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私は遠藤碧。

二人の娘を育てている最中の、母親である。

自分のやりたいことを尊重してくれる夫に恵まれ、仕事と家事を分担しながら二人の娘を育てるのは、充実した日々となっていた。


二人の娘はどちらも中学受験をやりたいと言い、勉強頑張って中高一貫校にどちらも合格した。


そんなある日、高校受験とは無縁の中学三年生を楽しむ娘に異世界転生を勧められた。

「絶対面白いから!!」

という娘の押しに負けて渋々通勤中にスマホで読んでいたものの、気がついたらどハマりし、関連小説まであさっていた。


そしてそのブームは、我が家全体に巻き起こって行き、

気がつけば、家族全員でライトノベルを読み漁るオタク家族が出来上がってしまった。



しかしある日、通勤中に通る交差点で普通に渡ろうとしたらトラックが突っ込んできて、咄嗟に庇っちゃって、(以下略)


要するに、異世界転生のテンプレに陥った。

そして、私がテンプレだとわざわざいうのであれば、必ず転生が起きていると考えるよね。


そして私も例外とかは全くなく、普通に転生してきてしまったのだ。

ここまでテンプレであれば大体想像がつくだろう。


私は、自分が唯一『あまり面白くないと思った』ラノベに転生していたのだ。

そこは地味にテンプレか危うい位置にいるが、詳しい情報話そう。


私が転生したラノベは前世でいうと恋愛もので、家族に見下されていた主人公が実はすごい魔法使いだったよーみたいなのがゆっる〜いあらすじ。


もう少し説明すると、

主人公は伯爵家の人間で、自分の父親である伯爵には恋人がいちゃったのに政略結婚でちょっとね〜。

みたいな感じだった。

そこで自分が産まれたあと少しで母親が死んで、すぐに後釜がやってきて、そいつらが主人公蔑ろにするってやつ。


でもある日、この国の王太子様が屋敷に来た時に治療魔法の才能を見抜かれる。

治療魔法は貴重な魔法だったから、何故か結婚したいねってことで王太子が求婚する。



だが、家族たちが阻止しようとして王太子にキレられて断罪され、主人公以外の家族が平民になってそのまま死んじゃった。

その後主人公がひたすらに口説かれ口説かれ、色々なイベントを経て主人公が結婚する話である。



ちょっとでもシリアス入っていればすごく面白く感じるんだけど、後半もう全然読んでなかったから分かんない。

そんな私が、自分の好みに気がつく前に手に取った小説だ。


しかし、恋愛小説も面白いときは面白いので、決して恋愛小説を悪く言うつもりはない。


私は、こういう時に主人公に転生することはないと思っている。

別にあるのかもしれないが、私みたいな娘がいるようないい年した大人が主人公にはならないと思う。


そう思っていたことが何か転生先に影響を与えたのかもしれない。


私は主人公ではなかった。

でも主人公に近い立ち位置。



では、何になったのか。


主人公の母親だった。

正確に言えば義理の母親だ。



主人公のことを虐げ、主人公に大きな心の傷を作った張本人さんである。


ちなみにいうと、私はこの母親嫌いだった。

同じ親としてちょっと許せないと思ったから。


すごくテンプレだなって思いながらも、すごーく微妙な転生先だと思う。

神様だか仏様だが知らないが、勘弁してほしい。



だが、異世界転生というテンプレが発生してしまったので、私も小説の世界でよくある様にテンプレをなぞろうと思う。


早速、空いている紙を使って時系列を整理していく。

部屋の人払いはちゃんとしているので、しっかりと書いていこうと思う。



だいたい今は、主人公であるリンがもうすでに産まれていて、だいたい三才くらい。

でもちょうど今から二年前に妹が産まれている。

物語の始まりは主人公が16歳になった時なので、まだ時間がある。


ちなみにいうと、私が産んだのがその妹の方だ。

名前はカーラと言う。

妹は普段私たち両親に甘えていて、両親も溺愛しているという構図だ。

わがまま娘になりやすい構図でもある。


一方、主人公のリンの立場は危うい。

リンを慕っている侍女を、幼いうちに解雇することに決められたから。


確かその日から、リンは一人になってしまった。

そして、リンは父親にも母親にも暴力を振るわれるようになり、怯えるように縮こまるようになった。


そして、その心の傷を癒すようにして魔法が目覚めた。



確か、侍女たちの一斉解雇はリンがちょうど3歳になった時と書いてあった気がする。



待って、三才になった時!?

今日だよ!!


