朝の日常なんです
短いです。そして、軽くR15っぽいだけの話。
朝起きると、背中から抱きしめられる格好で侯爵が首筋に顔を寄せて眠っている。
動けば起きてしまうから、居たたまれないながらジッとしているしかチサにできることはなかった。昨日の夜のままだから夜着の前は肌蹴たままだし、そこには彼の手が廻されて握られていたりもするからどうにかしたいのは山々だ。
けれど。
「おはよう」
耳元をくすぐる侯爵の寝起きの甘く掠れた声に「ひっ!」と息をつめて、振り返り開いたアメジストの瞳にぶつかって(今日も失敗してしまった……)と項垂れる。
動けば、彼を起こしてしまうのはチサのたどたどしい動きが悪いのか、彼の眠りが浅いのか……どちらだろう? 両方かもしれない。
「お、おはようございます。侯爵さま」
チサがいまだ慣れない朝の挨拶を返すと、侯爵は不意に難しい顔になる。
「キースだよ」
「へ?」
「私の名前――結婚するのだし、いつまでもその呼び名はどうだろう? ねぇ、我が花嫁」
ふわり、とした無邪気な微笑みなのに有無を言わせない迫力がある。
「こ! あっ、いえ……でも……あの。まだ、早いのでは……ないでしょうか?」
式も挙げていないのに恐れ多い、と身を竦めれば、急に胸の先をギュッと挟まれた。
「いっ、ぁ……こ、侯爵さま。そこは……さっ、触っちゃ、やっ」
「可愛く尖ってきているね? チサ……名前で呼んでくれなきゃもっと触るよ、いいの?」
首筋に唇を沿わせて、くすりと歯を立てる彼にゾクリとなってチサは首を振り「あっ」と肌を刺す痛みに思わず喘いだ。
「き……キース、さまぁ」
「うん、それでいい」
ペロリ、とチサの肌を舐めて彼は上機嫌に解放する。裸の胸を撫でるみたいに手のひらを滑らせて、「さあ、朝食の時間だよ」とぐったりとなった花嫁のしっとりとした肌を 密やかに 堪能して、頬に触れるだけの とても 優しいキスをした。