見つめるだけ…
麗人って、妙な吸引力が有りませんか?画面越しでこの迫力なら、近距離且つ素で見てしまったら……
王都の学院に受験する事になり、馬車を乗り継いで、遠い親戚を頼って一人で出て来たのだけど。村と違って人は多いし、みんな歩くのが速い。一応、聞いた道順のメモに沿って、高い建物や煌びやかな店に見惚れながら歩いている内に、所謂、迷子になったらしい。ちゃんとメモの通りに歩いて来たつもりだけど、何処かで曲がり間違えたのだと思う。
ただ、強がりを言わせてもらうなら、親戚との待ち合わせ場所に向かう正しい道から逸れただけで、私は違う目印?に添って歩いているのだから、迷ってはいない筈……
「なぁ、ポゥって口が半分開いてるあの子、ずっと俺らの後ろ歩いているよな。この先にあんな子に向きそうな店ってあったっけ?」
「無いって分かってて言ってるよね。学生さんっぽいけど学院は逆方向だよね。もしかして、学院への道に迷ってしまって、僕達を同じ学生だと思って付いて来てるのかもね。学院に向かっていると思い込んでさ。
ポール、声掛けてあげたら? なんて親切な方。って好意持たれるかもよ。(笑)」
「いや、どう見てもあの視線の先は俺じゃ無いな。マックの方を見てるぜ。」
馬車を降りた先の店から出て来た二人組が、後ろをチラチラと見ながら、肩を組んで仲良さそうに話している。都会って、ホントに凄いわね。村に居たら一生見る事が無い位綺麗な人が生息しているのね。私はポゥと彼女を眺めたまま、歩みを止めた彼らと一緒に足を止めていました。
ちょっと粗野に見える男性には勿体無い程綺麗な女性が、私を流し見た!気がして、私は更にドキドキしてしまったわ。ただ、身長が高過ぎるかな?でも、男性がもっと背が高ければ問題なし。すると、徐ろに二人が引き返して来たのです。
「あのさ、勘違いだったら良いんだけどさ。あんた迷子? それともこの先に目的地が在るのかな?」
なんと、彼氏さんに話し掛けられてしまいました!いきなり知らない子に話しかけても許されるイケメン属性だと思っているのかしら?でも、あんなに綺麗な彼女さんが一緒なのだから危なくは無いのでしょうし、彼女さんが見てるから私は礼儀正しく対応しなきゃね。
「いいえ、今日出て来たばかりでこの辺に土地勘は有りませんが、多分、来た道を戻ればメモに有る待ち合わせ場所に着けると思いますので、きっと迷子では無いと思います。
因みに、この先に何があるのかを知らないので、目的地が合っているのかは分かりません。」
取り敢えず聞かれた事には答えなきゃ。と思ったので、冷静にそしてお淑やかに答えたつもりが、何故か二人に爆笑されてます。すると今度は麗しい彼女さんが、
「多分、今のあなたの状態を一般的に迷子と言うのよ。で、どうしてこんな所を歩いているのか聞いても良いかな?」
と、ハスキーな声で聞いて来ました。なんとなく機嫌良く無さそう?あ、折角のデートを私が邪魔してしまったのですね。彼にあなたは勿体無いと思いますけど、それは私の私見ですからね。此処は素直に謝らなくちゃ。
「あ、ごめんなさい。お姉さまがあまりに麗しいので。村にこんな綺麗な人は居なかったから、眼福至福と思って、ウットリしてしまって、気付いたらその、何時の間にか付いて来てしまってました。」
ウットリと話し始めましたが、ハッと我に還って私が焦って謝ると二人は顔を見合わせてキョトンとしてしまいました。えっと、謝罪は受け入れてもらえたのでしょうか。
これ以上お二人の時間を邪魔しては申し訳ないし、これ以上怒らせたくも無いので、取り敢えず、ペコリとお辞儀をしてクルリと振り返り、来た道を戻る事にしたのですが、何故か、身体が動きません。私の肩をお姉さまの骨張った手が力強く捕まえていました。
「あー、お姉さまって、もしかして私の事かな?」
ちょっと目が怖いです。何故、睨まれているのでしょう?綺麗って、都会でも褒め言葉ですよね?怒られる意味が分かりません。どう見ても私の方が年下だと思いますし、私、お姉さまを貶してませんよ。捕まえられた肩は痛いし、意味不明で不安になった私の心の声が出ていたようで、お腹を抱えて笑い転げていた彼氏さんが、
