表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

みじかい小説

みじかい小説 / 039 / 二つのプリン

10月、よく晴れた日の午後のこと、いつものように園子はリビングでパソコンに向かっていた。

玄関のドアを半開きにしているので、心地よい風が足元を流れてゆく。

「だめだ進まん」

園子は思わずそう口にした。

「今日はもう休んだら?」

背後から声をかけるのはバイトから帰ってきた夫である。

スーパーに寄ってきたらしく、大きなビニール袋を冷蔵庫の前で広げている。

「おかえり直樹」

園子はパソコンを閉じ夫に向き直る。

「ただいま園子」

家族間でも挨拶はおろそかにしない。

このルールを、園子はことのほか気に入っていた。

園子が小説で新人賞をとったのは2年前のことである。

受賞後、次々と仕事が舞い込んだが、マイペースな園子はそれらをほぼ断り、食べていくのに必要なだけの量しか請け負ってこなかった。

この日の午後は、そんな全部で3本ある連載のうちの1本に取り組んでいた。

「今進めてる連載に障碍者を登場させたんだけど、がたんと人気が落ちちゃったのよね。残酷な現実よね」

椅子の背に肘を乗せて園子がぼんやりとつぶやく。

「読者は現実逃避できる虚構を求めてるんだから、あんまり身近な例を取り上げると現実味を感じちゃって嫌になるんじゃないかな」

直樹はいつだって真面目に答える。

「でも読者の共感って、現実味を感じさせることで得られるんだけどな」

園子は口を尖らせる。

「いかにリアルな虚構を構築するかで勝負しないと。現実そのものを書いてどうするのさ」

「なるほどねぇ。てか、直樹が書けばいいのに」

園子の唇はいよいよ尖る。

「はいはい」

直樹は片手にスプーンをはさんで、二つのプリンをテーブルの上に置いた。

「この印税が入ったら、引っ越して書斎を持つんでしょ。頑張って」

園子はプリンに手を伸ばす。

「ありがと」

心地よい風が、二人をつつみ、リビングの中をさあっと流れていくのだった。


※この小説は、youtubeショート動画でもお楽しみいただけます。

 以下のurlをご利用ください。

 https://youtube.com/shorts/fIRPv6ICIxg

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