第五十六話 懐かしい食事
そんなに多くはなかった…
残された横山は襲いかかってきた殺気が消され動けるようになり、舌打ちをして宿を出ていった。
直樹達はそれから普通に受付でアンリと会い少し話をしてから前の部屋が空いていると聞いたのでその部屋と追加で2部屋借りてそれぞれの部屋に向かった。
アルフィンとビビの部屋は3階の左側の部屋だ。階段から順にアルフィン、ビビとなっている。
部屋に着いて荷物を置いたら(言うほどの荷物は無い)全員で食堂へと向かった。その際に直樹達の装備も外し、普段着になった。
直樹は赤のシャツに、黒のズボンだ。ただ真っ黒ではなく赤のラインが縦に2本入っている。
諒平は黄色のシャツに、グレーのズボンだ。グレーのズボンには黄色のラインが縦に2本入っている。
宮本は青のシャツに黒のズボンだ。ただ黒のズボンにはラインがなく無地だった。
佐藤は上下黒で真っ黒だ。ラインがないため本当に真っ黒だった。
智哉は緑のシャツにベージュのズボンだ。これも無地である。
それぞれのシャツの色が違って5人いるが戦隊ものを意識したわけではなかったか。同じ店で買った服なのでほぼ同じ型に見えるが意識はしてない。ただそれを選んでしまっただけだった。
アルフィンやビビの服は何かと言うと2人とも直樹達から服を借りている。基本は制服だがずっとという訳にもいかない。だから直樹達の中から身長が近い人のを貸すことにしたのだ。
アルフィンは直樹と身長が近かったので直樹から。ビビは宮本と身長が近かったので宮本から。ビビに男物の服でいいのか?と聞くと「寧ろ普段が男物の服だから安心する」と言っていたのでそうなった。
食堂に着き空いている席に座った。まだ時間的に冒険者達が帰ってくるには早い時間帯だったので席は結構空いていた。
席に座り料理をアンリにお願いし少し落ち着いてから直樹が聞いた。
「そもそも何で横山がこの宿にいたんだろうな?」
「さぁ?そもそも他のクラスメイトが何処にいるのかすらわかってないじゃん」
「その通りだな…みんな王城にいるのかと思っていたが…」
宮本がそう言ってビビの方を見た。ビビ、木村菜々も同じクラスメイトだったから見たのだがその本人は全くの無関心だった。
「他の人の事なんて知らないよ。自分の事で精一杯だったし。だって直樹君達が旅に出た後からはみんな自由に行動し始めちゃったんだよ?」
「自由に行動ってどういうことだ?」
ビビの言ったことに疑問を持った直樹が訊ねた。まるで直樹達が旅に出たのが悪いと言われているようだったからだ。
「お前達が悪いんだ!」と言われても直樹達からすれば「それで?」と言えるのだがそれでも一応自分達にも責任があったぽいし聞いておこうと考えた。
「みんな、直樹君達が本当に旅に出るとは思っていなかったんだよ。だけど本当に出ていっちゃって、すると自分も魔王討伐じゃなくてもいいんじゃないか?と思うのは解るよね?それが起きちゃったんだよね。それで直樹君達がいなくなった後はそれぞれが自由に動くようになったわけさ。一条君達も止めようと説得してたけど失敗しちゃったんだよ」
それを聞いて直樹達は逆に納得してしまった。学園では一条から熱烈な勧誘を受けた理由がわかったからだ。一条は仲間が減ってしまったから新たな仲間が欲しかったのだろう。だからあそこまで勧誘を続けた訳だ、と。
しかしそれが分かったからと言ってこれから直樹達が協力するのかと言われても答えはNOだが。
「まぁ、自由に動きたいのもわかるぜ。ただそうか。それならさっきの横山は冒険者になったのか?」
「多分この宿にいるってことはそう言うことなんじゃないかな。自分達が旅に出たから分かることがあるけど、あのまま王城で暮らしていた方が大半の人は楽だと思うけどね……」
良平の言葉に直樹達は頷いていた。けれど直樹達の中の1人としてそのまま王城で暮らすという選択を取る人はいないだろう。それぞれがこの世界の面白さや楽しさを見出だしてしまっている。
それぞれがと言ってもこの5人は冒険に楽しみを見出だした。加えていうならばこの5人で冒険をということになるが。
そんな直樹達だからこそ他のクラスメイトの考えも分かるが、それに対しての逆の考えもあった。それは約1年間街の外に出たから分かったことだ。
それは───この世界は甘くないって事だった。
日本で暮らしていた直樹達は平和だった。死が隣にあるなんてことは無い。いや、交通事故などを考えるとあったのだろうが、日本では死を考えたことはなかった。
