ハロウィンパーティー~トライアングルレッスンU~
「……なんで普通の恰好してるの?」
制服姿で体育館に現れたたくみに、私は思わずそう呟いた。
私達が通う高校には、行事の一つにハロウィンパーティーがある。生徒会主催のイベントで、仮装をしたり用意された料理やお菓子を食べたりするのだ。
「別に良いだろ。仮装するしないは自由なんだから」
「だってハロウィンだよ? 仮装しないと面白くないじゃん」
斯くいう私は、魔女の仮装をしている。バラエティーショップで買える衣装だが、この日の為に用意して楽しみにしていた。
「ひろしだって仮装してるのに」
「郷に入っては郷に従えと言うしな」
警官ゾンビの恰好をしたひろしが私の隣で頷いてみせる。
彼の場合、生徒会が用意している貸し出し用の衣装から選んだという。家庭科部が作ったり寄付を募って集めたりした衣装が別室に用意してあり、自前で準備していない生徒の為に貸し出しているのである。
「たくみも何か着ようよ。ほら、衣装借りにいくよ」
「やめろよ、ゆいこ。恥ずかしい!」
引っ張っていこうとする私に抵抗していたたくみだったが、ふと体育館の入り口を見遣ってはっとしたかと思うと、私の手を振り解いて近くのテーブルの陰に隠れた。
「な、何? どうしたの?」
「せ、先生がそこに……この間、小テストで0点取って目つけられてんだよ」
「0点……」
取ろうと思っても中々取れない点数に驚きだが、要はあそこにいる先生に見つかりたくないということなのだろう。私はこれ幸いとにんまり笑って、再びたくみの手を引いた。
「じゃ、見つからないようにしよう。こっち来て」
*
「……だからってなんでこうなるんだよ」
青が基調のドレスに白いパンプス、頭には金髪の鬘を被る。軽くメイクもしてもらったが、地が良い為か黙っていれば女子に見えるくらい肌が綺麗だ。
想像以上の仕上がりに複雑な思いを抱えながらも、たくみに仮装をさせられたことに満足感を覚える。
「いいじゃん、似合ってるんだから」
「確かに、思ったより完成度が高いな」
「褒められても嬉しくねぇ」
たくみは不機嫌そうにしながらも、観念して廊下を歩き始めた。ひろしが先頭を行き、私とたくみが並んで後に続く。
私は歩きながら、そっとたくみの顔を窺った。本当に綺麗な顔をしている。
その横顔にドキドキして気を取られていたせいか、履き慣れないヒールが滑って前につんのめった。転ぶと思って目を瞑ったが、ふわりと何かに抱き留められる。
「何やってんだよ。大丈夫か?」
目を開けると、たくみの顔が目の前にあった。思わず頬が熱くなる。
「ご、ごめん。ちょっと滑って」
すぐに退こうと私が身を捩った時、下の方からぐきっという嫌な音がした。
「――~~いってえええええ」
たくみがその場にしゃがみ込む。どうやら、私が動いた拍子に足を捻ったらしい。
「だから嫌なんだよ、こんな恰好!」
「……保健室までお姫様抱っこでもするか?」
「断るっ!」
ひろしの天然発言に即座に拒否反応を示すたくみに、悪いと思いながらも私は笑いが堪え切れなかった。