デアイ
――朝。彼、聖悠人は困惑していた。目が覚めた後すぐ制服に着替え、歯を磨き、顔を洗ってから朝食を摂ろうとリビングに行ったら幼馴染である小池佳奈がリビング全体を我が物顔で占領していたからだ。
「……」
驚きで声も出なかった。なんと言葉をかけるべきか迷っていると、佳奈が
「何やってるの? 早くこっちに来て食べなよ。今日は私が腕によりをかけて作ったんだからね」
と、言った。
「いや、ありがたいんだけどさ。何でいるの? 今はまだ朝の六時なんだけど」
「いたらだめなの? だってさ、悠は両親が早く亡くなったから毎日迎えに来てあげてるんじゃない。まあ、今日はたまたま早く起きたからこんなに早く悠の家に来たんだけど。で、呼び鈴押しても返事が無かったから合鍵で鍵を開けて悠が起きてなかったから朝食を作って待っていてあげたんじゃない。感謝してよね、まったく」
そう言いながら頬を膨らます佳奈はとても子供っぽかったけど、ちょっとだけ、可愛かった。
――だがちょっと待て。今、こいつは何て言った?
「おい、いつの間に合い鍵なんて作ったんだ? 全然覚えてないんだが」
そう言うと佳奈は少し驚きながら、
「え、覚えてないの? 十年前、悠の両親が亡くなられた後、悠に親戚が誰もいなかったから、悠の両親と特に親交があった私の親が悠の親権を得て、悠が一人暮らしをしたいって言うからこの家を悠にあげて、一人じゃ寂しいだろうからってその場で私に合鍵までくれたんじゃない。本当に覚えてないの?」
と、言った。そう言われてみれば、そんな気がする。
「ああ、そういえばそんなこともあったな。そうだ、食べるんなら早くしようぜ。まだ相当時間余ってるけどさ、始業式からいきなり遅れるっていやだからな。一時間も余裕があるからってのんびりした結果三十分も遅刻したやつを俺は知ってる」
断じて俺ではないぞ。念のため。
食べ終わった食器を流しで洗いながらふと時計を見上げると、始業式まで後三十分だった。
……何か変だ。確か、食べる前に時計を見たはずだ。その時は一時間四十五分も余裕があったはずだ。食べる前に十五分かかったとしてもおかしい。まあ走ればまだ間に合うけど、何があったんだ?
「佳奈、食べる前に時計を見た時には一時間四十五分も余裕があったのに、何で後三十分しかないんだ? 生憎、俺は覚えてないんだ。何があったか教えてくれ」
俺がそう言うと、なぜか、佳奈が驚いた。で、時間が無いという理由で俺を玄関まで連れて行きながら、
「悠、ほんとに覚えてないの? 食べ終わった後、悠が、少し休むから適当な時間に起こしてくれって言ったじゃん」
と、言った。
そんなこともあったような無かったような。ああ、そういえばあった気がする。そうだ。確かにそうだった。
そんな事を考えながら学校に向かう。思い返してみれば、俺の日常はこの時から音も無く崩れていったのかもしれない。いや、最初から日常なんて無かったのかもしれない。