~③~
「…はよ。。」
---んん…ぅ~ん---
「お・は・よ・うっ」
…なんだかうるさいなぁ…
「アリス姫?起きないと可愛い寝顔にキスしてしまうよ?…いいんだね。。。」
…っキス??!!…
頭上から聞こえる方へ瞼を開けるとシャルルが覗きこんでいた。
「…ぃいやぁあああ!!」朝から変な声をあげ目覚めた。
「うん。うん。元気な朝だね----姫はキスで目覚めるのかと思ったよ。」
シャルルの笑顔は眩しいが、無防備な寝顔を見られアリスの顔は熱くなってしまう。
「起きたわ、起きたからお願いあっちに行って!」
彼は楽しげに微笑んだ。
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早速の共同生活第一歩目はシャルルに起こされる朝ではじまったのだ。
リビングで思わず漏れたため息に、またシャルルが微笑む。
『レディの物憂いげなため息もよいのだが、君には笑顔の方が似合うと思うよ?』
「もう…シャ、シャルルったら…」
『事実だ。君はやはり、笑顔がいい』そう言って私をみつめた。
…正直、とても心臓に悪い。
「どうしたの…?」
『いや。…君は、とても綺麗にになったね。』
「ええっ!?」
『以前は愛らしい印象の方が強かったが、今はとても綺麗だ。立派なレディだよ。』
顔が真っ赤になってるのが自分でもわかる。アリスはオロオロとシャルルを見つめ返し、言った。
「綺麗とか言ってもらえるほど変わったと思わないけど…けど今私が前を向いていられるのは、皆が勇気を与えてくれたからなの。全部みんなのおかげだわ。」
目を細め黙ったまま見つめられると、なんだか落ち着かない。
「…シャルル?」
『………やはり君は綺麗になった。』
「ま、またそういうこと……!からかわないで。」
アリスは口唇を尖らせ、少しだけシャルルを睨んだのだった。
『…ともかく、せかっくこんな機会が与えられたのっだから、後悔のすることのないよう素晴らしい時間を過ごしたいものだね』
「………うん。そうよね。」しみじみとうなづき、私も笑みを浮かべる。
「どうぞよろしくお願いします。」
シャルルはもちろんと笑ってくれた。……それがとても嬉しかった。
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少しすると出かけていた、皆が帰ってきた。朝食の買出しに出ていたジゼルやリディ、フラフラと散歩を楽しんでいたアランとクロード達、全員が集まったリビングにはにぎやかな声が響く。
アリスはジゼルの作ってくれた朝食に涙が出そうなほど感激し-----。
彼らはアリスを囲んで、それぞれに楽しい話を聞かせてくれた。ひやっとする場面もあるがケンカするのは仲の良い証拠だ。
………………けれど。
明日に近づく栄光の三日間の祭りの話になると、アリスは凍りついた。
来年の今頃には皆と別れなきゃならない。その事実を頭がよぎる…。
アラン
『そんな…悲しい顔するなよ。っこうやって会えただけでもマシだと思わねぇと。』
リディ
『ええ…そうよアリスさん。』
クロード
『一年という時間をいかに有効に使うか。今はそれを考えるべきだと思うよ?身体があるうちにしか出来ない事もある、計画性をもって行動しなければ。』
ジゼルが冷静につっこむ
「それはクロードのタイムスケジュールの心配でしょう?」
クロード
『っそうではない!誤解するなアリス。私はただっ…』
慌てる彼を見てアリスも少しだけ笑みをもらした。
少し複雑な笑顔をした私にシャルルも笑みでこたえる
アラン
『っけど、一年かぁ…長いのか短いのか…。』
眉間にしわ寄せたアランが呟く。
「アランは、何かしたいことあるの?」
『はぁ?俺達は、お前の力で目覚めたんだぞ。俺達じゃなく…自分のしたい事考えろよ。叶えてやる。』
ふてくされながら話すアランの言葉は態度の反対で優しかった。
--------うぅ~ん…。じゃあ!
