侯爵と、侍従のこと
侍従のこと、続き。侯爵視点。短め~です。
キリエ侯爵は瞬くと、チサの問いに合点して頷いた。
「リザ・ドロシアのことか」
彼が侍従の名前を挙げると、「はいっ」と彼女は勢いよく首を縦に振り、詰め寄った。
すでに寝台の上で寝るだけの姿になった二人は薄着だ。男は絹の白いシャツと黒のズボン、女は絹のペティコートにドロワーズ姿――そんなチサの手首を取って、侯爵は微笑み、引き寄せる。詰め寄る格好だったから、彼女は簡単に胸に落ちてきた。
「こっ、侯爵さまっ」
「キース、だってば」
「き、キースさまっ!」
けれど、ほんの少し機嫌を損ねている花嫁はビーンと腕を伸ばして彼の胸を押して距離をとる。
「だ、黙っているなんて酷いです。侍従さんが女の人、だったなんて。……しかもかなりの美人さんだし……いい人だし……歌は、ちょっと……いや、かなりヘタだけど」
ブツブツと不平(?)を並べると、キッと彼女は睨んで「正直に話してください」と泣きそうな目で懇願してきた。
綺麗な緑の瞳だった。
(可愛いなあ……)
と、思う。
「正直に、と言われてもね」
ふ、と笑って見つめれば、「小さい姫」の愛称を持つ彼女は真っ赤になりながらも複雑そうな表情をする。ああ、誤解しているなとは思うものの敢えて訂正する気は起きなかった。
だって、それくらいは君を独占したいじゃないか?
「従姉だよ」
「え?」
「リザ・ドロシアは私の、父方の、妹の子なんだ。だから、従姉。ちなみに上には兄がいて、その人も近いうち城〔ここ〕に来るよ?」
結婚の儀式のことがあるからね、と告げれば、彼女は目をパチパチと瞬いた。
「そ、そうなのですか?」
ぽやん、となったチサの思考は根本的な解決をしないまま、きっと入ってきた情報を処理するのに懸命なのだろう。そこもまた、彼女のいいところである。
首筋に歯をあてて、侯爵はくすりと口角を上げた。
ピクンと反応する小さな体と、口の中に広がる甘くて、芳醇な処女の味。そこに嫉妬の混じった微かな渋味も悪くない。っていうか、イケる。
ナデナデと頭を撫でる彼女の心地いい手の動きに、目の前にある血の滲んだ肌を舐めて歯は立てずに吸いつく。
花嫁の体の成長は二十歳を過ぎているとは思えないほどに遅れているけれど、問題ではなかった。手に簡単におさまる小さな胸も、いとけない表情も、その最高級の血と愛すべき心地のいい存在の前ではどうでもいい。むしろ、それくらいはこちらで面倒を見てあげようと俄然(元来、ソッチの欲は淡泊なのだが)やる気になっている。
前を肌蹴た格好ですやすやと眠るチサの無防備な寝顔を眺めて、侯爵はそのなだらかな胸の麓にキスをして浅い谷間に顔を埋めると、ギュッと彼女を抱き寄せて目を閉じた。