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ヘタレな無自覚野心家の呟き

作者: 夕鈴
掲載日:2026/01/31

裕福な伯爵家に生まれた俺にはずっと好きな人がいる。

ふわふわの金髪に、小柄で、可愛らしい顔立ち。淑女としては欠点だけど、天然で座学より剣術が得意なところも物凄く可愛い。

剣を振り回し、大柄な男を踏みつけ、勝利を噛みしめている所も。

「子ザル」とからかう奴らもいるが、子ザルはきちんと教育すれば頼もしい忠臣になるから、成長に期待と揶揄しているだけだろう。

貴族は政略結婚が主流だったが、時代は変わりつつある。

王太子殿下が恋愛結婚したことで、恋愛結婚を認める家も出てきた。

俺の好きな人、伯爵令嬢リオリーの家も同じ。溺愛している末娘のリオリーに望まれるかが絶対条件と聞いている。

うちの方が資産力はあるし、互いの両親を説得できる自信はあるが、好きな人とは権力でなく、心で結ばれたいので、常に赤い糸になりそうなタイミングを探している。



「私、運命の出会いと赤い糸を見つけましたの!!」

「アルヴィナ?」


リオリーは幼馴染の伯爵令嬢アルヴィナの宣言に愛らしく首を傾げた。



「市井にお忍びで遊びに行ったときに、怖い殿方に声を掛けられたでしょ?」

「護衛を撒いたのはいけなかったよね。アルヴィナは可弱いお嬢様だもの。反省して」


読書が好きなアルヴィナは聖地巡礼!!と叫び、リオリーを連れて出かけるのはよくあること。

リオリーは剣術が得意だが、アルヴィナは武術の心得はない。

眉を吊り上げて、窘めるリオリーも可愛い。あんなに可愛らしく怒られるの羨ましい。


「お母様に怒られましたわ。聞いて!!あの時に助けてくださった方がいたでしょ?颯爽と助けて、何言わずに去っていった殿方!!格好良かった!!」

「うーん。あの人、弱そうだったよ。助けてくれたのは、警備隊を呼んでくれた人だよ。私は状況判断ができた警備隊を呼んでくれた人の方が好きだけど」


良家の子女が護衛もなしに歩いていれば目立つ。

そしてアルヴィナの聖地巡礼は人気のない寂れた場所も含まれるので、絡まれるのを見越して護衛を多めに連れている。それなのに、小説の護衛の撒くシーンに憧れてリオリーの手を引いて実行した所為で怪しい男に絡まれていた。

リオリーが強いのは知っているけど、清らかなリオリーに汚れがつくようなことはやめて欲しい。リオリーの意思で勝負を挑むのはいいけど、巻き込まれるのはちょっと……。

俺ならリオリー達に気付かれないように、護衛の手配を完璧にしてみせるのに。

相談してもらえる関係になりたい……。

ん?

好き?

リオリーの好みの男の話は初めて聞いた。


「リオリーと恋のライバルにならないのは幸運ね。その殿方と図書室でお会いしましたの!!私の届かない本を取ってくださり、おすすめの本も教えてくださったの」

「無理やり取ろうとして、本棚を倒して、書庫整理を命じられた時は大変だったよね。それからは、私はきちんと踏み台を使うようになったよ。でもアルヴィナは違うもんね。惨事を起こすアルヴィナを救ってくれた人は確かにヒーローだね」


あの時は驚いた。

リオリーが床を蹴って、棚の一番上にあった辞書を取ろうとしたが、辞書が抜けず、ぶら下がる形になり、本棚が倒れたんだよな。 

怪我なく着地して、辞書を取って、「結果オーライ?」って笑うところは可愛かったけど、司書に怒られ、恐怖に震えていたよな。

でもそれはアルヴィナにはできないから、ヒーローだろうか?


「周囲を気遣う優しさも素敵。先輩だから、今度お勉強を教えてくださるって」

「優しい人はいいね!!勉強教えてもらうのいいなぁ。私も優しく教えてくれるなら赤い糸の縁が欲しい。お兄様は怖いもの」


その男、タイミングが良すぎないか!?

