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~初仕事~

…うーん、どちらの布がいいかしら…。…レースは何色がいいかなぁ…。

エマの家に行く朝、アリスは何種類もの生地を用意し、昨夜から初仕事の楽しみを膨らませ人形ドールに仕立て合う生地を考えていた。


「おはよう!おじいちゃん、リビングに朝食のスコーンがあるわよ。」

「おやおや、今日は早いなアリス。」

朝からバタバタとアリスの騒がしさで目覚めた祖父のルネは、少し心配だったがアリスを送り出した。

「エマ様のお宅で失礼のないようにな。」「大丈夫よ!忘れ物もないし…いってきまーす!」



オルガの店前を通ると元気な声がした「アリス!今日はベリーパイだよ!」「うわぁ~いい匂い!オルガ、後で家に届けておいてくれないかしら?帰ったらいただくわ。」「あいよー!アリスがお出掛けなんて珍しい、気をつけて行っておいで。」

ベリーパイの香りが消える辺りを右に曲がると、レンガ道から長い山道に入る。

アリスはこの町で友達と言えるのはほとんど居なかった。外に出たがらず小さい頃は一日中、祖父の工房で人形作りを眺めていた。話相手と言えば店の人形達と祖父、隣に住んでるオルガ。アリスの年頃の子が恋をするのは普通だったがアリスは人形師としての勉強にしか興味がなかった。




「はぁはぁ…この坂道長いわね…エマ様のお家はまだかしら。」か細いアリスには過酷な山道だ。息を切らせながらアリスは昨夜の夢を思い出していた。

「何だかとても不思議な夢だったわ、私の名前を呼ぶ人…。でも、安心する懐かしい声…。一体なんだったのかしら…もう一度見たら分かるのかな。。あっ!それより生地合わせで持ってきた布、これで足りたかしら。」


色々と考えて長い坂道が頂上になる頃、ドニエ邸が見えて来た。


「…すっごい…大きなお屋敷だわ…下の街から見るのと違うのね。入口の門はここかしら?」アリスの住む場所からでは、高台に見える一面だけだったので想像以上の家に驚いた。


「ごめんくださーい…」門から進むと一面が綺麗に手入れされた庭が広がり、門から続く長いアプローチが二手に分かれる「いらっしゃいませ。アリス様、執事のドニと申します。」

「…っ!!は、初めましてアリス・デュフルクです。」

「エマお嬢様はバラ園でお待ちですので…こちらです。おじい様のルネ様はお元気ですか?」

「は、はい!」

緊張しながら案内されると、真っ赤に咲くバラ園の奥からエマがやってきた。



「ごきげんよう、アリス。疲れたでしょう?」

「こんにちはエマ様。立派なお屋敷で驚きました。。バラ園もとても素敵です…。お姫様みたいだわ。」

「ありがとうアリス、こちらにかけて。ドニがお茶の用意をするわ、もちろんお菓子もね…ウフフ。」

「エマ様…!私はお仕事に来たのですから、どうかお気遣いなく…」

「あなたは遠慮しすぎよ?妹の様なアリスとお茶をしながらお菓子を食べれるなんて、私嬉しいの。」


「いつも、このバラ園では一人なの…どんなに美しい花もおいしいお茶も一人では色褪せてしまうものよ…

今日はアリスが来るからお菓子も沢山よ。あなたが一緒に食べてくれなきゃ、私だけでは太ってしまうわ。」

「ウフフ…そうですね。」

目の前に並ぶ色鮮やかな西洋菓子とお茶を一緒に楽しんでいると、どこか寂しい目をしているエマは居なかった。




「アリスこちらよ。」

楽しいお茶の時間を終えると屋敷の中に案内された。

…何て広いのかしら、ご両親とは一緒に住んでないとおじいちゃんから聞いたけど。。

エマ様一人では心細いはずだわ…


宝飾された玄関の大理石ホールを抜けアンティーク暖炉の前を通ると大きな扉があった。

「さあ、入って。」

…これはっ…

目の前に映ったのは大きな部屋いっぱいに沢山の飾られたガラスやコレクションの数々、きっと値のつけられない物ばかりだろう。

その中には美人形達ドールが居た。「エマ様…このドールは…」「ええ。あなたのお祖父様や、そのまたおじい様達がドニエ家へ作ってくれた子達よ。小さい頃、両親が忙しく一人で居た私はドニしか遊び相手が居なくてね…あなたのお祖父様…ルネが作ってくれた子もいるわ。」


…素晴らしいわ…

ほんのさっきまで動いていたかの様な人形達…。いや、今にも動き出しそうと言うべきか。その出来はアリスが見た時のない完璧な仕上がりの人形達ばかりだ。高級なソファーに背もたれながら足を組み本を読む紳士な男性、窓際にあるテーブルセットには妖艶で気品のある女性と、女性的にも見えるほどの美麗な男性ドールがお茶の最中だった。

「…エマ様…」言葉を無くし見とれるアリスに、「アリス。これが人形師なのよ。。あなたにしか出来ない仕事」


そして…エマがアリスの手をそっと引くと「この子をお願いするわ。」

彫刻と宝石の施されている箱の前まで行き、アリスよりも大きな箱の蓋を開ける。


そこに眠っていたのは…今にも起きだしそうな優しい寝顔の、それはまた優美な人形だった。










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