第十話 続 決闘
今回ちょっと短めです。
騎士団長マックス V.S. 召喚者直樹
の戦いが今始まる。
始めの合図が出たが両者共に動かなかった。いや、正確には動けなかったが正しいだろう。
間合いで言えば両手剣を持つマックスに分があるが、手数の多さでは直樹に分がある。
そして痺れを切らせた直樹が少しずつ間合いを狭め始めた。マックスはそれを見るだけで動く素振りを見せなかった。
直樹はあと一歩でマックスの間合いに入るというところで一気に距離を詰めようとした。だが、マックスは直樹が間合いに入る瞬間にマックスの背よりも少し短いくらいの大きな両手剣をまるでナイフを使うような気軽さで振ってきた。
「うお!あぶねっ!」
一撃目を直樹は余裕を持って躱したが、そこで終わるマックスではなく、すぐに切り返してきた。一撃目は余裕を持ったせいで隙が生じ、二撃目で仕留められそうになったのだ。その証拠に今直樹の前髪が数本ハラハラと落ちていった。
「やるな!勇者達でも今のは躱せないぞ!」
「おいクソジジイ!そんな攻撃してんじゃねぇぞ!俺じゃなかったら脳ミソぶちまけてんぞ!」
「ハッ!躱せてる癖に何を言ってんだ小僧!」
そう言い合いながらも切り合いは続いていた。マックスが水平切りや袈裟懸けをしてくるのを直樹は全て避け、避け際に攻撃をしている。しかし直樹の攻撃はマックスの両手剣に全て防がれ有効打が一つもなかった。
そして切り合いをしながら直樹はずっとあることを考え、それを認めざる終えなくなった。
「(さっき少しだけだけど、剣と剣がぶつかり合っただけでこっちの方に簡単に押されちまった。やっぱりステータスの差は埋めがたいな。なんとか受け流したり躱したりしているがこのままじゃじり貧だ…)」
直樹はステータス差をずっと考えながら戦っていたのだ。現在直樹達はレベルが1のままで、ステータスもほぼそのままだ。そのステータスは成人の平均を上回っていても、ずっと鍛え、戦ってきた人たちを越えてはいないのだ。
そんな事を考えていた直樹の隙をマックスが見逃す筈もなく、今まで両手剣を力と速さの半々で振っていたが速さ重視の振り方にしてきた。
直樹は急に速くされその一撃を避けることはできなかったが、両手剣と直樹の間に自分の片手剣を滑り込ませなんとか防いだ。
だがいくら速さ重視と言ってもその両手剣は大きく重たいため一撃の威力はとても高く、直樹は4m程吹き飛ばされた。
「うわぁぁ。手がぁぁぁ。凄い痺れてる。なんとか防いだけどこりゃ辛いな…」
マックスが直樹を油断なく見ていると今の攻撃で結構ダメージが届いたと判断できたので4mもある距離を一瞬で詰め、縦横無尽に切りかかってきた。
「小僧!これならどうだ!」
「ざけんなクソジジイ!こっちは手に力入んなくて躱すしかねぇのにそんなに早くすんな!」
二人して言い争っているがその切り合いは、ここにいる二十数人の中でも目で捉えることができる者は数人程しかいない速さで行われていた。
目で捉えることができる者はカイゼル、宮本、佐東、智哉でなんとか捉えることができる者は良平とメリアであった。
それ以外の者は剣の振る音や足音だけが聞こえるだけで二人がいるのは分かっても何をしているのかはわかっていなかった。
その音が聞こえること1分弱。やっと直樹は手の痺れが取れて反撃に移った。
「やっと、手の痺れが取れてきたぞ。おい、クソジジイ!今に目に物見せてやるよ!」
「やれるものならやってみろ小僧!」
直樹は魔法があまり得意ではないが、精一杯練習している魔法があった。それは無属性で、『魔法大全』を読んでからずっと練習していた。そのためイメージはより鮮明になっており、無詠唱でも魔法の使用速度がかなり早くなっていた。