「君の言う麗しのお姉さまね、彼は男だぜ。」
と涙を拭きながら爆弾を落としました。私の住んでいた村の、村一番と言われていたお姉さまより綺麗なのに、男の人?嘘よね!焦っている私の心の声はまたもやダダ漏れしているらしくお二人には筒抜けで、
「綺麗ね。うん、褒め言葉には違いないけど。ま、良いか。で、あなたはなんで私達の後を付けて来たの?って質問の答えは、私の顔のせいで合ってる?」
信じられないけど、女性より綺麗な男性。と言う事実に驚愕したまま、言葉も無く頷きました。すると、綺麗なお姉さま…じゃない、お兄さまが苦笑しながら、
「こんな所まで迷子にさせてしまった責任を取って、馬車の停留所まで送ってあげる。付いて来なさい。」
と言ってくれました。もう一人の彼氏と思っていた方も、
「運良く、俺らが悪い奴じゃ無かったから無事で済んだけど、このまま拐われて何処かに売り飛ばされたり、言葉に出せない位の酷い目に遭う確率の方が高いからな。あまりポヤポヤしてんじゃないぞ。」
と注意してくれました。戻る道すがらに聞いたお話では、マック様とポール様はお二人共お貴族様で、今日はお忍びで遊んでいて、家に帰る途中だったそうです。あの道の先は貴族街だったらしいです。更に、私が受験に合格すればお二人の後輩になれる事を教えてもらい、絶対、学院に受からなきゃ!と心に誓いましたとも。
贅沢にもお貴族様のお二人に道案内をして頂き、無事に親戚に合流出来ました。時間に遅れた訳を知った上に、迷惑をお掛けしたお二人がお貴族様と知って、顔色を無くした親戚からはとても叱られました。最初は待ち合わせ時間に遅れたせいですれ違ったのかもと心配してくれていたとかで、私の迂闊な行動がバレてかなり叱られましたが、結果オーライです。(涙目)
親戚の家で集中して勉強を見直した成果も有り、受験には成功して無事に合格し、4月からはお二人の後輩に決定しました。まぁ、村の学校ではダントツの成績でしたから、先生からは太鼓判を押されていたのですけど。
私、ミネア・ガーデンズは実父を知りません。平民の実母が未婚のまま妊娠して村に戻って来て、何も話さなかったからです。実母は村一番の器量良しを買われて、王都の貴族の家で働いていたのですが、多分、そこで誰かのお手付きにあい、妊娠したので暇を出されたのだろう。と言う噂が村中に囁かれていたそうです。
義父は男爵家の三男でほぼ平民扱いだったので、私を孕っている実母とでも結婚を許されたそうです。義父は実母が初恋の人で、しかも、実母を王都の貴族の家に紹介したのが義祖父になる男爵様だったのも許される理由だったらしいです。正義感というか責任感の強い貴族様だとガーデンズ男爵様には感謝しています。
身分は平民ですが、私に苗字があるのはそう言う理由です。因みに両親や親戚に似ていない理由は、口さがない村民から噂を聞かされて知りました。実母にしてみれば自分に似ていない私は汚点の象徴でしか有りませんでしたから、本当は私の存在自体を隠していたかったのでしょうね。誰よりもキツく当たられました。前髪を常に伸ばして眼が見えない状態で顔を隠すのも、実母と顔立ちが違うせいです。
托卵された義父が誰よりも一番、それこそ実母よりも優しかった位です。物心ついた頃には実母を初めとする周囲の負の感情に怯えて、仕事をしている義父から離れられず、読み書き計算を教われたのが良かったのでしょうね。子煩悩な義父は托卵された私に優しく、実家から本を沢山貸りてくれたのも知識を得る助けになりました。
そして、魔力ですが。私の7歳の時。弟の4歳の誕生日の事です。人目を気にする実母は良い顔をしなかったのですが、両親の実の子供である弟のおねだりが効いて、親子4人でレストランに行きお誕生会をしました。
美味しい食事を楽しんで家に帰る途中の橋の上で、はしゃいだ弟が身を乗り出して川を覗き込み、落ちました。隣りで見ていた私は慌てて手を伸ばして服を掴んだのは良いのですが、痩せ過ぎの私は、栄養たっぷりに育っている弟の体重を支えきれずに一緒に落ちてしまったのです。
