第九話 決闘
~673年、風の月、第36日~
波乱の1日が始まった。
直樹達は現在メイドに連れられて訓練場に向かっていた。それもいつもの訓練場ではなく勇者やクラスメイトが使っている訓練場だった。
そこにはカイゼルを含め十数人の人が集まっていた。騎士が大半で、その他は魔法師が3人だった。
「よし。そなたらも来て全員が集まったよだな。それでは決闘を始めよう」
カイゼルが周りを見てから言った。
そして直樹達は騎士達を見て思っていた。いつもの騎士の兄ちゃん達じゃない、と。そして直樹が良平達に確認するように小さな声で言った。
「(なあ、どうする?いつもの兄ちゃん達なら手加減無く魔法使えるんだけどさ…)」
「(ん~…いつもより弱めで使っていこう)」
「(良平が難しいこと言ってるよ…)」
「(佐東、今に始まったことじゃない)」
宮本が悟りを開いたかのように佐東に説いた。
「(ただでさえ、魔法で加減してるのにそれ以上にしないといけないのかぁ、めんどい…)」
直樹が心底めんどそうに漏らした言葉を聞いた良平が直樹の肩に手を置きながらサムズアップして言った。
「(俺達ならできるさ!)」
「(お前そんなキャラだったか!?そんな熱血っぽいキャラにいつなったよ!?)」
直樹が良平に驚いていると、宮本が佐東に説き終わったのか直樹の方に2人で近付いて来た。
「「(直樹、今に始まったことじゃない)」」
「(いやいや!今だよ!ナウだよ!現在だよ!俺はお前達に騙されないぞ!)」
「「「……チッ…」」」
「(え?俺が悪かったのこれ?ねぇ?ねぇ?)」
「(それくらいにしときなよ~。そろそろ話を進めたそうにしてるからさ)」
今まで黙って見ていた智哉が周りを見ながら直樹達に注意した。
確かに周りを見ると、カイゼル達は直樹達が急に小声で話し始めたので戸惑っていた。だが智哉が注意したことにより直樹達が静かになり、再びカイゼルが口を開いた。
「何か困ることはあったか?あるなら受け入れるが無いなら先に進むぞ」
「はい。先に進んで下さい」
「うむ。それでは決闘についての確認だが、まず一対一で行う。怪我をしても魔法師を呼んだからな、安心して戦って欲しい。次に、ナオキ達は魔法だけで戦う。これはそなた達が申したことだから強要はせん。最後だが、殺す・重傷になるような攻撃は禁止だ。何か異論はあるものはおるか……よしそれでは始めようと思う。順番はそちらで決めてくれ」
そして決闘の順番を決めるために話し合う直樹達だが…
「どうやって決める?」
「じゃんけんでいいんじゃない?」
「じゃあ、勝ったやつからでオーケー?」
直樹が4人に問いかけると頷きが帰って来たので、それぞれ手を出した。
「そんじゃ行くぞ~。最初はパー!はい、俺の勝ち!」
「おい!反則だろ!お前は最後だ!最後
!」
「いや、ちょっとしたジョーク、ジョーク」
「知らん!お前は最後だ!」
「それはないよー!宮本許せって!」
直樹以外は頷いていた。それを見た直樹はいじけて訓練場の端まで来て体育座りをし始めた。そんな直樹を無視して4人は普通にじゃんけんをした。
結果は、佐東(ドヤ顔をして殴られた)、良平、智哉、宮本、直樹の順番になった。
「カイゼル王、順番が決まりました。佐東、良平、智哉、宮本、直樹の順です」
「よし!それでは決闘を始める!両者前へ!」
そう言われて直樹達からは佐東が意気揚々と前へ出た。騎士からはちょっと厳つい男が出てきた。
「貴様らの様な平民風情が崇高な我らに加減などふざけるのも大概にしろよ?」
「ふざけてなどいないんだけど…まぁそこまで言うなら楽しませてくれよ。貴族様」
佐東は相手の騎士が平民風情とバカにしてきたので、貴族と推測し煽ってみた。
「貴様!ただですむと思うなよ!」
「頑張ってくれよ~」
「それでは両者準備はよろしいか?」