「お買い物に行きたい…。。明日からはお祭りだし混んでしまうから、色々買出しをすませておかないと…」
アラン
『っそんなことでいいのか?!』
「…だって。そんな急に言われても思いつかないわよ…。」
リディ
『いいじゃない!そろいも揃って男が居るんだから、荷物持ちには不自由しなくてよ…クスクス』
「や、やっぱり遠慮しておくわ…悪いもの…。」
アラン
『黙って誰か連れて行っとけ。買い物なら尚更だ。お前一人では…』
呆れ顔のアランが話しをしていると割って入ったのはクロードだった。
クロード
『それほど危惧するのであれば、お前がついて行けばいいだろう。』
アラン
『バカ言うな、何で俺が----』
クロード
『私が行っても構わないが。買い物が終わったらアリスには、大人のエスコートとして夜の過ごし方を教えなくてはならない。プランを組むには少し急な---』
アラン
『ぁぁーっ!もう。わかったよ!!危ねぇからお前には行かせない。俺が行く!』
うまくのせられている様アランを見てふきだしてしまう。。
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青果市場は祭りとは関係なくいつも大賑わいだ。
隙間のないほどの露天、張りのある声で客寄せをする店員さん。足をとめる人の波をぬって呼び売り商人が売り込みに入る。
『ったく……。とにかくウロウロするなよ?客引きに乗せられるのも厳禁だ。』
「大丈夫よ!心配しないで。」
『……だといいけどな』
結局、似合わない買い物カゴを持ちながら不機嫌そうに一緒に来てくれた。
客引き
「いらっしゃいっ!いらっしゃいっ!お嬢さんっ。新鮮な魚だよ!今日の朝、獲れたばかりだ」
まだ生きている新鮮な魚をみて足をとめるが
「今日はお預けなの!」
客引き
「なぁんだい!じゃあまた寄ってくれ!」
さらりと流した私に、アランが意外そうな顔をする。
「…ほらね、心配ないでしょう?」
『まぁ……。この調子でいってくれりゃな』
素直じゃない褒め言葉に、内心でヨシ!と喜ぶ私。
どんなことだっていい、意地悪を言われるアランに認められるのは格別な気分だ。
そして私達は連れ立って市場を歩いていたけれど------。
15分もしないうちに状況は一変していた。
「あぁっ!!今日はソラマメとパプリカが入ってる!」
『…おい。お前が買うのは鶏肉とジャガイモじゃなかったのか』
「だってこんな新鮮な……ぅぅ、ちょっと高いわね。」
『ならやめとけ、ほら行くぞ。』
「…でもジゼルが初めて作ってくれたソラマメのスープが、っすーごく美味しかったの!また食べたいし…」
『だったら買えばいいだろ。』
「うん……。でもやっぱり高いなぁ、パプリカも欲しいし…」
『あのな……。買うのか買わねぇのかハッキリしろっ!!』
「悩んでるんだから、ちょっと待ってて!」
『………………。』
-----結局。
交渉を経て、ソラマメを少し多く買うかわりに、パプリカをおまけしてもらう事に成功した。
戦利品をアランに渡し安堵の息をつく。
「これで、予算オーバーしないで済むわ…はぁ、よかった。」
『…あぁそ。そりゃよかったな。』
「うん!本当に助かったわ----ん?」
客引き
「バナナ、レーズン、オレンジ、チェリー!ドライフルーツはいかが?!」
「…!!!。」
「明日はお祭りだよ!ワインと一緒にどうだい?!お嬢さんっ!パンを焼くなら最高のドライフルーツだよ!」
「あ、…そうだわ!ドライフルーツも買い足さないと…」
アラン
『待て。鶏肉とジャガイモが先だろ!』
「見てくるだけよ、大丈夫。」
アラン
『大丈夫って、お前---おいっ!?』
客引き
「今買えば、お安くするよ!じきになくなっちまうよ!」
「早く行かないと売り切れちゃう!アラン早くっ!!」
私は大慌てで露店に駆け込んだ。
呼び込み通り安売りのドライフルーツはなくなりかけていた。
客引き
「はいよ、まいどあり!」
「ふぅ……。よかったぁぁ…。アラン売れきれる前に来てよかったでしょう?」
私は喜色満面にアランを振り返り-----。
「………………え?アラン??どこにいるの?」
そこにアランが居なかった事にやっと気づいた。きょろきょろ見回してみても、姿は見当たらない。
「どうしよう……、はぐれちゃったの!?」
路地でオロオロしている私を避けるように人波はどんどん動いていく。
これだけの人の中、アランをどうやって探せばいいのだろう!?半ばパニックを起こしながら---。
「…動いちゃだめ、きっとアランが見つけてくれるもの。」
一気に不安が募るのをこらえながら、私はじっとその場でアランを待つ。……きっとすごく怒られる。
いつもは一人で来てた市場にアランと来れて、一緒に買い物が出来て知らずと浮かれていたんだ…
色鮮やかな果実や野菜を見て、これは安い、これが美味しそう何て会話をしながらの買い物は楽しかった。
楽しすぎてしまったから…舞い上がってしまったんだと思う。
「アラン……。」
こんなことなら、言うこと聞いて先に鶏肉とジャガイモを先に買いにいけば良かった!