幸い、水流が緩やかで流される事も無く二人とも助けられたのですが、咄嗟に弟を抱え込んだ私は、弟の体重も加わった為に川底の石に頭を強く打ち付けて怪我をしてしまいました。冷たい水と頭の怪我と大量の出血で高熱にうなされ、数日意識が戻らなかったそうです。そのまま儚くなったら誰か悲しんでくれたでしょうかね?少なくとも実母で無い事は確かですが。
そして、自己防衛の為か、違う記憶が蘇った為か、魔力が目覚めました。蘇った記憶は、魔力の無い世界に生きていて、魔力が有ると想像するお話を好んで読んでいる少女でした。そのお話に出て来る回復の魔法を無意識で自分に掛けていたので意識が戻ったのです。
その後、三週間程ベッドで過ごし、お医者様から起きて動いても大丈夫と言われる頃には、私の性格が変わっていました。負の感情に押し潰されていた暗さが消えて、大人しいけれど思慮深くなっていました。元が暗い子でしたから、周りからは以前と同じに見えていたと思います。まぁ、ネグレクトに近い環境でしたから、たぶん、義父位しか私に関心のある人は居なかっただけとも言えますが。
村の学校で学ぶうちに、魔力は貴族の血筋に現れやすく、魔力量も推してしるべし。と理解していました。突然使えるようになった魔力の件は伏せて誰にも伝えず、うっかり使う事もせず、周囲を良く見て行動するようになりました。でも、義父の為になるならと考えて、義父だけには魔力が有る事は打ち明けました。それもあって義父には私の違いが分かったと思います。
その後でも、魔法は義父が内緒で教えてくれた初級の水魔法しか使ってませんし、威力も抑えてますけどね。属性が遺伝と無関係で、初級魔法なら誰でも使える世界だったのには本当に感謝しか有りません。
幸い、学習が出来たのと、義父に教えてもらって初級の水魔法が使えたので、義父の実家の男爵家から推薦をもらえて王都の学院に受験する事が出来ました。魔力は平民にしては多い位で誤魔化す事はしましたよ。正確に測る機械が無いのに、馬鹿正直に申告するなんて事はしません。
これで堂々と村から出る事が出来ました。
そんな私だから放り出される様に一人で王都まで行かされたのですが、やらかしましたね。あの環境から逃げられて気が緩み過ぎたのでしょうね。まぁ、麗しい方に知り合えた事は良かったと思いましたけど。
学院に受かった私は、親戚宅を出て学寮に入りました。学院の敷地内に建っているので、長期休暇以外は街に出る時は外出届けが必要です。まぁ、お貴族様の安全を考慮した結果でしょうね。お小遣いがあまり無い私に外の世界は無縁と思われるので、外出届けは不要かな?と別に気にもせず選びましたよ。
親戚と言っても義父の血筋で、私と血が繋がっている訳では無いので、親しく有りませんから、そんなに交流は有りません。合格する迄置いて頂いただけでも感謝しています。合格発表迄はやる事が無かったので、使用人の手伝いをして過ごしていましたが、合格祝いとしてお小遣い迄頂いてしまいました。本当に良い方々です。
入学式には生徒会のメンバー紹介と歓迎の言葉があって、マック様が、マクシミリアン・ウィンストン公爵子息様で、生徒会長。ポール様がポラリス・ハミルトン侯爵子息様で生徒会副会長と分かりました。
壇上から講堂を見回すお二人の視線に、一瞬捕らわれた気がしましたが、気の所為ですね。大丈夫。私は周囲に埋没しています。それにしてもマック様は人外レベルの綺麗さですね。周囲の響めきでその人気の高さが分かりました。上級貴族と平民では、精神的にも物理的にも、遠く離れた処から眺めるのが距離的に一番と思いました。
お二人とも貴族のトップに位置する方々と分かったので、わざわざ近寄ろうとは思いません。平和に暮らしたいなら、『わぁー天上の方ねぇ〜近寄れない方々だわぁ。(棒読み)』って事です。私は田舎者ですがお花畑の住人では有りません。冷静になれば常識は持ってます。入学前にたった一回、一方的にお世話をお掛けしただけの関係です。図々しく侍る程、私の神経は太く有りません。遠くからチラッと眺められれば御の字です。