これはかなりまずい。



要するに私はリンのところに行くべき。


ということで、前世の知識を書くのもそっちのけでリンの元へ走っていた。


リンは、離れに暮らしているというよりも半分軟禁されている。

離れはすぐに分かる場所にあったので、とりあいず走って行ってみることにした。

離れには使用人や侍女たちがついていたはずだ。



離れにやっと着いた。

使用人がいるはずなのに、屋敷の中の手入れは行き届いていない。

所々のよごれが目立つ。

そんな中、とりあいず怒声が聞こえた方へと向かっていくと、次第に状況が見えてきた。


私の夫が、リンに暴言を吐いている。


リンは血が繋がっている娘なのだ。

そりゃ、恋人同士愛し合っていた中で生まれた子供の方が可愛いのかもしれないが、そんなのは子供に関係ない。



さらに、リンを叩くために手を大きく振り上げていたところだったので、


「実の娘に暴力というのは、流石に良くないですよね」


という言葉と共に夫の手首を掴んで止める。


夫はまさか自分が止められるとは思っていなかったらしく、びっくりしている。

リンのことを悪く言っていたのだから当たり前だ。


子供に鉄拳制裁は良くない。



リンは、夫よりもリンの実の母親に似ていて青い髪に緑の瞳をしているため、夫にとっては疎ましいのかもしれない。

カーラは私に似て、赤い髪に赤い瞳をしているからそっちの方が可愛いのかもしれない。


そうであったとしても、娘に暴力を振るうのは良くない。

リンに罪はないし、むしろいい子だ。


気がつけば私は、夫からリンを庇うようにして立ち、


「実の娘に暴力を振るうような人だとは思いませんでした。あなたみたいな人のもとで大切な娘を育てることはできません。離婚しましょう。そしてもうかかわらないでください」


と言い放っていた。



誰もが驚いたであろうその言葉に、一番驚いたのは自分だ。

夫にとっても衝撃が大きかったのだと思う。


今までずっと、一緒にリンを虐げてきたからだ。


毎日毎日愛を囁いていたし一緒にいた。


でも、それでもダメだと思った。

だから、誰になんと言われても私は止まらない。



リンを怖がらせないようになるべく丁寧にそして簡潔に状況を説明するとリンは驚きつつも一緒に来てくれた。


もちろん、リンを慕ってくれている使用人達も全員一緒だ。

私の夫もついてきているが、そんなのは知らん。



リンを連れたままで向かったのは、カーラが寝ている部屋だ。


カーラがいつも寝ている部屋に行き、カーラを連れて帰ることには夫も驚いた顔をしていたが、夫のことは睨みつけて黙らせ、屋敷をあとにした。


さて、屋敷を出てどこかにあてがあるのかというともちろんある。

伊達に小説は読んでいないし、伊達に母親やってない。



私の実家に転がり込む。

私の実家は男爵家なのだが、金があって商売上手なことで有名だ。


よく言えば最近成長し、実力を持った家。

悪く言えば成金だが、もちろんそんな野暮なことは言わないし言えない。


ということでこの家の馬車を拝借し、男爵家に向かうことにする。


我が家は新興の貴族なので、王都の少し外れに位置している。

家は割と遠いので、馬車の中で時間があった。


馬車にはリンとカーラと私だけがいる状態なので、普通にそこそこ気まずい。

その気まずさを解消するために、とりあいず謝罪。


「ごめんなさい。今までリンのことを大切にしないで。これからはもっと、リンのことも大切にするし、二度とこんなことは起こさない」


と。


リンは少しためらいながら、


「ありがとうございます」

と返してくれた。


その後、男爵家についた私たちは、娘にたくさんの愛情を送ることを決意したのであった。




12年後


あれから時が経つのは早いもので、私がリンとカーラを連れて帰って12年となってしまった。

せっかくなので、今の様子をお話ししよう。



夫であったランドリド伯爵とは離婚し、絶縁している。

伯爵と離婚するのには少し時間がかかったが、父と母が離婚手続きを行なってくれた。

今も手紙が届くが、使用人が燃やしているらしい。


私は再婚はせず、2人の子供を父と母の協力のもと育てている。

2人とも、すっかり明るく元気いっぱいだ。

さらに、2人は国内最高峰の学術機関に2人ともトップで合格。

2人してすごく優秀で仲がいい。



明るく快活な2人には、男性からの声がものすごくかかっている。

結婚は2人に任せているので特に強制ではない。


しかし、いつもそれを断っているので、2人は高嶺の花という立ち位置にいるようだ。



2人とも、私と一緒に過ごしたいと子供の時からずっと言ってくれるのは嬉しい限りだ。


ちなみに、元々のストーリーにあるような浮ついた展開は一切起きていない。

リンに治癒魔法の素質は無い。

代わりにリンは水、カーラは火の魔法を極め、


『狂雨のリン』、『業火のカーラ』と呼ばれている。

2人とも、すごく立派になってくれた。



2人のことは、何があっても、どんなことがあっても大好きだからね。

ずっと大切に思っているからね。

初めて短編を書いたのですが、良かったと思ったら、ブックマーク、感想、評価よろしくお願いします。

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