佐東と相手の騎士は頷いた。
「それでは始め!」
その言葉を聞いた瞬間に佐東は自分が今行いたい魔法をイメージして黒いボールを作った。
「まずはこれでどうかなっと!」
そういい相手に向かって黒いボールを全力で投球した。
「なにっ!?無詠唱だと!?ぐわっ!」
佐東は今軽々しく無詠唱で魔法を使ったが、この世界で無詠唱という技術はスキルで与えられた人や、魔法を究めた者でも一握りの人が使える技術だ。
まして、佐東や直樹達は非戦闘職として伝わっていたのだ。そんな者がたった4週間で無詠唱を使うとは誰が予想できただろうか。その証拠にカイゼルやその近くにいる魔法師達も驚きが隠せていなかった。
「うぉぉぉぉぉぉぉ………」
そんな中、相手の騎士が苦しみの声を上げて蹲っていた。
「ん?え?もしかしてもう終わっちゃったの?」
「なめるなぁぁぁぁぁ!!!「オーケー」………がはっ」
佐東は相手が立ち上がろうとしている時に先程の魔法をもう一度使っていた。それを見ていた良平達は…
「酷いね」
「躊躇いなく攻撃したよな」
「鬼畜の所業だね」
と感想を言っていたが当の本人は早く起き上がらないかなーくらいしか考えていなかった。
そして少し時間が経ち、騎士は起き上がれなかったので「そこまで!」と声がかかった。佐東は予想よりも早くに決着がついてしまい不満そうにしながら良平達の所に戻ってきた。まだ直樹はいじけて訓練場の端にいた。
「うーん、つまらなかった」
佐東が戻ってきてそうそう言った。それを聞いた3人は揃って返した。
「「「お前が悪い!」」」
「もっと強いと思ってたし、舐められたから腹が立った」
「そう言えばさっきの黒いボールってどんな魔法?」
良平が気になっていた魔法のことを聞いた。
「あー、あれね。あれは身体を傷付けないで痛みを与える闇魔法。簡単に言えば痛覚だけを与える魔法」
「えげつな!」
そんな話をしていると、カイゼルが「次のものは、前に出よ!」と促したので、良平がちょっと楽しそうに鼻歌を歌いながら前に出たら相手の騎士も前に出てきた。
「ほぉ~。私はピエール=デントと申します。私の相手はあなたですか。まぁ一番礼儀が正しそうな者と当たれて私も良かったですよ」
「はぁ。良平です。ありがとうございます?」
「まぁ、そんなあなたはあの中で一番弱そうですが」
「その通りですよ」
「やはりそうですか。いやはや私は運がいい。残念ですがあなた方が気に入らないので潰させてもらいますよ」
「できるなら、どうぞ」
2人がピリピリするやりとりを見ていたカイゼルが先程と同じように、両者に確認をしてから決闘が始まった。
それぞれが牽制しあって決闘は動かなかった。それに痺れを切らせた相手の騎士が蛇行しながら間を詰めてきた。
そんな時に直樹は宮本達の元にようやく帰って来た。そして決闘を見ながらこう言った。
「確かに俺達の中なら一番弱いかもしれないが、魔法に関してならあいつが一番強いけどな」
ピエールは見かけと足の運び具合で判断したのだろう。確かに良平は戦闘訓練自体はまだ4週間しかしていないので、足の運びは初心者のそれだし気迫なんて全然ありはしない。
だが良平は天職が賢者なのだ。魔法もまだ4週間ではあるが、直樹達の中では一番上手に使いこなしていた。
そしてピエールは今にも良平に剣が届きそうな位置まで来ていた。それを良平はただ見ているだけで魔法使う兆しが見えない。そしてピエールが袈裟懸けをしてきた。良平はニヤッと笑いながら避けた。それから何回もピエールは剣を振るが良平はそれを全て避けた。
ピエールは当たらない事に焦りを生じ始めていた。
「なぜだっ!なぜ当たらない!」
そして焦り始めると当然、剣の振りが大きくなり隙が出来てきた。それを待っていたかのように良平が魔法を唱えた。
「スパーク!」
バチッ、バチバチバチバチ…………