1のAが私のクラスです。成績順に決まるので、特待生で入学出来た私は、卒業までAクラスに在籍するつもりです。何故なら平民の特待生には寮費も授業料も免除されるからです。入学案内で知った私はなんて素敵な制度が有るのでしょうか!と小躍りしてしまいましたよ。
在学を通して成績優秀なら平民でも城の文官にも成れると聞きました。私は卒業後、村に戻る事無く、自立した生活を送りたいのです。と言うより、村に帰りたく無いのです。男爵家の皆様には失礼かもしれませんが、義父以外に会いたい人は居ませんし、あの村に私の居所は無いのです。
義父の手伝いをして貰っていた小遣いですら実母に取り上げられていた位です。アレは弟だけのおやつ代になりました。義父には私が買って弟に分けていた事にされてましたが、私の口に入った事は有りませんでしたね。普段の食事のおかずの肉ですら私は滅多に食べさせて貰えず痩せ過ぎなのに、実母の言い訳が通ってしまうのです。
なので、此処数年はお金では貰わず、ノートに金額だけ書き込んで貰っていました。『現金を持っていると無駄遣いしてしまうから。無駄なお金は持たせない事にした。』と実母には義父から伝えてもらいました。義父が用意してくれていた、その貯めたお小遣いを今回こっそりと貰って来ましたよ。
自己紹介で、Aクラスには平民が数人しか居ない上に、皆さん、貴族ばりに裕福な家だと知りました。私のような存在は稀のようです。ハッキリ言って、浮きました。村でも親しい友達は居ませんでしたし、此処もその延長ですかね。良いんです。私は自分の為に勉強をしに来たのです。私は自分にそう言い聞かせました。
クラスでの仕事として係を決めて欲しいと言われ、私は園芸係に選ばれました。主に学院内の花壇の手入れを手伝うのだそうです。村でしていた農作業よりは楽そうですが、貴族の方々には蔑まれる仕事だそうで、他の裕福なお家の平民も土にまみれて汚れるのを嫌がっていました。
「田舎者の貧乏な平民には似合っているだろう。君、やってくれるよね。」
と押し付けて来たのは公爵令息のラルク様でした。私は農作業に抵抗が無かったし、言われている事は事実なので、まぁ良いかと受け入れました。反論するなんて無駄な抵抗をするつもりは有りません。
「はい。ご推薦頂き、ありがとうございます。」
ちょっとだけ嫌味をこめて返事しました。まぁ通じなくても良いです。
結果から言うと、園芸係は最高です。寮の裏の菜園を使わせてもらえたり、馬場の周囲を囲む果樹の手入れを手伝う事で、秋に実ったら美味しい果実をもらえるそうで良い事ばかりです。
菜園で採れた野菜は学院内で消費しますが、余った時は売りに行くそうです。私も個人的に借りる事になった菜園で薬草を育てる事にしたので、育ったら薬師ギルドに売りに行きたいと相談したら、庭師のクレイダーさんが市場に行くついでに馬車に乗せてくれる事になりました。
「クレイダーさん、外出届け出して来たので、私も着いて行って大丈夫ですか?」
「ミネアちゃん、荷物を荷台に詰め込んだら出発するから、隙間に薬草を入れて、席に座りな。」
ホロ付きの荷馬車の荷物を寄せて隙間を作り乗り込みました。クレイダーさんは私を薬師ギルドに降ろしてから市場に向かうそうです。私は薬草を売ったら市場に行き、野菜を売るお手伝いをする事になってます。
私の水魔法で育てた薬草は良い値段で買い取って貰えたのでホッとしました。ポシェットに入れる振りで収納魔法にしまい、市場を目指して歩いているとテントが見えて来ました。普段の私は道に迷ったりしませんからね。
「クレイダーさん、お待たせしました。売り子さん始めますね〜」
私が呼び込みを始めると、お買い物に来たお母さん達が引き寄せられて、思ったよりも早く売り切れました。と言うよりクレイダーさんのファンの方でしょうか?常連さん達の視線は熱かった気がしました。
お昼ご飯を買い込んで馬車に戻り、御者席に二人で座って食べ始めました。歳の離れた兄弟っぽいかなぁと思いながら食べていると、先程私を睨む様に買い物をされていたご婦人がクレイダーさんに差し入れを持って来ましたよ。私は当然ですが、そっと荷馬車の幌の奥に隠れました。(笑)
学院に帰り、寮の部屋に戻ると手紙がドアに挟まっていました。義父からです!
