剣を構えろ
〈剣を構えろ〉
俺は荒い息を吐き、剣を斜めに構えていた。
そこは視界を黒で埋め尽くす暗闇。
暗中模索。
駄々広いこの空間で確認できる存在は、眼前に聳える隔壁――全力を以って斬り崩すべき、分厚く高い壁だけだ。
途方もない深淵が内心の不安を掻き立てる。しかし、この場所へ足を踏み入れたのは、他ならぬ俺自身の意志だ。
ある日、無責任に着火したヴァイブスに衝き動かされて俺はここへ訪れた。出入口はすぐそこ。行くだけならば餓鬼でもできる。
この場に立つのに、準備などはまったくしていなかった。ただ安物の剣を片手に、これまでいた狭苦しい縄張りから飛び出してきた。
俺の得物は大して使い込まれていないが、手入れも皆無なだけに刃毀れがちらほら見られる。剣術の心得がろくにないことも、きっとその要因のひとつだろう。
刃を研ぐ方法は知らない。技を磨く術も同様に。
正しく学んでいない出鱈目な剣技で、俺は我武者羅に隔壁に斬撃を浴びせ続けていた。あまりに浅い傷痕をそこに刻み込む。
その姿は、きっと部外者の瞳には無様で滑稽に映るのだろう。
知ったことか。
肩を並べ、拳を合わせる仲間は“今はまだ”いない。
しかし、どこかで同じくこの壁と悪戦苦闘を繰り広げている人間は確実にいる。
その先人たちの勇姿を、俺は知っている。
ある者は孤高を好んでひたすら精進に努め、またある者は互いに協力し合い、友情を深めながら実力をつけていく。
彼らはみな俺よりも立派な得物を力強い拳に握り締め、果敢に壁面を穿っていた。
絶対的な力量差が非情な現実としてそこにはあり、それでも不思議と嫉妬や羨望は湧いてこない。
あるのはただ、純粋な尊敬の念だけ。
しかし憧憬を抱くだけでは彼らの境地に至ることは叶わない。そう自らを奮起させ、剣を携える腕に力を込める。
たったひとりの戦場で、懸命に壁に刻みつけた僅かな痕跡だけが、心身ともに疲弊した俺を癒してくれる。とはいえ、膝を折るほど劣悪な修羅場に陥ったことは未だない、弱音を吐くには早すぎる。
この大地で、俺はまだド新米なのだから。
性懲りもなく闇雲に剣を振る。非力な俺には、それしかできない。
斬る。突く。貫く。
この壁の先へと、俺から――そして剣から生まれる “なんらか”を放つため。
剣はペン、壁に刻むは文章、そして壁の向こうには……誰かの心。
〈not K〉
〈未来、見つめて〉
〈一面の青〉
〈TSUNAGU chain ≠ SHIBARU chain〉
〈実況と 辞書で引いても 答えなし〉
〈僕のハロウィン計画〉
〈I still 愛してる!〉
――これが、俺が振るった刃の軌跡だ。
壁の向こうがどんな状況なのか、俺は知らない。
だけど、伝えたい。
技術も経験もない、ただ溢れ出す荒削りな情熱の奔流を届けたい。
実力は未熟、空回りは百人前。この分厚い隔壁を破るには、俺はまだまだ力不足で。
しかし諦めるなんて選択肢は最初からなかった。
むしろ気概だけは壁を突貫し、頂点を目がけて一直線だ。
大胆不敵。
なにしろ、腹黒と執念深さが唯一の取り柄なのだ。
剣か想いが折れない限り、不格好な一閃を振るい続ける。
ひたすら、阿呆みたいに。
画竜点睛。
読んで頂きありがとうございます!
もうおわかりかと思いますが、これは単なる私の意思表明です。ジャンルは『エッセイ』と迷ったんですが、そう称するのもおこがましいと感じたので、あえて『その他』と致しました。
腹黒とか言っていますけど、リスペクトは本物ですよ! なんかあらぬ誤解を与えそうで怖い!
これから――別方面での至極個人的な創作活動の影響もあって――ただでさえ鈍足だった更新速度がますます遅くなってしまいます。
ですが、ここを離れる気は毛頭ございません。
またいずれ粗末な剣を握り、壁に新たな傷痕を刻みたいと思っておりますので、そのときはどうかよろしくお願い致します!