第三十六話 ダンジョン前にて
~674年、水の月、第22日~
今日はSクラス全員でダンジョンに潜るために朝にダンジョン前で集まっていた。
直樹達はアルフィンと供にそれなりに早めに来たのでゆったりと話ながら他の人が来るのを待っていた。
「やっぱアルは除け者か」
直樹が笑いながらからかうように言うと、アルフィンも言い訳するように言い返してきた。
「いや!これは仕方無いことだったのだ!俺の身分がちょっと高過ぎて他の人が萎縮しただけでだな。俺が悪いかと言うと全てが悪いわけじゃないんだぞ!」
「うん。そだねー」
「お前から言っといて何だその適当具合は!?」
「今回の班分けがアルフィンから聞いた通りだとすると、アルフィンが全て悪いかと言うとそうでもないんだよなぁ…」
良平が面倒臭そうに呟いた。それも当然であろう。今日、明日の『グオノット』の仕事は生徒の保護だ。今回は『グオノット』に依頼、という形になった。それで直樹達の単位は大丈夫なのか不安になってマリアに訊ねたところ、
「Aランク冒険者で戦闘の単位が最高じゃなきゃ他の生徒の単位が酷いことになるだろう」
と言われてしまった。その為普通に依頼としたらしい。生徒でもいいのでは?と思うかもしれないが、そうなった場合こちらの命令を聞かなければいかなくなるし、何よりもそういう強制は嫌いだし、何よりもお前達がサボった時には強いやつがいなくなり大変だとマリアが言った結果、依頼に落ち着いた。
「何で班を適当に寄せ集めやら、貴族やら、平民やらで纏まっちゃったかな。もっと混成にするとかあったでしょ…」
「智哉の意見には賛成だな。絶対にパーティの連携が上手くいかないだろ」
「俺達はそんなお守りをしなくちゃいけないがな…」
班分けは本当に適当だったらしい。らしいというのはアルフィンから聞いているだけだからだ。その班分けも直樹達がいない昨日に行われていたのでアルフィンが夕食時に教えてくれたから知った。
班分けの内容は、Sクラスは23人いるが、直樹達が抜けると残りは18人で、そこから一条達が抜けて14人となる。そうしたら他の人は除け者にされないように周りの人と組み始めると、男子4人のチームが1つと女子が5人と4人のチームが出来上がった。
しかしよく考えてみて欲しい、男子4人、女子が5人と4人という人数を。誰か1人足りないんじゃないかと。初め直樹達も計算してみて「ん?」となった。だがその除け者にされた奴がアルフィンだと知った時は、それでは仕方がないだろう、と考えることができた。
なにせアルフィンがダンジョンで怪我をした、死んだとなったら仲間である自分達にどんな罰が来るか分からない。アルフィンはこれでもテラーブル帝国の第一皇子だ。だから誰もアルフィンと同じ班にはならなかったというよりもなれなかった。
そうして直樹達が話し合って憂鬱そうな気分でいると遠くに人影が見えた。
「んーっと、まず一番早いのは男子チームか」
「男子チームって安直すぎない?」
「じゃあ何て言えば良いんだよ。良平は良い案あるか?」
「無いね……」
「だろ?」
「正直それ以上に酷いのしか思い浮かばなかった…」
男子4人の班は委員長のキルロを筆頭に、委員長と同じ平民であるロー、ラスウェル王国男爵家のセリヌッス=グールパゴ、狼の獣人のガルロという異色のメンバーだった。
これは余り者と言ったらあれだが実際に残りの男子で組もうという話になっていたらしいので、余り者で間違いは無かった。ただ存外仲は悪くないようで楽しげな雰囲気で話あっているのが見てとれた。直樹達が話に加わろうとするとおどおどされるので話しかけれないのが残念である。直樹達も早く仲良くなりたいと思っているのだが切っ掛けが無いため難しい状態だった。
次に来たのは少々戦闘には派手な装備の女子だった。