そんな音が聞こえた直後にピエールが泡を吹きながら倒れた。
カイゼルは「そこまで!」と言い数名の騎士にピエールを運ばせた。
良平は改良の余地ありと思いながら直樹達の所に戻った。そしてら4人から温かい目で見られている事に気づいた。そして直樹が4人を代表して一言言った。
「いい魔法名だったよ!」
そう。先程の"スパーク"という魔法は良平が作った魔法だった。非殺傷で行くために動きを封じようと作ったのだ。しかし、"スパーク"という名は安直過ぎたし、魔法名を言いながら行使したため直樹達にからかわれる羽目になってしまった。
「い、いや、お前ら顔が笑ってるのわかってるからな!」
良平が顔を赤くしながら言うものだから直樹達はよりからかおうとして悪循環に陥ってしまうのであった。
数分後、直樹達は良平に一発づつ殴られて沈静化された。そしてカイゼルはどこか諦めたような表情をしながら「次の者、前へ!」と言った。騎士からはピエールよりもさらに厳つい男が出てきた。
「俺はセリヌンってんだ。おめぇさんみたいな貧弱そうなやつは強者である俺相手では1分も、もたないだろうな。ハッハッハ」
「あぁ、そうだね(いいからもう始めろよ。めんどくせぇ野郎だな)」
「ハッ、びびっちまたか?えぇ?」
「あぁ、そうだね(早く始めろってぇの)」
智哉は珍しく怒っていた。理由は単純である。実はこの場には、メリアがいるのである。魔法師3人のうち1人はメリアだった。いくら普段怒らない智哉でも好きな人の前で侮辱されると我慢ができなかった。そのため智哉は決めたのであった。────このバカは1分いや10秒もかけないで倒す、と。
「それでは両者準備はよいか?……それでは始め!」
そして智哉は練習をしていた魔法を唱えた。
「土よ、我に集い、槍の形と為して、敵を貫け───アースランス!」
これは魔法の訓練初日にメリアに見せて貰った魔法だ。これを智哉は一番初めに覚えた。覚えたのは言いが智哉が作ったアースランスはメリアが作ったのと比べ大きさが3倍位違った。メリアは直径5cmほどの槍だが智哉は15cmほどあるのだ。そして密度も高く速度も2倍ちかくあるため放たれれば当然地面に突き刺さる。
実際に智哉が放ったアースランスはセリヌンの足の間に刺さっていた。
それに気づいたセリヌンは腰を抜かして尻餅をついた。そしてビクビクしながら
「降参だ…」
と小さな声で言った。
それを聞いたカイゼルは「そこまで!」と言い、智哉は直樹達の所に戻ってきた。
怒っている智哉にどう声をかければいいか迷っていた直樹達に気づいた智哉が先に口を開いた。
「もう、怒ってないから気にしなくていいよ~」
そう聞いた直樹達だったが微妙な返事しかできなった。そして4人は心に決めた。もう智哉を怒らすのは控えよう、と。ちなみに直樹、宮本、佐東の3人は良平も怒らせてはならないと昔から誓っていたため、2人目が出てきて内心戦々恐々としていた。
そしてカイゼルが「次の者、前へ!」と言ったので宮本が「めんどくさいけど行ってくる」と言い残して前に出た。気になる対戦相手は筋肉ムキムキのオネェだった。
「あらん。かわいい坊や、うふっ。私はホモイルっていうの。貴方のことは、ゲイルから聞いているわぁ。全力で楽しみましょうね」
「なんで、俺の相手ってこんなのばかりなんだ…」
「そんな堅いこと言わないの」
「俺は宣言する!全力で尻を守ると!そのためには速攻で決めるからな?」
「いやんっ。そう言われると全力で責めたくなるぅ!」
「おい!やめろ!カイゼル王早く!早くしてくれ!」
「う、うむ。それでは両者準備はよいか?……それでは始め!」
始まった瞬間に宮本は後ろに跳んだ。そして宮本がいた場所には得物を降り下ろした後のホモイルがいた。
「あら~。今のを躱すなんてやるわねぇ」
「俺を舐めるな!」
「別に舐めてないわぁ。舐めたいけど」
