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~最終話~

チュン…チュンチュン



「……………………………」



目覚めを促す鳥の声を、私は酷く冷静に聞いていた。


------ゆっくりと、目を開ける。


「とうとう、来ちゃった…」


私はベットから起き上がると、大きく背伸びをする。

………案外落ち着いてるなと自分で思った。


今日は皆と過ごせる最後の日。

昨日まであんなに怯えていたのに、いざその日が来てしまうとある意味覚悟が決まるのかもしれない。

「きっとみんな、待ってるわよね」


ちゃんと顔をあげて、一番の笑顔で〔おはよう〕って言おう。

寂しいからって…最後まで情けない顔で過ごすなんて嫌だもの…


「これでよし、っと……」

鏡の前で軽くチェックをすると、そこに映る自分に向かって小さく頷き、部屋を出る。



さあ、みんなに会いに行こう。




そして-------------。

残りわずかな時間を、すべて愛おしい思い出で埋め尽くすのだ。



「ええと……。忘れ物はないわよね」


昨夜決めた通り、大聖堂の礼拝に出る事を決めていたため支度の真っ最中。

初めから、朝食は抜いてランチをゆっくりするつもりだったが…ジゼルの姿が見えない…。


「…ねぇ、皆ジゼルを知らない?そろそろ出ないと。」


シャルル

『ああ、ジゼルなら教会の前に届け物があると言って現地で集合したいと言ってたよ?』


「え…?そんな…昨日は何も言ってなかったわ。。」


リディ

『私達も、随分と遅い時間に聞いたから…アリスさんを起こしたくなかったのね。』


「そう…。寂しいけど仕方ないわね。。教会に行ったら会えるもの、皆も急ぎましょ?」

準備を終えた私は、そう言って彼らを振り返る。するとクロードが首を傾げて聞いてきた---



クロード

『アランの姿が見えないようだが……』


「うん……」私を家に送ってから出て行った彼はまだ戻っていない。先に行って待ってろと言われた事をどう答えるべきか少し迷った。それに…私にも事情が分からない。。



「でも……、きっと来てくれると思う。そう約束したもの…だから大丈夫。ジゼルも待ってるわ」

結局言えたのは、半ば自分に言い聞かせるようなその一言だけだった…


クロード

『そうか…。あの極悪人形を信じるのは、少しばかり危険かとは思うが…。君がそういうならもう何も言わないでおくよ』


「クロードったら……」

相変わらず、アランには厳しいなあ。そう思いつつも、今はそれ以上詳しい事を聞かずにいてくれることにホッとするアリス…


リディ

『では、参りましょうか』


「うん。行きましょう。…今はみんなで」私達は頷いてリビングを出た。




---------------------------




教会につく頃には、既に人々が集まり始めている。

けれど、礼拝の時間にはまだ少し時間が早かったのか中に入る人もまばらだ


「ねぇ、みんな少しお願いがあるんだけれど-------」

どうやって時間を潰そうかと話している彼らに、私は一つ頼み事をした


長い坂の上にある教会からは、町が一望できて一色の屋根達で広がるアリスの街。アリスは少し散歩をしてくると言って、一人礼拝の前に丘から町を眺めていた。


「…………………」

きっと…おじいちゃんも、ここから同じ景色を見てたはず。。。

ここに立っておじいちゃんは何を考えたのかな-----。


みんなにワガママを言ってまで先にここを訪れたのは、少し一人になりたかったから…

おじいちゃんからいつも聞いていた、この丘で報告があったからだ…



「………ねえ、お祖父ちゃん私ね、………大切な人が出来たみたい。でも、まだ分からないの。。

もしかしたら…ずっと一緒にはいられないかもしれないし、けど私…きっと後悔はしないと思う。どんな結末を迎えても。…きっと。」


自分に聞かせるように呟き、広がる街に向かって静かに微笑む。


「だから、見守っていてね。お祖父ちゃん……。」


その時、礼拝の始まりを告げる鐘の音が聞こえた。