「元気にしているかい?
そろそろ試験だと思うけど、ミネアなら心配は無いかな。休みには帰って来るのかい?」
義父には会いたいけれど、村には戻りたく有りません。この数ヶ月とてものびのびと過ごしていて、とても楽しいのです。此処でなら自分でお小遣いも稼げますし、折角貯めたお金を実母に取られなくても済みます。
村にいた頃に、近所のお手伝いをしたお駄賃を貰って、無駄遣いせずに貯めていた事も合ったのですが、実母にバレて取り上げられてしまったのです。しかも、当時現金での私のお小遣いは有りませんでしたので、盗んだと冤罪まで押し付けられて。
ご近所さんからお手伝いの話を聞いていた義父のお陰で冤罪は晴れましたが、貯めたお駄賃は戻って来ませんでしたよ。たぶん、アレも弟のお菓子に消えたと思います。当然、私の口には入りませんでしたが。
なので帰らなくて済む様に動いています。今日行った薬師ギルドで相談した処、休み中は学院で借りている畑の薬草に水遣りをしながら薬草を採り、薬師ギルドに卸す事にして、休み中は薬師ギルドの寮に置いてもらえる事になりました。私の育てている薬草の効果が高いので無駄にしたく無いそうです。
休暇中でも学院の畑に通える事は確認済みです。私が平民の特待生なので、薬草園の価値を知っている学院長様の優しさです。ギルドへの忖度もあるのでしょうが。兎も角、これで学院の寮が閉められても大丈夫です。
義父には今日薬師ギルドで決めて来た契約を書いた手紙を出す事にしました。長い間、義父と会えないのは寂しいですが、将来の為に頑張ります。と締めた手紙を出しました。こう書けば、手紙を見た実母も私が薬草を育てる農家になるとでも勘違いをするでしょう。実母は何故か農家を下に見ているのですよね。訳分からないです。
因みに、学院の薬草園の為にギルドの寮をお借りして、採取した薬草はギルドに提出する。と言う文言を入れてもらいまして、提出する薬草で寮費を支払うと勘違いさせる事にしました。つまり、寮費を支払わない代わりに、買取りでお金をもらう事は無い。と匂わせたのです。しかも寮に置いてもらう条件の中に、ギルドの薬草園の手入れも有ります。提出する薬草では足りないと思わせて、お金を実母に取り上げられない為にです。
手紙には書きませんでしたが、隙間にポーションの作り方を教えてもらい、休み明けには薬草をポーションで卸すレベルまでになる予定です。薬草のまま卸すよりポーションの方が高く売れますから、絶対に覚えます。
「子猫ちゃんは隠れるのが上手いのかな?全然見当たらないね。入学式には見かけたから無事に学院生になっている筈なんだけど。」
「ポール、意外だったけどあの子Aクラスに入っていたよ。ラルクが平民に慇懃無礼な奴がいて嫌味を返されたってぼやいていたから、こっそり見に行ったらあの子だった。お花畑だったのはあの時だけで、本性は違うみたいだね。(笑) 入学式の時に目が合った筈なのに来ないなぁ?と思ってたけど、私達が上級貴族だと気が付いたから会いに来ないみたいだ。」
「なんだ、マックは既に調べていたのか。で、名前は?好みのタイプはやっぱりマックか?(笑)」
「だから!遊べないタイプの真面目な子らしいよ。ラルクが言うには、最初はカチンと来たけど、控えめで真面目な態度を貫いているらしく、教室では何時も図書室で借りた本に隠れて、良い意味で埋没しているらしいよ。
って言うか、ポールこそ気に入ってたんだな。確かにポールの周囲にあまり居ないタイプだからな。(笑)」