そして今直樹はその魔法を使用した。それは直樹から迸る 光があるので誰が見ても理解できた。
「ふむ、それは魔法か?」
「無属性の身体強化だ!まぁ見てわかる通り部分的にだけどな…」
直樹が言った通りに直樹の体は部分的に光っているだけであった。具体的には右腕と両足、そして目だ。
(これがただの身体強化なら体が光るはずはないんだが…)
だがマックスはこれが本当の身体強化魔法かはわからなかった。ただ自分の直感が警報をならしていたのでただの身体強化ではないと思ったのだ。
それは実際に当たっていた。なぜかと言うとこれは直樹が自分の肉体構造をしっかりと理解しており、また筋繊維一つ一つに魔力を送っているのでその部分に魔力が集中するから光るのであり、身体強化を行っているからではない。
魔力が集中するため光る─────直樹がイメージで行っている身体強化は今までにあった身体強化に比べて数倍の違いがあった。
そしてその状態になった直樹が遂に動き出した。
マックスは初め直樹が動いたことに気付かなかったが、直樹が腹に攻撃する瞬間、マックスの直感がとっさに防御をとらせた。マックス自身はほぼ無意識だったので目を見開いて驚いていたがこれは決闘であると思い、笑顔を見せながら自分の直感や経験を用いて防御をし始めた。
「ハハッ。やるな!小僧!」
「早く決めてやるよ!クソジジイ!」
直樹の速さは先程と比べ3倍程違っていて、この状態なら誰もが直樹が攻め勝つだろうと思っていた。勿論それは相手であるマックスもそう思い始めていた。
だが直樹が身体強化をしてから4分~5分たった頃、直樹から光が消えたのだ。そして光が消えたということは身体強化は無くなったので直樹の速さは遅くなった。
マックスは勢いの無くなった直樹を見てチャンスだと思い間合いを詰め袈裟懸けをした。直樹はそれを防御しようとしたがもう体が言うことが聞かず、そして目眩や吐き気が催し、ただ受けるしか出来なかった。
直樹は魔力酔いになったのだ。最後はもう倒れてもおかしくない程であったのに意地で立っていたため動くことは出来なかった。
そしてマックスの一撃は直樹に直撃し6mくらい吹っ飛ばされた。暫くしても直樹が立ち上がらないのでカイゼルが魔法師に様子を見るよう命じた。それから魔法師が様子を見終わり回復魔法を使い出したのでカイゼルが決闘終了の言葉を言いこれで全部の決闘が終わった。そう誰もが思っていた。
「ハッ、なんだ雑魚はやっぱ雑魚だな」
と訓練場に響いた。一体誰が言ったのかと皆、発言した者に目を向けるとそこにはいじめ馬鹿トリオがいた。
まずここにいる全ての者が何故こいつらがいるのか?という疑問に包まれカイゼルが口を開いた。
「何故そなたらがここにおる?」
「俺達はそこの騎士様が訓練を終わって急いでいたからその後をつけてきたってわけだ。そう言っても途中で見失って色々探してたら時間がかかったがそこに寝ている雑魚が吹き飛ばされる所が見えたところからいたな」
それを聞いてカイゼル達はマックスを見たがマックスは目を閉じてなにも言わなかった。そしてそんなやり取りはどうでもいいと言わんばかりに横山が口を開いた。
「それにしても面白いことやってんじゃねぇか。俺達がお前ら雑魚の事を鍛えてやろうか?」
「横山!それ名案っしょ!」
「おぉーいいねぇ!鍛えてやるよ!」
カイゼルがこの物言いに対して何か言おうとしたが、良平達が前に出たので良平達に譲った。
「ねぇ横山。土井。志藤。まず誰から俺達を鍛えてくれるかな?なんだったら3人全員で俺達を鍛えてくれる?」
