~隠されていた事実~
帰宅するとルネがアリスの帰りを待っていた。
「おかえり、遅かったのぉ…体が冷えてるだろう、火にあたりなさい。」
「え?えぇ。ただいま。少しエマ様と話し込んでしまって。」
エマの言ってた事の意味を考えながら、そして祖父にずっと聞きたかった事を胸に、少しだけ遠回りして帰ってきた…
暖炉の前に座るルネに、大好きなシナモンティーを注ぐ。
…おじいちゃんに、聞かなくちゃ。…
夢の声と、ドニエ邸で感じた不思議な感覚を気のせいとは思えなかったし、何より両親の事が知りたかった。
「ねぇ?…おじいちゃん…」
喉の奥が熱くつりそうになるアリスへ、察したようにルネが静かに口を開く。
「…ある人形師の話をしよう…」
紅茶を見つめ話しはじめた。
「昔、誰よりも人形を想い特別な人形師が居た。。その人形師は特別な力を持ち人形達の特別な声を聞ける職人だったんだ、正確には人形の精霊の声…。そして彼らは見えた。私の父もその一人でドニエ伯爵邸に眠る人形は私の父が創造主で特別な人形達だ。私も一部手を加えたが、元々のオーナーは父だったんだよ…」
アリスの紅茶を持つ手に力が入る。
「じゃぁ…付いてたネックレスは曾お祖父ちゃんが…?」
…オニキスに彫ってある名前はエマ様がつけたんじゃなかったのね…
「彼らが宿る器として体を…そして名前を名づけ一緒に暮らしていた。彼らは人と同じ様に動き、話しをし、何より心があった。しかし時が流れ父が亡くなると、人形達は力を無くし器が動くことはなかった。精霊が滅ぶとは思えんが…わしに再び動かしてやれるその力がなく。。幾つ人形を造ってもな…。」
「私の…聞いた声は…?」
アリスはルネの話に夢中で聞き入る。
「それからおじいちゃんも結婚をして、レオンを授かった。アリス、お前のお父さんじゃ。そのレオンもまた…父同様、不思議な力を見せた。
けど人形を想うあまりに…レオンの造ったメロディという女性はあまりに美しく、心の綺麗な精霊(女性)だった。
レオンは愛し過ぎてしまったんじゃ。。精霊人形は永遠の命を持つ。人間のレオンといつかは離れてしまう事を悲しみ…メロディは自分の永遠の命を嘆いた、二人は離れないと誓い合いメロディは掟を破って人間になる為に全ての力を使ったんじゃよ。。人間になる引き換えに…レオンは自分に残されている寿命を半分メロディに与え、共に許された時間(人生)を生きたんじゃ…。。。」
ルネの話しを聞きながらアリスの鼓動は今、強烈に波を打っていた。…苦しくてたまらない…
暖炉が燃える様に熱くなった胸の中を無理やり沈めるようにしてルネに問いかける。
「その…メロディという女性はまさか…」
「そう。アリス、お前の母親じゃ。」
喉の奥が掴まれた様に言葉が出なかった…。
「お前が見つけた絵はメロディだよ。。髪の色もその瞳の色も同じじゃ…。。夢の中で聞いた声はアリスを想ったメロディが、アリスの力を感じはなったのだろう。。」
アリスの目には涙が溢れていた。ずっと知りたかった真実を前に、残酷すぎる事実に、レオンとメロディ…2人の愛の深さに。涙がとまらなかった。
…こんなことってっ…
「…ッ…ヒクッ…ッ」
なぜ今夜話をされたのか、自分の両親が普通の人間ではありえない様な事態に頭が混乱する。
自分が純な人間ではないと言われている話に恐ろしくなるアリスは、いっそ知りたくなかったと…心で呟く。
涙に滲んだ視界が祖父の抱き寄せられた肩に覆われた。
「…ッ…おじいちゃん…ヒッ…ゥ…」
頭の後ろに感じる暖かく優しい手を、子供をあやすような優しい手を感じどっと涙があふれた。
「…おじいちゃん…私怖いっ…」
自分が誰の子か、事実が残酷でこの世に存在してよかったのかさえわからない。
「アリス…母親がメロディだから、メロディだからこそお前の中には力が眠るんじゃ。わしにはアリスがとても誇りに思えるよ?恥じる事もないし…いつかきっとまだ見ぬその力にあたたかく包まれる日が必ず来る…。必ずじゃ。」
優しくいい聞かすルネの声はとても静かだった。
「お前は誰だろうと私の可愛い孫なんだよ」
アリスはルネの言葉で救われる。
「二人はっ…幸せだった…?私が産まれても…幸せだったのっ…?」
深く息を吸いルネは
「…あぁ。。もちろん幸せだったよ…誰よりもな。。」
頭の後ろにかかる手に更に強い力がこもった。
ルネは両手で優しくアリスの肩を離し涙を拭うと…
「どんな人生をおくるかよりも、また繰り返したいという人生を送りなさい。」
と呟いた。
自分の力がこの先どうなるかは、分からないが二人の愛のあり方が幸せを招き私が誕生したなら受け入れようと思い始めた。
その夜は両親のお墓を初めて教えてもらい。
暖炉の炎が消えるギリギリまで2人で色んな話をした。。。