怒って帰っちゃったのかな…。。
「ごめんなさい…アラン…。もぅ余所見しないから早く戻ってきて、アラン…。いじわるしないでょぉ…。」
---ガシッ!!---
力強く腕をつかんだのはアラン。
「!?」
アラン
『誰が意地悪だっ!?…どれだけ探したと思ってんだよ!!反省するならもっと早くしろ。……ったく、このばかが。』
後ろから聞こえたのはアランの声。
「アラン……!!」
思わず涙目になって見上げた私に、アランは呆れた顔で肩をすくめる。
『迷子なんか泣くほどじゃねぇだろうが。大げさな奴だな。』
「…っそ、そんなんじゃないわ!」
私は慌てて目をこすり、ひたすら平謝りをした。
「本当にごめんなさい。もう勝手に動き回ったりしないわ」
『あーー、ぜひともそうしてくれ。面倒くさくてしょうがねぇ。』
「……ごめんね?」
『…っもういい。とっとと買い物済ませて帰るぞ。天気も悪くなってきた。』
「う、うんっ!」
今度こそはぐれないように、手を伸ばして彼の服の裾をつかむのだった。
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途中でアクシデントはあったものの無事に買い物を終えた帰り道。
アリスは延々と、アランから嫌味と意地悪を浴びせられ続けていた。
アラン
『大丈夫って断言した後にアレだ。……もうお前のそれは絶対信用しねえ』
「反省してるもの…。」
『当たり前だ!大いに反省しとけ。』
憤然とそう良いながらも、アランの手には中身がいっぱい詰まった買い物カゴがぶら下がっている。
怒っているくせに、歩調を揃えてくれてる事だって、ちゃんと気づいている。。
「………………」
一歩さがって歩く私はアランの腕を控えめにつつく。
面倒くさそうに振り返った彼に笑顔でこういった。
「…………ありがとう。アランが一緒に来てくれて、すごく楽しかった。」
アランはすごく反応に困った顔で少しの間黙っていた。そして何も言わずにくるりと背を向けて歩きだしてしまう。
「あっ…、待ってよアラン!」
『だから放っとけねぇんだよ…、お前は。』
「え?」
小さな風に乗って聞こえた声が、気のせいだったのかどうか。
確信はなかったけど、アランを追うアリスの頬は緩んでいた----。
帰宅すると…。
「…私にお客様?」
外出から戻ったアリスのケープを脱がせながら、リディが頷く。
リディ
『えぇ。お店にいらっしゃったのに、すぐに帰られたわ。クロードとシャルルが…接客したのだから当然ね。』
ため息をつきながらリディは彼達を見る。
「そう……。どなただったのかしら…ん??クロードとシャルルが接客??」
シャルル
『…僕のせいではないよ?』
クロード
『先に言っておくが、私はなにもしていない。アリス、私のせいではないんだ。』
何の話だろうと、首を傾げるアリスに疲れた顔のリディがまたため息をつく。
リディ
『……アリスさんどうか怒らないで?彼達に悪気はなかったし』
一体どういう事情か尋ねると…
まったくの偶然で、リディとシャルルがたまたま店内で人形を眺めていたら、たまたま鍵をかけ忘た店のドアからお客が入ってきてしまった。
……最初はそれだけの事だったらしい。
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~~カラン、カラ~ン!~~
お客
「お嬢さーん、今日も私に可愛らしいお顔を見せておくれ、そして今夜こそは-----」
リディ
『………あら、お客様かしら?アリスさんなら留守ですわよ?』
お客
「…………なっ!なんとお美しい!!」
お客が甘い声と妖艶なリディに見とれてると
シャルル
『…?…アリス姫は留守だよ?』
そこに加わったシャルルにも呆然として見とれていた。