なんて言ってみた。実は私も気になっていたからそれとなくラルクに聞いたんだ。あの時はお花畑だったから入学式の後には生徒会室に突撃して来るんじゃ無いかと身構えていたのに、肩透かしもいい処だったんだけど。まさかAクラスにいるとは思わなかったから、見つかる迄はもっと時間がかかると思ってた。
「だってさ、あんなにマックに見とれていたんだぜ!まぁ、性別を取り違えてるとは思わなかったけど。それが一月以上経っても姿形も見せ無いなんて有り得なくね?」
実はラルクを通して彼女の情報は掴んでいた。ミネア・ガーデンズ。平民では有るが魔力持ちで、ガーデンズ男爵家に属している。意外と優秀な様で、上手く立ち回って目立たない様に過ごしているらしい。頭が花盛りにしか見えなかった初対面が素のままだとしたら、かなり優秀な猫を飼っているらしいな。
夏期休暇前に試験結果が貼り出された。私とポールが上位なのに変わりは無く、さり気なく1年の順位を見ると、3番目にミネアの名前が出ていた。ラルクは2番目だが、点数は2点しか違わなかった。
「魔力持ちの平民とは聞いていたが、凄いな。特待生でも狙っているのか?」
と呟くと、何処からかラルクが来て、
「マクシミリアン様、彼女は特待生ですよ。私は彼女を侮っていました。男爵家の庇護を受けているだけの田舎平民と侮っていましたが、魔力に関して努力だけではあんなに扱えないと驚いてます。本人は本を読んで学習しただけと言ってますが、魔力量は上級貴族並みではないかと推測しています。」
「二学期から、一緒に生徒会で働いて様子をみるか? ポールと相談してみるが、ラルクから打診と言うか、それと無く誘ってみてくれるか?」
上級貴族か。隠れて観察したミネアの面立ちと瞳の色に思い浮かぶ親戚が居るんだけど、まさかな。16年前に何か事件が有ったか、まぁ、兄に聞いてみるか。
休暇が始まり、領地の家に戻ると、夕飯の後に兄を捕まえた。
「ヘンドリックス兄様、紫の瞳の叔父様の事なんですが、お聞きしてもよろしいですか?」
「ルードリッヒ様の事かな。マックは王都に行っていたんだから、向こうで会ったのかい?」
「いいえ、実はラルクのクラスに優秀な成績の平民がいて、魔力が上級貴族並みではないかと疑惑が出ていて。その子の瞳が綺麗な紫色なんです。その目を見て思い出しただけなんですが………」
「ルードリッヒ様は独身を貫いているけど………16年位前に問題を起こした事が有ると噂を聞いた事が有る。」
と言うと黙ってしまいました。これは父様に聞く案件だろうか?ルードリッヒ様の顔をきちんと覚えていないのが残念だけど、あの紫の瞳の色は平民にはかなり珍しい筈。
夕飯を待って父様にルードリッヒ様の話を聞くと、父様はミネアに興味を持ったらしく、王都に行くついでに調べる事にしたらしい。因みに学院に戻る際にルードリッヒ様のお邸に顔を出す事になってしまった。父様からミネアの話を聞いて、詳しく聞きたいと連絡が来たのだ。
父様に連れられてお邸に行ったのですが、ルードリッヒ様のお顔を見て驚きました。瞳の色は勿論、顔立ちもミネアは似ていたのです。ルードリッヒ様のお話では、約16年前、或る貴族のパーティで媚薬を盛られてしまい、その家の平民メイドに手を出してしまったそうです。翌朝、ベッドに血痕は残っていたものの、その平民メイドは消えていたそうで、醜聞な事も有り、他家のメイドなので探せなかったそうです。
休暇明けでギルドの寮から学園の寮に戻って来ました。ポーションの作成は完璧に修得しましたし、中古の器具を格安で購入出来たので、これからは寮でもポーションの作成が出来ます。勿論、ギルドで買ってもらう契約をして来たので、仮に文官試験に受からなくても自立の目安が立ちました。