「……もう行かなきゃ」きっと皆が待ってる。






------------教会の前では、少し焦れた顔でみんなが私を待っていた。


シャルル

『あ…。来た!早くおいで、もう始まってしまうよ』


「ご、ごめんなさい…」慌てて謝る私に、シャルルは小さく微笑む。


シャルル

『…お祖父さんに報告があったんだね?構わないよ。』


「シャルル……」


シャルル

『……さあ、行こう』

私は頷き。差伸べられた手を取って皆と共に教会へと入っていく。

礼拝が始まる直前の、奇妙な高潔感が辺りを包んでいた----


子供達も両親に連れられて礼拝に来ている………幸せそうだな。私は素直にそう思い、微笑ましくその光景を見ていた。



-------そんな時


司祭様が現れるのと同時に、集まった人々の声がゆっくり静まる。

私達も、祭壇の方へと目を向けた------すると。。。



礼拝堂の片隅に置かれていたオルガンが、奏者の意を豊かな音色と共に伝える。

祭壇に立つのは、一人の歌姫…


司祭様とこの場にいる全員が見守る中、やがて伸びやかな美声が響き渡った。


「………………………………」




私は声もなく、その歌に聴き入る。。。

荘厳な響きは心に染み入り、全ての傷を癒すかのように私達を包み込んでいてくれた。



--------------ふと、頬を涙が伝うのに気づく。誰かを信じる気持ち…誰かを愛おしく思う気持ち…

自分の中にあるとびきり綺麗な気持ちが美しい旋律に共鳴するように、どんどん増して行く様な気がした。



以前の私ならば、この賛美歌を聴きながらささやかながらも平穏で幸せな日々や-------、

私の身近にいる優しい人たち全てに感謝を捧げていただろう。

……けれど、今の私が思うのは、ただ一人の事。

その人に出逢えた奇跡、そして…想いが通じ合えた喜びに、感謝している。…改めて、思う。



特別な人が出来るという事は、こういうことなのだ……

甘く、切なく、けれど幸せな想い-------。




今ここにいる人達も、私と同じように頭の中に大切な人を、想い浮かべているんだろうか……

私は涙を止めようとせずに、じっと歌声に耳を傾けていた。


いつしかその歌声が止んでしまった後も、耳に残る余韻は私の中に留まったまま。

まるで、未だ現れない人を待つ私を、優しく慰めてくれているようだった。。。。






礼拝が終わり、集まった人々も続々と教会から出て行こうとしていた。けれど私は、どうしても席を立つ気になれづにいた…


今ここを動いたら、あっという間に現実の時間が流れ始めてしまう気がして…動けなかったのだ

…その時。

とん、と肩を叩く手に顔をあげると-----。


クロード

『………終わってしまったな。』


「………うん」


クロード

『美しい歌だった。…人間の心とは、時にこれほどの美しさを秘めているものなのだな…』


シャルル

『ああ。………だからこそ、惹かれてやまない』


リディ

『時に、憧れや敬愛の気持が、別のものに変わるほどにね…』


「え……?」


その意味深な一言に、私は動きを止める。彼らは皆、微笑んでいた。

まるで全てを見透かしているかのように。。。


リディ

『ジゼルは来ないわ……。その代わりに、あなたに素敵な贈り物を届けてくれたわ。待ってる人はすぐそこよ…』


『リディ………?』


皆、気づいていたんだ……私達のことに……。


クロード

『行っておいでアリス。……そして、君の望むものを手にするんだ。』


シャルル

『僕達はいつだって、君の幸せを願っているんだから……』

見守るような瞳に、じんと熱くなる。ごめんねと言いかけてすぐに止めた、……相応しい言葉はこれじゃない…



「ありがとう、みんな……」

精一杯の笑顔でそう言うと、皆は笑って頷いてくれる…私もまた、それに頷き--------


外で待っているだろう人を目指し、礼拝堂を飛び出したのだった。





教会を出てすぐに、アランの姿は見つかった。彼の姿が、まるでそこだけ切り取られたかのように鮮やかに見える。


これも…恋の力?


