~流れた月日~
数週間、数ヶ月が過ぎてもアリスは広く感じる家に慣れずにいた。
いつも当たり前に居た祖父ルネの姿はなく、食卓に一人では多いオルガのパイも並ぶことは無かった。
塞ぎ込むアリスを心配して隣人のオルガも玄関先に届けるが手をつけない日々が続く。
アリスはルネの残した古書の山々を読漁り人形造りを続けていたのだ、一日中作業台にかじりつく日々。。
季節は春から夏へ一人の時間は早く感じあっという間に秋になっていた。
「そろそろ一年ね…肌寒くなってきたわ…。」
少し髪ものび大人になったアリスは祭りの準備をする人々を見て箱を取り出す。
「皆に…届けなきゃね…。」随分前に完成していたドレスを眺めた。
アラン、シャルル、クロード、リディ…。
「明日…きっと皆に会いに行くわね。」エマにも長いこと会っていなく、ルネの死を受け入れるまではとドニエ邸に行けずにいた…。
涙が枯れるほど悲しみ一人で過ごす日々をルネの残した書物で癒し、いかに人形を作りを愛していたか改めて知らされる。
その意思や技術を引き継ぎたいと思えるようになったのは、お祭りの近くなった秋だった。
いつものように読み終えた本を戻そうと階段を上ると小さな光がアリスの部屋へ入っていく。
「…何…??今の…」
綺麗な光に誘われ部屋に入るとジゼルの前で小さく小さく光る翡翠色の光が消えた。
「…ジゼル?」あの光は一体…
「………………………………………。」
ジゼルを見ると鋼色の瞳がゆっくりと瞬きをした。
「きゃあっ!!」
驚いて腰が床に落ちる。
「…怖がらないで…アリス…。私よ…ジゼル。お願いだから、怖がらないで…」
ジゼルはアリスにゆっくりと近づき手を差し出す。
か細く透き通った少女の声でアリスは悟り、ドクドクする心臓を押さえた。
「…ジ…ゼル。あなた…どうして動けるように?今の光はジゼルだったの…?」
「うん…。驚かせてごめんなさい…。。」
立ち上がったアリスは、自分の胸程までしかない背丈のジゼルを何も言わず抱きしめた…。
祖父ルネの言っていた話は本当だったと、ジゼルを見て自分に秘めてた何かの力をようやく感じる事ができた。
「…どんなに、こんな日が来るのを待っていたか…。ジゼル、私の可愛いジゼル…。」
込み上げる涙を我慢して、アリスは喜んだ。
「アリス、前が見えないっ。。」
「…っごめんなさい。とっ、とりあえず座りましょうか!」
興奮するアリスをみてジゼルが笑みを見せる。
「あなたの力なの…。アリスのお陰で私は器である人形に入ってこうして話せるの、アリスありがとう。私を可愛く造ってくれて嬉しいわ!」
動揺しながらも、ずっと夢見てきた事が目の前で起きてることに久しぶりの笑顔が戻った。
「私もよ!!どれだけあなたと、こうしてお話が出来る日を夢見たか…。まだ信じられないもの!夢見たいだわ!」
「夢なんかじゃないわ!うふふ!」
一周くるっと回ってドレスを見せ、まだオロオロするアリスを置いてジゼルは部屋から出ると一階に駆け下りた。
「まっ、まって!ジゼルどこいくの?」
リビングに行くとジゼルは台所にいた。
「ジゼル!そんなことしないでいいわ!危ないじゃない…。」
「大丈夫よ!アリスは座ってて!!」
半ば無理やり座らされると、台所でジゼルがテキパキと食器をだす、沸いたお湯がシナモンの紅茶を香りたたせると
「…ハイ。どうぞ!」
アリスの前にシナモンティーの湯気が漂う。
「シナモン…?。…ありがとうジゼル、それじゃいただくわ…。………うん、美味しいっ!!」
ルネとよく飲んだ紅茶を誰かに入れてもらえるなんて思ってもなかった。
「よかった。…っね?夢なんかじゃないでしょ?少し落ち着いた?」
「ええ…、うふふ。そうね夢じゃないみたい。」
いたずらに笑うジゼルをアリスは愛おしく見つめる。
その日はもう工房へ入らず、何時間もジゼルと語った。
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アリスの力が高まり、ジゼルが目覚める事が出来た事。精霊の力だけでは精霊人形になれない事。ジゼルは困惑するアリスに沢山教え、ドニエ邸の精霊人形を起こして欲しいとお願いした。
「私に…出来るかしら…」
「大丈夫よ、皆アリスが来るのを待ってる。私もついていくしね!心配しないでいいわアリス。」
…おじいちゃんが居なくなってからこんなに誰かと話したの、久しぶりだわ…
寂しかった家の中が灯りをともした様にあったかくなるのを感じた。
「…ジゼル。ずっと私のお友達でいてね?」
少女のようにお願いするアリスに優しくかえす。
「もちろんよ!当たり前だわ、あなたの為じゃなきゃ誰のジゼルなのよ…んふふ。」
夜も更け二階に上がりアリスが夜着に着替えると、ジゼルは部屋から出ようとした。
「ジゼル?」
「…私はずっと眠くならないの…。」
寂しい声でこたえる。
「……。」
「下の部屋にいるわ…」
「いかないで…。」
「ジゼル…今日だけ、今日だけでいいから一緒に居てくれる?」
少しだけ間があき
「えぇ。もちろん!」
ベットに入りながらアリスの寝息が聞こえるまで、ジゼルはおしゃべりの相手をし。アリスが抱きしめる腕の中で眠気のこないジゼルは瞼を一緒に閉じていた。