市井の外れで危機から救い、後日学園で再会。

しかも考古学が好きという珍しい趣味を持つアルヴィナと話を合わせ、次の約束まで取りつけられるスマートさ。

アルヴィナを窘めるのをやめたリオリーがうっとりと笑い、俺の心拍数が上がった。

めちゃくちゃ可愛い。

実はリオリーは運動神経抜群だが勉強は苦手だ。

試験が近くなるとリオリーの兄が付きっ切りで勉強を教えている。

俺も勉強は得意だから、教えるって誘ったらうなずいてくれるだろうか。

でも、どうやって誘えば……。


「でしょ!!今度、剣術大会があるでしょ?お弁当を作って応援に行こうかしら」

「え!?私のお弁当は?」

「そろそろリオリーも真剣にそんな相手を探したほうがいいわ」

「剣術大会は使用人の手を借りずに、食事を用意するって規定が気に入らない。火おこしも狩りもできない学園で美味しいご飯をどうやって用意しろっていうのよ。学園のオーブンやコンロとか、使い方、難しすぎる!!かまどのままが良かった」

「文明の進化についていけないから、子ザルって言われますのよねぇ。リオリーは勉強と機械が苦手ですものねぇ」

「長所を伸ばすほうが効率的、苦手なことは苦手なままでいいよって言ってくれる人がいい!!お兄様とは正反対の!!」


リオリーの兄は、「苦手は努力で補える」が持論の秀才である。

どんなことも平均以下は許さないため、兄の教育に耐えられなくなったリオリーが逃げ出すのは日常茶飯事だ。

妹のリオリーのほうが足が速く、捕まることはないが、リオリーは夕食の時間には必ず帰るためせっかく逃げ切ったのに夕食の席で兄から叱られる繰り返しに気づかないところも可愛い。

リオリーの好きなタイプの男の話を聞いていると、俺でもできそうなことばかりだ。

言いたい。

でも、どうやって?


「リオリー、それ全部叶えてあげるから、俺と婚約を前提に付き合ってくれないか?」

「へ?」


心の声が口に出ていた。

首を傾げるリオリーに見つめられ、心拍が上がる。

最初はリオリーの顔を見るだけで、顔面が赤くなり、言葉が出なかったが、修練を積み、顔を見て、話をできるようになった。

言ってしまった。いや、言えたんなら、このチャンスどうにか掴みたい。

リオリーが俺を見ているなんて、奇跡かもしれないし、二度とそんなチャンスないかもしれない。


「試験勉強も教えるし、お弁当も作るし、俺は機械工学は得意だ。かまどが欲しいなら作ってあげるよ。憧れのシチュエーションがあるなら、喜んでセッティングさせてもらう」

「なんで?」

「好きだから」

「うん。いいよ」

「やっぱり、駄目かな」

「いいけど、」


可愛く笑うリオリーの肩がアルヴィナに掴まれた。

リオリーが真顔のアルヴィナを可愛く見つめて首を傾げている。


「待って、リオリー!!意味をわかってますの?」

「うん。エミールがいいならいいよ。エミールのこと好きだったもの」

「過去形ですか!?」


アルヴィナの驚いた声が響く。

ニコニコ笑っているリオリーの可愛い口からさらっと言われた言葉は幻聴じゃないよな?

白昼夢?