二人の並ぶ姿は凄まじく目をひく光景だったはずだ…
お客
「-------これは!!なんともっ!美しい御婦人方!ぶしつけながらお二人、今夜のご予定は?」
手にキスをされたシャルルは少し間をおき
シャルル
『…失礼。紳士殿、申し訳ないが僕は男色に興味はないのだよ…。』
リディ
『……ぷっ…。…全ったく…、私は部屋に戻らせて頂くわ?…それでは失礼。』
お客
「…………へ?……!!ひっ…ひゃぁぁぁ…っ!男…!?」
驚いてあげた声にクロードが入ってきて
クロード
『何事だ!!!!……こちらの男性は?アリスへの訪問者か?なんだか不審だな。』
シャルル
『クロード…失礼じゃないか、人を見かけで判断してはいけないよ。こちらの紳士は僕を今夜誘ってくれた方だ。それにお客だったらアリス姫に迷惑がかかってしまうだろう。…申し訳ない紳士殿。』
クロード
『…君を誘ったのか!?なおさら怪しい男性だ!』
お客
「ひっ……!?わ、わわ私はその、ただ---」焦る男を見てクロードが呟く。
クロード
『大方、その姿で性別を見誤ったのでは?紛らわしい格好をしている君が悪いのだろ』
シャルル
『…そんな事を言われても困ってしまうよ………』
シャルル
『失礼、名もなき紳士。もしこの店の人形師、デュフルク嬢に御用なら出直してはもらえないだろうか?』
クロード
『いや、待て。そもそもこの紳士は本当に客であるのだろうか、それにシャルルお前を誘ったのなら紳士とは呼べないだろう。』
シャルル
『……確かに、店に入ってきた時アリス姫に今夜---と』
お客
「…………わ、わ、私は何も!店を間違えたらしい!失礼!」
用件は---と聞いたときには店の外へ逃げてしまったらしい。
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原因はさておき、その様子が想像できてアリスは何も言えなかった。
クロード
『私が思うに、あれは客ではない、明らかに挙動が不審だった。安易に君に近づけるのは危険だよ。』
シャルル
『確かに変わった人物だが…、あんなに疑っては怯えてしまうさ』
クロード
『そういう君が一番混乱させていただろ、もう少し標準的な服装を心掛けたらどうかね』
「ふ、2人ともとにかく落ち着いて!…その方は何も言わずに帰ってしまったのでしょう?御用があるならまた来てくださるわ?…ね?」
二人は複雑そうに黙り込んでしまった。
アラン
『……ま、明らかに店番むきじゃねぇ奴らを店には出すなってはなしだ。それに本気で怪しい奴なら、俺が消して…』
リディ
『…アラン。お下品よ?安心して、アリスさんに悪い虫はつかないように追い払っておくわ。』
「悪い、虫……?」
ジゼル
『虫ですって?!今日も掃除したのにっ。この家に虫なんていれさせないわ!!…どこよっ?!』
台所からジゼルがとんでくる。
アラン
『何でもねぇから、チビはこいつの飯の支度続けろ。』
しばらくリビングでは〔悪い虫〕についての議論が交わされたのだがアリスにはそもそも何の話なのかもサッパリ分からなかったのだった………
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髪を解き、夜着に着替えた私は深いため息をつく。
「ふぅ………。」
明日からはお祭り…、明日へ向けての整った祭りの準備を窓から眺める。祖父が亡くなった一年前と、この賑やかで楽しい日々の終わりをどうしても意識してしまう。
「考えちゃいけないって、わかってるのに。ダメね、私………。」
私はランプを消すと、ベットに潜り込んだ。
「いつまでも続く夢なんて、ないもの。ちゃんと、わかってるわ……」
目を閉じても、まだ皆の声が耳に残っている。
アリスは早く明日が来ることを願いながら眠りについたのだった。