「女子5人ってことは貴族チームか」
「あれはなんだ?何しに来たんだ?」
「あいつらにとってはあれが正しいんだろう。俺達の知ったこっちゃない」
「宮本も佐東もそう刺々すんなって」
「でもあれはなぁ?」
「無駄が多いぞ」
直樹はやれやれと言った感じで肩をすくめた。
こっちの女子5人は、貴族チームと言われた通りに貴族とその従者で構成されている。ラスウェル王国伯爵家のリードラ=ドレイトル、ラスウェル王国侯爵家アンリエッタ=フリード、その従者ビエンタ、テラーブル帝国伯爵家ミレイヌ=ボーディング、その従者レティスとなっている。
アルフィンがいるように他の帝国貴族がいたとしても可笑しくないだろう。ラスウェル王国とテラーブル帝国は同盟国なので他クラス、学年にも勿論いる。交流があるわけなのでまだ少ししか経っていない時期でも仲良くなれたのだ。
そしてそれから少しして女子4人が走ってきた。
「頑張って走ってるね」
「人が集まってるから遅れたと思ったんだろ」
「先生はまだ来てないけどね」
智哉とアルフィンが話していた。
こっちの女子4人はビビ、平民のシール、エルフのトト、兎の獣人のソルと色々な種族がいる班だった。
「う~ん、この世界の女子、女性は素晴らしいな」
直樹が貴族、他種族などのクラスメイトを見てそう呟いた。
「俺もそう思うよ。ただこの世界ってもうどの国も協力っていうのか仲が良いんだよね。直樹達のファンタジー知識で言うと、獣人は人間に迫害されてる感じで、エルフや竜人は他の種族と関わらないんでしょ?それを聞いてたからちょっとこの学園で以外に感じたよ」
良平が直樹の言葉に賛同を示し、そしてこの世界の有り様にも触れた。
直樹達の知識とは違い、この世界は獣人やエルフ、竜人と言った他種族との交流が盛んで友好的だった。なんでも過去の勇者が頑張ったらしかった。
直樹達がこの事実に気付くのはもっと早くても可笑しくなかったのだが、王都ラスウェルでは基本行動が宿、ギルド、森で特に野宿など日常的だったのでその事に気付いていなかったのだ。
落ち着いた最近にやっと気付いたのだった。試験勉強で一応知識としてあったがどのような感じか分からなかったがこの学園でしっかり理解することができた。
そうしていると一条達とマリアが数人の男を連れてやって来た。
「よし!全員いるな!それではお前達に今日、明日と見守ってくれる冒険者方を紹介する。Cランクパーティーの『熱き魂』の方達だ」
マリアが隣にいる冒険者を紹介した。その冒険者達は軽く会釈し自己紹介をした。
「Cランクパーティー『熱き魂』のリーダー、リックと言う。2日間よろしく頼む」
そしてもう一度頭を下げ、パーティーメンバーもそれに従って頭を下げた。
「俺達は6人パーティーだから、4班いる君達には2、2、1、1と別れて付こう。1の所には『グオノット』の方達が入ってくれる筈だ」
リックは直樹達の方をチラッと見て告げた。それに答えるように直樹が言った。
「ああ、それで行こう。残りは適当にダンジョン内をぶらつくからダンジョン内で出会っても驚かないでくれ」
みんなに伝えるように言い最後にマリアの方に向いた。それで伝わったようでマリアが全員に向かって言った。
「それではダンジョンに入るぞ!」
そしてSクラスと直樹達とのダンジョンでの訓練(授業)が始まった。
次回更新は1月30日の20:00頃です。
訂正と加筆です。
最後の良平の言葉の後の文章
この世界の有り様を語った。
→この世界の有り様に触れた。
さらにその後の文章に
直樹達の知識とは違い、この世界は獣人やエルフ、竜人と言った他種族との交流が盛んで友好的だった。なんでも過去の勇者が頑張ったらしかった。
と加筆しました。
獣人のソル
→兎の獣人のソル
に訂正。