「いつか聞いてほしいことがあるって子供の頃に言われたけど、言われないからこの話は終わったと思ってたの。そろそろお年頃だし、新しいご縁を探してもいいかなぁって」

「覚えて、」

「そこまでお馬鹿じゃないよ。真っ赤な顔で、言い逃げした男の子は可愛かったよ。大きくなってもエミールのお顔は真っ赤になるんだねぇ。リンゴが食べたくなってきたなぁ。帰りにリンゴを探しに行こうかなぁ」


リオリーの家族にリオリーとの婚約の条件を聞きに行った帰りに、庭園で遊んでいるリオリーに必死に伝えたけど、リオリーの可愛さに耐えられず、返事も聞かずに逃げたのは10年前の話だ。

顔を見て、平静を装い話せるようになるには8年かかった。姉が俺の友人であるリオリーの兄の元恋人のおかげで、お互いに名前で呼べている。



「リンゴは私が用意してさしあげます。リオリー、もう少し教えてください。この、いつも付き纏っている男のどこがいいのですか?」

「アルヴィナの選ぶお菓子は絶品だから楽しみ。ありがとう。嬉しいな」

「食べ物の話じゃなく、この男の話をしてくれます?」

「うん。付き纏うはわからないけど、エミールは弱いけど、いつも手伝ってくれるもの。図書室の片付けの時もお兄様を呼んで、手伝わせてくれたでしょ?こないだも騎士を呼んでくれたし、どんな時もできることを探して、頑張っている所は素敵だもの。私にはできない才能だよ」

「それでいいの……」


「リオリーが可愛すぎて、おかしくなりそう」

「お前はうちの妹が関わるといつもおかしかっただろうが。エミールは初心だから、リオリーが主導権を握りそうだな」

「政略結婚しか認められていなかった世の中に恋愛結婚という選択肢が増えた。女性が先導する恋愛があってもいいのでは?あのエミールが告白するなんて、奇跡が起きたのよ。お兄様」

「可愛い妹の男の趣味が悪くないかお兄様は心配だよ。アルヴィナ嬢の恋の相手はもう少し調べたほうがいいよ。愉快な男だが、ご令嬢の遊び相手には向かない。妹よ、帰る時間だ。優しいお兄様が迎えに来たよ」

「え?」

「まだ長期休みの宿題が終わってないだろう?」

「りんごはまた今度でいいや。またね、お兄様、まだ門限には早いので私は失礼します」


風のような速さで飛び出していったリオリーを追える運動神経を持つ者はここにはいない。


「エミールはたまにはリオリーを見習って本能のままに行動してもいいかもしれないな。うちの子ザルの記憶力はむらが激しいから、きちんとしないとなかったことにされるぞ」

「そうですね」


面白がるように揶揄う声に反論する余裕はない。

リオリーの逃げそうな所を必死に探すも、見つからない。


「リオリー、どこに行ったんだよ」

「なぁに?」


目の前で首を傾げるリオリーは可愛い。

リオリーが神出鬼没なのは日常茶飯事だから驚かないけど、会えた運の良さに感謝しよう。


「汗がすごいね。困っているの?手伝おうか。お兄様、呼ぶ?」


そっとハンカチで俺の顔の汗を拭いてくれる優しいリオリー。


「俺と結婚して」


間違えた。いや間違えていないんだけど、順番が違う。


「いいけど、難しいことはエミールがしてくれる?」


お使いを引き受けるような気軽さで可愛く笑って、首を傾げるけど、これでいいの?


「任せて。リオリーの好みの男になれるように努力する」

「私は今のエミールが好きだよ。お顔、真っ赤、可愛い」


俺はめでたく好きな人と恋愛結婚した。

妻の長所を生かす方針に従い、男女の役割がうちでは逆転しているけど些細なことだ。

文明の進化は苦手だが、常識や価値観の変化への順応力や感受性が優れている愛しい人のおかげで、領地も潤っている。


「子ザルの野生の勘もエミールのフィルターにかかれば、凄いな」

「エミールは多才だからありがたいよ。アルヴィナは男の趣味が悪すぎて、政略結婚したけど幸せそう。やっぱり適材適所が一番だよ」



時の流れと共に変化していくものである。

一目惚れしたその足で、婚約の条件を聞きに行く行動力の塊の少年は、初恋の少女の前ではヘタレだった。

努力を重ねた結果、初恋の少女と結ばれた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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エミールが報われて良かった! リオリーとエミールの2人がかわいくてよい!
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