良平が穏やかな声でそう告げた。ただこれは知る人ぞ知る、良平がキレた時の対応だった。そんなことを馬鹿トリオが知るはずもなく答えた。
「伊狩って言ったけか?お前の殊勝な心掛けは受け取った。俺達3人でお前ら4人を鍛えてやるよ!」
「あぁありがとう。何があっても文句をお互いに言っちゃダメだからね?」
「ハッ俺らの心配なんてしてんじゃねぇよ!いいぜ!全力で鍛えてやらぁ!」
「それじゃこっちも全力で行くよ。わかったね?宮本、佐東、智哉?本気だしていいよ」
「お、おう」「了解…」「わかった」
「それじゃカイゼル王、お願いします」
そこでカイゼルに良平が頼んだのでカイゼルが頷いてから「それでは始め!」と言った。
その瞬間に訓練場に雷が落ちた。
良平が本気の魔法を使ったのだ。勿論直撃はさせていないが威嚇と合図で使ったのだ。
「そんなコントロールじゃあたんねぇよ!」
「ノーコン野郎が!」
「ヘボ!ショボ!」
だが相手はそう捉えなかったらしい。
だが宮本、佐東、智哉は良平が何を考えているか理解でき、宮本は水で出来た玉を相手3人に放ち、佐東は黒いボールを3人に投げ、智哉はその後に相手の周りに壁を作った。そして最後に良平が雷を再度落とした。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
今回も直撃はさせなかったが相手の周りには水があったので見事感電させることが出来た、と誰もが思っていたが、横山だけは無事だった。
「おいおい、まさか俺のスキル"魔法無効"を使う羽目になるとは思わなかったなぁ!てめぇらふざけやがって許さねぇ!ぶっ殺す!」
そう言ってどこから取ってきたのか腰にさした訓練用の剣ではなく本物の剣を手に持ち近くにいた佐東に切りかかった。
「はぁ。そんな真っ直ぐで遅い剣とか喰らう訳無いわ」
佐東はそう言いながら慌てずに剣を躱して相手の鳩尾を殴り相手の顔が落ちてきたので膝蹴りをし、相手の顎が上がったのでアッパーをして倒した。
そして3人を気絶させ戦い終了の声が訓練場に響いた。
カイゼル達が良平達の元に寄ってきた。その中には気絶から目覚めた直樹が混ざっていた。
「すまなかった。こちらのミスで戦わせてしまい本当に申し訳ない…」
「いえ、それは仕方なかったのでいいとしましょう。そして本題に入りたいのですがよろしいですか?」
「うむ。こちらもその話がしたかった。そなたら5人はこれから先どういう生活をするのだ?」
「はい。私たちは冒険者になりたいと思っています。そしたら旅もできる、お金も手に入ると自分達の理想なので。暫くは王都の冒険者ギルドにいると思います。そこで相談なんですがお金をいくらか貰えないでしょうか?」
良平が申し訳なさそうに申し上げたらカイゼルが願ったり叶ったりと言った具合で応えた。
「お金は一人金貨を5枚ずつ渡すから心配するでない。こちらは提案だがそなたらは冒険者をするのだろう?それなら私とそこにいるマックスの紹介状を渡したいのだがよろしいか?」
「ありがとうございます。お願いしますね」
「よいかマックスよ」
「俺は最初の4人は分からんがそこにいる小僧を見る分には大丈夫だと思っているから問題ないぞ」
「紹介状はギルドの受付でギルドマスターに渡してくれと頼めばよい。ではいつから出るのだ?」
「はい。明日の昼から出たいと思っています」
「わかった。それでは明日の昼に物を持っていかせよう」
そう言ってその場は解散となった。
次の話からやっと目的だった旅、冒険者行けそうです。
次回の更新は日曜日の19時です。
ちょっと時間が足りなくて空いてしまい申し訳ありません。
頑張りますので楽しんで読んでいただきたいです。




