第四十九話 黒幕
日が落ち夜になろうかと言うときに直樹の叫び声が響いた。
騎士達に訊ねると至極真っ当な理由であった。
自分達と同じ顔をした人を抱えている。良平に至っては女子、直樹は皇子も抱えている。登場は人を抱えたまま音も余り立てずに屋根から降りてくる。
これらから直樹達は誘拐犯や犯罪者と疑われ拘束されたと言うことだった。
すぐにアルフィンが違うと説明を行い、直樹達も文句は言ったが抵抗はしなかったので騎士達の勘違いだったことが判明し、直樹達は謝られた。
「ふぃー。アルのお蔭で助かったわ」
「お互い様だ」
「いや、でも学園への不法侵入はマジで助かったけどな…」
直樹達の説明をするさいにどうやって、学園に入ったのかを聞かれたときは焦った。その時はアルフィンが気転を利かせアルフィンからの指名依頼だったと言うことにしてくれたのだ。直樹達がギルドカードを見せAランクだと騎士達が分かってからは話がトントン拍子に進んでいった。
その事に直樹達はお礼を言うと、
「ゆ、友人を助けるのは当たり前のことだろ!!」
「フフ、そうだな」
アルフィンが照れて顔を赤くしながら叫んできた。直樹はそれを見て微笑ましく思いながら見ていた。
現在直樹は騎士の詰め所の仮眠室にいる。これは騎士達が今晩の宿を探すには遅いという理由と、皇子に何かあったときに近くにいる方が守りやすいとのことだ。直樹達も特に反対する理由も無いので従った。他のメンバーは良平がビビの様子を見に行くといい、宮本と佐東は少し考えたいことがあると言って別々に出て行き、智哉は仮眠室に一緒にいた。
そして落ち着いた今直樹は考え事をしていた。
それは直樹達が連れてきた人のことだ。直樹が連れてきた偽直樹は死んでいる。また、他の宮本、佐東の偽者に関しても死んでいる。この3人は直樹達3人が殺したのだ。智哉の方は捕まえたときは生きていたらしいが今は息がない。自害したと考えていいだろう。
覚悟は決めていたので後悔はしていないがよく日本のニュースなどを見ていると犯人が言うように、「カッと来て、つい殺してしまった」というのが分かった。力があるので尚更だ。今となってはその場でもう少し冷静に考えていたら殺さなかっただろうと考えられる。これは今後の課題になるなと思い、精神的な疲れも一緒に出てくれと願いながら長い溜め息を直樹は吐いた。
「んで、ビビはどうなってんだよ?」
「ビビは偽者達を元の顔に戻してからは牢屋でずっと蹲ってるよ」
直樹が部屋の外から帰って来た良平に聞くと、良平はただ淡々と返した。
「今後どうするよ?学園には明らかに居づらい雰囲気が漂ってるんだが…」
「そうだね…。それに俺達を狙っている人がいるってことでしょ?しかも召喚者を奴隷にすることが出来るって言ったら、王族しかいないよね…」
良平が確信はないけど、と最後に言いながらそう伝えてきた。ただ良平が言っている事は、それさえあえばそこそこ納得が行くのも確かだった。
「あの王様が俺達にそんなことするか?」
「直樹。あそこにいる王族は王様だけじゃないよ。もっと俺達に恨みを持ってそうな人がいたじゃん?」
部屋の端で話を聞いていた智哉が混ざってきた。智哉にも先の良平の話に思うところがあったのだろう。良平と智哉は既に答えが出ているらしい。直樹は思い出すように考えるが出てこなかった。
だが、この部屋にはもう1人いる。その1人が答えた。
「クリスティーナ=ロゼフォール=ラスウェル王女か…」
アルフィンの顔には苦々しさが含まれていた。過去に何かあったのかもしれないと良平と智哉は思った。直樹はその名前を聞き「ああ!」と思いだした。
「あの性悪王女か!あいつならやりかねないな!!」
「「「ブフォ」」」
直樹が盛大に悪口を言った。それを聞いた3人は笑うのを我慢しようとしていたのだろうが我慢できずに噴いてしまった。
「直樹、それは正直すぎるよ」
「誰かに聞かれたらどうするのさ!」
「バカだ!バカがいるぞ!」
「そんなに笑う必要ねぇだろ!思ったことを言っただけなんだからよ!」
3人の笑い声が響いた。笑われた直樹はムキになって言うと3人はより笑い先程までの暗い雰囲気が明るくなった。
笑いが収まり良平が1度咳払いをしてから話を続けた。
「個人的には、王女をどうにかして罰を与えたいよね。ビビは今回が初らしいし奴隷にさせられての命令だったから大目に見てあげたいんだけどどうかな?」
「それでも他国の皇族を襲ったんだぞ?多分何年かは牢屋暮らしじゃね?」
直樹が冷静に言うと良平は「そうなんだよね…」と呟いて考え始めた。アルフィンはそれを聞いてハッとした表情になり、3人に伝えた。
