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その後

セキララ発動。明るく軽くがモットーのR15場面アリ。

 さて、娘のチサはと言うとハタと思い至ることがある。

 キリエ侯爵との婚姻は自らが願ったことだから、不満はない。もちろん、予想外の展開や侯爵の特殊な立場や環境はビックリというか、信じられない気持ちの方が強い。

 でも。

 今まで誰も、チサを大人の女性として敬意を表してはくれなかった。初めて、女性として認められた感動の方が何よりも代えがたい彼への好意に繋がっている。

 たとえ、それが自分の血に対する敬意だとしても一向に構わなかった。

 ……とは言え、である。

(キリエ侯爵さまは……どうなのかしら?)

 と、ふと不安になった。

 大人の女性として扱われる待遇からスコンと忘れていたのだが、チサには著しくセックスアピールに欠けるという致命的欠点がある。結婚ともなれば、そこは避けて通れないだろう。

 部屋にある鏡台に映る自分の寸足らずでペッタンコな姿を眺め、深いため息が洩れる。

(欲情、しないわよね。こんなんじゃ……)

 これでは、彼に申し訳ない。血だけが必要なら、何も結婚しなくても……あげるのに。

 一度、話してみるべきなのかもしれないとチサは自嘲気味に微笑んだ。


(せっかく、掴んだ結婚のチャンスなのに馬鹿ね……でも)


 それでも、彼にはちゃんと好きになって欲しいんだもの。

 人間を――わたしをちゃんと好きになって?




「心外だな」

 と、彼は言った。そして、(あれ?)と思う間もなく寝台に押し倒された。


 一週間後、迎えに来た彼の屋敷で。


「こ、侯爵さまっ?!」

 驚いて、首筋に当たる彼の歯に(あ、食べられるんだ)とギュッと彼の背中に抱きつく。

 次に来たチクリとした痛みとジィンと疼く感覚にハァとため息が洩れる。侯爵のサラリとした黒髪を撫でれば、ホッとする。どうしてかは分からないけれど、ここが自分の場所だという安心感がぽっかりと開いた心の空洞をいっぱいに満たしてくれる。

(錯覚、かしら? きっと、勝手な願望ね)

 ペロペロと噛んだ首筋を彼が舐め、いつもならここで顔を上げるのに今夜はまだ唇を離さなかった。

「侯爵さま?」

 不審に思って声をかければ、吸いつかれ噛まれるのとは別の痛みがチクリと首筋と鎖骨の間に走った。

「な、にを……なさったの?」

「んー、チサが妙な心配してるからね。シルシ、つけといた」

 顔をようやく上げた彼は整ったパーツをにっこりと崩して、チサをクラリとさせる。

「シルシ?」

 って、ナニ?

 呆然と呟きながら、痛みのした場所を見下ろせばそこには虫に刺されたような赤い痕がポツリと付いている。

 いつの間にかドレスの前釦が数個外され、頼りない胸元が曝け出されていた。

 虫刺されより、そちらの方がチサには大問題だった。

 真っ平らな胸や、子どもみたいな先っちょも見られたくない。

「きゃああああああ!」

 胸元を手で覆い、(見た?!)とばかりに侯爵に向かって涙目で訴える。

 隠さなくても、と侯爵は微笑んで(そりゃ、釦を外した張本人だから)小さな貴婦人を抱きしめる。

「チサ、大丈夫。私は 貴女が ちゃんと好きだ」

「う、嘘っ!」

「嘘じゃないよ、ちゃんと欲情するし――貴女の体に」

 それこそ嘘だとチサは泣きたくなった。

「無理、しなくていいですっ! こんな、体に……誰も欲情なんて、しないわ」

「するよ。人間の男はどうか知らないけど……私はね、血がすべてだ。私は貴女の血が気に入った、芳しい女性の、とても優しい味がするよ」

「……本当に? それだけで、いいんですか?」

 暗に血だけだと断言されたようなものなのに、チサは逆にストンと憑き物が落ちたみたいに安心した。自分の幼い体が根強いコンプレックスの源だから、だろうか?

「私には、それがすべてだよ。それに――」

 押さえていた胸元が緩んだそこに、彼の手がするりと入りこんでペッタンコの小さな膨らみを包んでフワッと揉みあげた。

「きゃあッ」

「それにね、チサ。胸は揉んだら大きくなるって聞くよ? 試してみる?」

 言葉通り試すみたいに数度揉んで、侯爵は面白いものを見つけた少年みたいに無邪気に笑ってみせた。

「えっ? えっ!」

「今のチサも可愛いけれど、私で妖艶な貴婦人に染めていくのも楽しいね」

 妖艶な貴婦人?!

「そ、そんな無謀なっ、うひゃ! って。無理です、諦めてくだ……いやんっ」

「ああ、先が固くなってきたね。可愛い」

 ツンツンと可愛がられて、慣れない体がピクピクと刺激に震える。

「や、やだやだ。触っちゃイヤぁっ」

 羞恥に真っ赤になって首を横に振る。けれど、侯爵は彼女の必死の願いに無情にも熱い吐息で答えた。

「止める? 無理。欲情しちゃった」

 もみもみ、と何が楽しいのかチサには まったく 解からない胸を揉む。

 ひとしきりささやかな膨らみ(あるの?)を彼は堪能して、また彼女の血を啜ったけれど――その時には、彼女の意識は朦朧となっていて現実なのか夢なのか判断はできなかった。


「ゆっくり進もう、ね? チサ」


 ペロッと首筋を舐めた侯爵が、そう優しく低音で囁いたのもまた、もしかしたら夢の中のお話。


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