡単な魔法だけど、
───土よ、我に集い、槍の形と為して、敵を貫け───アースランス!」
「「「「おぉぉぉ!!!」」」」
「スゲェーなメリアさん!」
「こ、こんな魔法誰でもできるようになるわよ!」
「そうなのか~。じゃあありがとうございました!」
「「「「ありがとうございました!」」」」
「え?えぇそれじゃあ頑張りなさい」
「「「「はい!」」」」
戸惑いながらもメリアは訓練場から出ていった。ただ彼女が「彼らに教えなくてもしっかりできるかしら…」などと呟きながら出ていった後ろ姿を見えなくなるまで直樹達はジーっと見ていた。
そして姿が見えなくなり直樹が口を開いた。
「よし!これで俺達は自由な魔法訓練ができるな!」
「うん。ただやっぱりメリアさんが言っていたことと魔法書に書かれていた内容は違ったね」
「ああ、なんか無詠唱がスキルだけ見たいに思われてるな…」
「宮本の言うとおりだけど、まあまずは魔力操作を取得するところから始めようぜ。覚えたら魔法をイメージして発動って感じで!」
「「「「おう!!」」」」
「返事しといてなんだけど、直樹はどうやって魔力操作できるようになったの?」
「ん?単純なことだけど魔力があるって確信出来てたからそれを動かそうってずっと意識してた」
「ありがと!」
そして各々が適当な場所散り、立ったり座ったりしながら魔法の訓練をしていった。
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魔法の訓練が終わり夕飯を食べに直樹達は食堂に来ていた。
「あー、気持ち悪い…」
「俺も…吐きそう…」
「もうダメかも…うっぷ」
「………………」
「おい!佐東が座りながら気絶してる!」
直樹達は全員魔力酔いの状態になっていた。
あれから、それぞれに別れて練習していたのだが、魔力操作だけでも魔力を使うためまず魔力が低い智哉と佐東が厳しくなり脱落した。
その後は直樹が一人だけ魔力操作を覚えていたため、より強くイメージをし、炎だと恐かったため風でカマイタチを作ったのは良いがそのまま魔力が無くなりぶっ倒れた。
良平と宮本は魔法職ということもあり早々に魔力操作を覚えたが、直樹の姿を見ていなかったため、同じ運命を辿ったのだ。良平の場合は炎と氷の矢を作り2本発射、宮本はそれを見て光の矢を2本発射した。その瞬間二人とも力が無くなったように力尽きた。
そして一番初めに倒れた智哉と佐東が起きて他の3人も起こし食堂に向かったと言う訳だった。ちなみに佐東はまだ体調が完璧でも無いのに3人を起こそうとするときにイタズラをしようとしていたため智哉にお灸を据えられていた。それが気絶の原因なのか、それとも魔力酔いが原因なのかは本人しかわからないことだが…
~メリアside~
メリアは直樹達が訓練場を出ていった後、自分にかけていた魔法を解いた。
「彼らは一体何者なの?本当に非戦闘職なの?それにしたって、もう魔法を使えるのが3人、それも無詠唱だったなんて…」
彼女は入り口から出て行った後、すぐ引き返してきた。口では面倒だなんだと言っておきながら本当は心配だったのだ。それに彼女も騎士達と同様に王女から5人の報告をするように言われていた。
だが、戻ってきて見た光景はなんだ。出来損ないと言われていたはずなのに、たった数十分やそこらで魔力操作を覚え、挙句の果てには無詠唱で魔法を発動するなんてありえないことまでやらかしたのだ。
確かに直樹達は魔法を発動しただけで倒れるほどに弱いがまだまだこれからなのだ。たった1日で見せた才能は果てしなくメリアと比べて高いものであった。
「私はどうすればいいの?本当のことを報告するべきなのはわかっているけれど、彼らの魔法に対しての気持ちは紳士だった…あ、そういえばまだ彼らの名前すらも知らない…」
メリアは今になって自分しか名前を言っていないことに気付いた。直樹達も魔法に興味があり過ぎて自己紹介を忘れてしまっていた。これからのことを考えたメリアは何かに気付いた。
「ああ、悩む必要なんて無かったんだわ。フフッ。今のままなんて報告しようが無いもの」
何か憑き物が落ちたかのようにメリアは笑っていた。そしてメリアは明日からのことに思いを馳せながら訓練場を後にした。
~メリアside end~
夕飯を一応は食べて、ゆったりしていた5人の元へゲラゲラ笑いながら3人がやって来た。言わずとも知れたバカ3人組である。
「おーおー、良くみれば雑魚共じゃねぇか、ヒャハハハ」
「なんだー?まだいたのかよ使えねぇーのに居候たぁいいご身分だな、ヒヒヒ」
「知ってるか?俺達もう剣術のスキルを手に入れたんだぜ?出来損ないのお前らなんて速攻で斬り殺せるんだよ。わかったかカス共、ハハハ」
「(こいつら何をしに来たと思う?)」
「(多分、いじめに来て自分達の力を見せつけたいんじゃないかな?)」
「おい!お前らなにそこでコソコソやってんだよ。あぁ?」
「(なんか絡み方がどこぞのヤンキーみたいなんだが…)」
「おい黙ってんじゃねぇよ!お前ら殺されたいのかよ?」
「いやいやそんなことはないよー?」
「なんだお前の気の抜けた返事はよぉ!」
「てめぇ喧嘩売ってんじゃねぇだろうな?あんまし舐めた口聞いてっとマジでシメんぞ!」
「うるさいぞ!何事だ!」
直樹達が相手に困っているとそこに勇者の一条がやって来た。
「君達は…なるほど、横山君達は明日も訓練があるのだからもう部屋に戻って休んだほうがいいんじゃないかい?予想以上に訓練はキツかっただろう?」
「チッ…仕方ねぇ、今度会ったときはお前達をぶっ飛ばすからな。覚えてろよ!行くぞお前ら!」
そう言って3人組は苛ついた足音を隠さないまま食堂を出ていった。
それを見届けてから一条が話しかけてきた。
「君達も君達であまり問題を起こさないでくれ…」
「なんだか大変そうだな。すまなかったよ。そしてありがとう」
「ああ、どういたしまして。今は色々クラスメイト達が自分の力に酔ったりして本当に大変なんだ…気を付けてくれ」
「ああ、今度から気を付けるよ」
少し話をしていると食堂の入り口から山上が直樹達、特に一条を見つけると急いでやって来た。
「ああ!輝!先に行ったと思えばここで何してるんだよ?」
「ごめん健人。まあ色々あったんだよ」
「どうせ揉め事の仲裁とか何かだろう?」
「そんなもんさ。それではまたね河内君達」
「ありがとな一条!」
一条達はいつもの自分達の席に行きそこに女子メンバーもやって来て食事を始めた。
「今日もう疲れたし風呂行って部屋戻って、軽く練習して寝ますか~」
「そうしよう…」
「それがいい」
「…………」
「ねぇ、佐東が未だに起きないんだけど?」
智哉が起きない佐東を無理矢理起こして、風呂に入りに行き、それぞれの部屋に戻って訓練をしてから床に就いた。
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