思うよりも先に私は彼へと駆け出していた。



「アラン………!」


アラン

『走るなっ。別ににげねえから』


「わ、わかってる……!」



『本当に落ち着きがねえな、お前は。見てるだけで疲れそうだ』


「う………」


『しかもこれからは、現実に疲労を感じるんだからな……やってられねえ』


「え?」

困惑する私に、アランは呆れ顔で呟く。



『………気づいてねえし』


「??アラン、一体………」


『姿形だけじゃわかんねえってのも、結構皮肉だよな……』

そう言って、苦笑いする彼に、相変わらず私は首を傾げたままで……



『だったら、分かりやすくいくか』


少し悪戯な声と共に、伸びてきた手が優しく私を引き寄せた-------。






その胸元に押し付けるように、彼は私を自分の腕の中に閉じ込めた。

「アラン……?」


『黙って……そのまま、耳を澄ませろ』


「…………?」


ささやく声に訳が分からないまま私は目を閉じた。。。そして、じっと耳を澄ませる。。。

一体、何が…


-----ドクンっ、ドクンっ------------


「……………!!!」


かすかに聞こえたその音に、私は目を見開いた


「うそ………」




『嘘じゃねえよ……信じれねえなら、何度でも澄ませていい…お前が信じれるまで』


「アラン…、だって……」

響く鼓動の音は確かにこの耳に届いている、抱きしめてくれる腕も、身体も、ほんのりと暖かな体温を伝えてくれている。それでも、あまりにも夢見たいで問わずにいられなかった…


「どうして……?」


腕の中から私をそっと離すと-----。


『俺が持つ精霊としての力全てと、そして……長い時間を生きる命----ジゼルの魂で、この身体を造った。あいつがお前の為なら何でもしてやれるって言って、精霊の身全てを捧げて造ったんだ。ったくあのチビ……っ』


「…ジゼルっ…っ…そんな…」



『全ての力を使っても俺一人の力では、この人間の身体で寿命が足らな過ぎたから。お前に寿命を分けさせる訳にいかねえだろ…。あいつの意思だ』


「ジゼル私の為に?…どうしてっ…それじゃジゼルが…っ」


『これでもう後戻りはできねえが……。ま、俺もあいつも自分で決めた事だ』


「アラン……」

……何て言えばいいんだろう。あっさりとアランは説明してくれたけど、それはとても二人にとって重い決断だ。



それまでの自分の全てを捨てて、身体ごと生まれ変わる-----。ジゼルが全てを捧げて造ってくれたその身体を涙で濡らして抱きしめる事しか出来ない。。




『泣くなっ。さて……。それじゃ行くか』


「え?」

唐突な話題転換に戸惑う私に、アランは実に楽しげに笑う。手を引かれ連れて来られたのは----。




「マリア様……。」

神聖に輝く黒いマリア像は全てを知ってるように、アランとアリスを見ていた。


『…お前が、昔見たいって言っただろ。マリア像がこの街の守護人なら…俺がお前を守ってやるよ』

真っ赤になって慌てる私を見てアランはいつもの様に言った。



『まさか嫌とは言わねえだろうな。……あれだけあおっといて、帰ったら邪魔な奴らは追い出して昨日の続きだなっ』


「そ、それは……あの…」


『バーーカ』

アランはふっと目元を緩めた。


『いいから来い、感激の涙は後で見せろ。……いいな?』

既に目から涙を浮かべかけてた私をからかう様な声が、笑う。


「……もう。本当に……、意地悪なんだから…!」

嬉しさと、恥ずかしさと、ジゼルへの仕切れない感謝とそれ以上の愛おしさで頭が一杯で-----

それでも何だか悔しくて、涙に滲む瞳に精いっぱい力をこめてアランをにらんだ。



『それでもいいって言ったのは、お前だろ?』

笑い混じりの言葉が終わる前に私はまたアランの腕の中へと飛び込んでいた----------------。










夢にまで見た願いが確かに今、この手の中にある。


抱きしめられた腕の中に、私はハッキリとそれを感じた……。





「また繰り返したいと思える人生を」

































































































 

























































































ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。

未熟で目に余るかと思いますが…エピローグを加えさせて頂きますので、その後のアリスとアランの様子を呼んで頂ければと思います。

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