「それは何とかなるかもしれないぞ?」
「何?どうやって?」
「魔王討伐。一条達に従うという条件ならば何とかなるかもしれない。あいつもお前らと同じ召喚者何だろう?ならばステータスも一般人よりは高いからな。ミスミス捨て置くような真似はしないだろうさ」
「「「それだ!!」」」
そうと決まれば直樹達の行動は早かった。王女にどうやって罰を与えるか。ビビをどう説得するか。などなど話し合い、まずは行動に移せる範囲から始めることにした。
行動をするころには宮本と佐東がいつも通りの表情で戻って来て参加した。所々に土などが着いていたが直樹達は何も聞かずにいつも通りに接した。
「まずはビビに会いに行って説得からだな。あと、『隷属の首輪』を取ってやんねぇとな」
『隷属の首輪』は闇属性の魔法で取ることが出来るらしい。それはアルフィンが言っていた。帝国では奴隷制度がまだ残っているので知っていたらしい。隷属は呪いなので闇魔法を使うので佐東にお願いした。
「フッ、任せとけ!」
上から目線に腹が立ったが今回の要は佐東なので誰も何も言えずにグッと手を握ることしか出来なかった。
部屋番の騎士に軽く声を掛けて鍵を貰ってからからビビがいる牢屋の前に向かった。
前に着くとビビが誰が来たか見るために顔を上げたが直樹達だとわかると顔をまた下げた。
「ねぇ。協力しないかい?」
良平が優しい声で話し掛けると、顔を上げたがまだ警戒していた。
「協力?もう死だけを待つ私に何をすれって言うの?」
「君の条件付き自由と『隷属の首輪』を取ってあげるから君は俺達に誰が黒幕だったのか教えてくれないかな?」
「条件付き自由?『隷属の首輪』を取るって?何をバカなことを言ってるの?そんなこと出来るわけ無いじゃない!!」
「条件付き自由っていうのは君が魔王討伐に参加することだね。つまり一条達と共に行動する。『隷属の首輪』に関しては闇魔法でどうにか出来るらしいからね。どうだい?」
あくまでも冷静に、相手に信じてもらえるように良平は語りかける。決して早く同意しろ!とか心の中で思っていてもそれを表情に出すことはない完璧なポーカーフェイスで語りかける。
ビビはそんな良平の提案に頷いて良いのか?と迷っていた。しかし、自分が取れる選択が少ないのも理解していた。だからもうどうにでもなれ!というヤケクソな気持ちで言った。
「出来るんでしょ?じゃあいいよ。協力してあげる」
直樹達は先程の佐東の上から目線を思い出し腹が立ったがなんとか我慢した。
そして良平が佐東を牢屋内に入れて首輪を取るように頼んだ。
佐東はビビの首輪を触り、まずは魔力を通した。それで内部がどうなっているか、魔力の通りはどれ程か確認してから魔法を使った。魔法名などない。この場で、イメージだけで創ったからだ。だがそれは上手くいったようでパキッと言って首輪が外れた。
佐東はそれを手に持ち直樹達の元に、ドヤ顔で戻ってきた。直樹達は殴りたい感情を我慢できずに佐東の首根っこを掴み、牢屋の奥の方に向かった。良平とアルフィンを残して。
「ちょっと待て!!今回は俺の大活躍だっただろ!?」
「態度がウザい!」
「表情がウザい!」
「顔がウザい!」
「最後に言ったの誰だ!?顔がって俺がウザいみたいじゃん!」
「「「その通りだよ!!」」」
「アビシッ!!」
佐東は直樹達の足元でピクピクしている。それに比べて直樹達の表情はいつも以上に爽やかになっていた。
「ストレス発散できたなー」
「佐東を殴るのが一番ストレス発散になる」
「2人共そんなこと言ったら佐東が可哀想じゃないか。そこはほら、佐東って物理的な癒しキャラだよねって褒めなきゃ!!」
智哉が言い換えているようだが、それは褒め言葉かどうかは別として、直樹と宮本は繰り返し呟いていた。
「物理的な、ね…」
「物理的な、か…」
「「物理的な癒しキャラだよね!!」」
「ち、が、う……」
最後の言葉は誰にも届くことが無く直樹達は良平の元に戻った。佐東はもちろん引き摺って行った。
ビビの牢屋の前に着くと話が終わっているような雰囲気だった。
「どうだ?終わったか?」
「大体ね。しっかり黒幕が誰か教えてくれたよ」
「んで誰よ?」
「王女」
「やっぱりかぁー。王城に乗り込むか!」
「まぁまぁ。今日はこれくらいにして明日にしよう?もう夜遅いよ?」
「それもそうだな。あ、そうだ。ビビは今回が初の仕事で良かったんだよな?」
「そうだけど…。それが何?」
「いや、それならいいんだ」
そう言って直樹達はビビに「また」と言って仮眠室に戻って明日に備えた。
次回の更新は2月18日の20:00頃を予定しています。