だがこの世界は別だ。常に死が隣にある。いつ、どこで死ぬのかなんてわからない。直樹ですら1度死んだのだ。この世界の命は軽い。それが分かった。
それが最近外に出たクラスメイト達に分かるか?と聞いても分からないだろう。経験しなければ分かり得る筈もない。今まで死なんて考えたことがあるわけ無いのだから。
だからこそ直樹達は王城で暮らしている方が良いと言ったのだ。それを他の人に言っても意味は無いのだがただそう言いたかった。それは自分達が1年間苦労してきたから。
始めからチートと言えるスキルはあったし、ステータスもあった。魔法も使えた。だがそれだけだ。VRMMOで培ってきた動きなどはあるがそれでも生きている者を殺したことはないし、野営だってしたことはない。お金だって最初に貰った金があったがその後は自分達で稼いで来た。洗濯なども出来ないから魔法を編み出した。魔物にやられて体に穴が空いたこと、腕が取れそうになったこともある。直樹達も自分達の能力で悠々自適な生活をしてきた訳ではなかったのだ。
直樹はそういうことを思っていたが、言っても仕方が無いのは理解しているのでその場で軽く息を吐き出し、話の続きをすることにした。
「大体どれくらいからみんな王城から出て行ったんだ?」
そう聞くとビビはうーんと軽く唸ってから答えた。
「大体は炎の月だね。私もそうだったし。それ以外はその後からかな。いなかったからわからないけど……」
「なるほどな。だからか。今まで見なかったのは。それにもしかしたら王城で残っている奴はいると……」
直樹は今まで出会わなかったことに納得した。それまでここで暮らしていたので横山に会わなかったのは何故かと考えていもいたのでその謎が解けた。
王城で残っている人がいるかもしれないと分かり、その人達はどうするのか考えたが、自分が考えても意味が無いかと思いすぐに止めた。
そうやって話ながらいると料理が出来上がってきた。そして全員に料理が行き届いたのを確認してから全員で食べた。
「「「「「いただきます!」」」」」
それからは暫く無言での食事が続いた。直樹達は2ヵ月でも懐かしく思えて、ただ食べることに全ての意識を向けた。
そんな5人を見たアルフィンとビビは微笑ましそうに見ていたとか。
そして食べ終わって、
「「「「「ご馳走さまでした!」」」」」
そうして直樹達は話し始めようかと思ったときだった。
「よう!お前ら!元気してたか?」
「「「「「マスター!!」」」」」
宿の受付の方から食堂に向かってテッケイルが歩いてきた。それを見た直樹達はテッケイルとの感動の再会だと言うように走って飛び込もうと───する筈が無かった。
「『纏』」
「「「「「『纏』」」」」」
それからは謎の攻防が始まった。
まずは直樹が先陣を切って突っ込み、テッケイルが正拳突きを繰り出すがそれを直樹は半身ずらして躱す。そしてテッケイルの懐に入った瞬間に顎に向かってアッパーをするがテッケイルの左手に防がれてそのまま外に投げられ周りに被害なく着地した。そして詰め寄るかと思いきや直樹は動かなかった。
テッケイルは投げ飛ばした直樹を見ずに次の相手となる良平に目を向けた。そこからは直樹と同じ様に、攻防をして投げ飛ばされて終了し、その後は宮本、佐東、智哉と続き全員が終わってから全員が構えを解いた。
「お前ら練習は怠って無いようだな。前よりも強くなったか?」
「そりゃ当たり前だろ。俺達が前のままだと思ってたら大間違いだ」
「マスターとの一戦はある種の楽しみでもあるから、戻ってきてから一番の楽しみに感じるよ」
直樹がテッケイルの言葉を返し、智哉が思ったことを告げた。智哉が言ったことは5人全員に共通していたので代弁したようなものだった。
「はっ。言うじゃねぇか。まだまだ負けるわけにはいかねぇけどな。ハッハッハ!!」
「俺達が身体強化魔法を使ったら勝てないのによく言うな」
「う、うるせぇ!体術だけならお前らにまだ負けねぇんだよ!!」
佐東が正面切って言うとテッケイルは顔を赤くしムキになって言い返してきた。それに反応する者はなく、みんなやれやれと首を横に振るだけだった。
それを見てテッケイルはまた怒りだし、最終的にはテッケイルの妻テレサが出てきて収まった。
だが状況に全くついてこれない者もいた。
「何だこれは?」
「さぁ?」
アルフィンとビビはただ黙って見ていることしか出来なかった。
次回の更新は3月1日の20:00頃を予定しています。