「や、やめろぉ!言うなぁ!」
そうやって言い合っていると、またホモイルが一瞬で距離を詰めて得物を降り下ろしてきた。
宮本は魔法だけという制限があるせいで上手く戦えないと判断した。だからこう言った。
「全力がいいって言ったな?じゃあ制限もやめるわ」
「え?それってっ…ぐはっ……」
そして宮本は理解出来ていなかったホモイルの腹を思い切り蹴った。
「うーん手応えが今一つだったな…」
「あなたねぇ!いきなり戦い方変えるのは卑怯じゃない!」
「戦いに卑怯も糞もあるか!」
「これは決闘なの!卑怯も糞もあるのよぉ!」
「うるさい!知ったことか!勝てばいいんだ勝てば!」
それを遠くから見ていた直樹達は皆同じ感想を抱いた。とうとう本音がでたな、と。
宮本はそして言い合いながらもしっかりと準備をしていた。なんの準備かと言うと勝利への準備だ。その作業が漸く終わった。
「おい、ホモイル。お前はもう負けだ!」
「?何を言っているのあなたは」
「発動!」
そう言って今まで準備してきた設置方魔法を宮本は発動させた。それはホモイルの周りに30個ほどある。少ないように思えるが一つ一つにしっかり魔力があり、かつ四方八方の逃げ場を塞いでいる完璧な布陣だった。
「ここにあるのはライトアローだが、威力は2倍くらいだと思う」
「あなた、やるわねぇ。でも、私は諦めない……「よし、わかった。死んだらごめんな」…諦めるわ」
流石にこの数と威力はホモイルも脅威に感じていた。そしてそれを喰らったら自分がどうなるのかと考えるとやめた方がいいと直感が本能が言うのでもうやめることにした。
そんな最後は呆気ない幕切れでカイゼルはぼーっとしてしまったが、ハッと気づいて「そこまで!」と言った。
宮本が戻ってきて言った。
「俺、大勝利!」
「「「「んなわけあるか!」」」」
宮本は4人全員から突っ込みを貰った。そんな直樹達を「え?なにこいつら」みたいな目で見てきたので4人は放置することに決めた。
「どうだった?あの設置方魔法、凄くない?」
「……」「……」「……」「……」
「だって、30個だよ?頑張ったでしょ」
「……」「……」「……」「……」
「ねぇ、そろそろ無視やめよう?ね?」
「……」「……」「zzz…」「……」
「はい。俺が悪かったです!ごめんなさい!」
「うむ」「許そう」「zzz…」「仕方ないなぁ」
カイゼルがまだ何も言わないので直樹達はふざけていると(1名寝た)、訓練場の入口にマックスが現れた。
そしてそのままツカツカとマックスはカイゼルに向かっていった。カイゼルの元に着くとマックスは跪いた。
「王よ。私に決闘をさせて貰えませんか?」
「うむ。よかろう。次が最後の決闘だ。死力を尽くせ」
「ははっ!」
そう言い、マックスは顔を上げ立ち上がると、直樹達の方を向き笑みを浮かべながら言った。
「さぁ、俺と戦うのは誰だ?」
その笑みに触発されたように直樹は勢いよく笑みを浮かべながら前に出た。
「俺だよ!」
それを待っていたとでも言うようにマックスは訓練用の片手剣と両手剣を持って言った。
「お前のことはテリー達から聞いている。ほら」
そう言って片手剣を放り投げて来た。それを直樹はキャッチすると剣を片手に持ったまま言った。
「俺と本気でやりたいのか?」
「ああ。お前とは本気でやりあいたい」
間髪を入れずにマックスは返した。そして直樹は少し考えて、良平達を見た。4人はただ頷いて返しただけだったが直樹にはそれで十分だった。マックスは直樹の空気が変わったことに気づき自分も集中し始めた。
そして場が静かになったころ、カイゼルは両者を見て開始の合図を出した。
「それでは両者よいか?……それでは始め!」
騎士団長マックス V.S. 召喚者直樹
戦いが今始まる。
次の更新は木曜日の19時です。
気を付けます…