部屋に戻ると手紙が何通か届いていました。実母からは思った通りで、仕事していたなら家にお金を仕送りするべきだろうというお叱り?で、此方は義父に転送しましょう。義父からは、元気にしているか?という内容で私の心配をしている事が書かれていましたので、そちらには丁寧にお返事を書きました。
問題は見覚えの無い封蝋で閉じられた手紙です。仕方ないので、開ける前に寮監に確認に行きました。
「先生、此方が私の部屋に届いていたのですが、どなたかと間違われたのでは無いでしょうか?見覚えの無い封蝋ですし、こんな上等な封筒のお手紙は見た事が有りません。」
ミネアと書かれてはいますが、名前だけではねぇ。と思って差し出すと、
「ウィンストン家の執事が直接持って来たので、あなた宛で間違いはありませんよ。中を読んで早めにお返事をして下さいね。」
と言われました。ウィンストン家ってマック様の公爵家の事でしょうか?最初のお花畑を謝罪しなかった事が悪かったのでしょうか?うーん、でも下手に近寄っても良い事は無かったと思います。
部屋に戻って丁寧に開封して便箋をそっと取り出し、思い切って読みました。
『初めまして。マクシミリアンから話を聞いて、是非とも会いたくて招待状を差し上げます。と言っても、堅苦しいのはお互い嫌でしょうし、私も緊張するので、マクシミリアンを通して会う事を提案します。
詳しくは学期が始まってからマクシミリアンに聞いて下さい。私も今戸惑っていて、考えがまとまらなくて、訳の分からない話になってしまいましたね。
会って、顔を見ながらゆっくりとお話しましょう。それでは。』
うん。訳分からん。マクシミリアン様って、やっぱりマック様の事よね。お花畑の平民がマック様のお顔に見惚れてフラフラと付きまとったとお怒りなので無いと良いのですが。
重い気持ちで新学期を迎え、学院に向かいました。取り敢えず、遅くなりましたが無礼を働きまして失礼致しました。と謝罪から入れば、少なくともこれ以上心象を悪くする事は無い筈です。身構えて登校する私を笑顔のお二人が出迎えて?下さいました。
生徒会室に連行され、扉が閉まった途端、私は土下座をかまして謝罪致しました。寮を出る前から考えていたので、身体は自然に動きました。この世界での正式な謝罪の仕方に合っているかは知りませんが、無抵抗に首を差し出す姿勢なのですから何かは伝わるでしょう。
「ミネア?何してるのかな?そのポーズは何か意味が有るの?」
不思議そうなマック様の声が降ってきました。ポール様は爆笑してます?
「入学前に不遜な行動を取っていた事に対する謝罪がまだだったので、呼び出されたのかな?と思って、その、私の中で最大級のごめんなさいのポーズです。」
「入学したのに挨拶に来ないから寂しいなぁと思ってはいたけど、怒ってはいないよ。謝罪される理由は無いから安心して。と言うか、ミネアにそんな態度を取らせるなんて、叔父様の手紙の内容ってどんなだったの?」
マック様に驚かれてしまいましたが、お怒りでないと知ってホッとしました。名前も分からない方から、マック様を通して会いたいと言う内容でした。と手紙を見せると、内容を読んだマック様は頭を抱えて固まってしまいました。
「取り敢えず、ルードリッヒ叔父様と会う時は私も同席するから、今週の休日は外出の申請をしておいて下さいね。行き先は王都のレストランにしましょう。」
週末に思わぬイベントが派生したものの、成績が下がるのは不味いので、授業に集中する様に意識して過ごしました。そして、休みの前日にプレゼントが届きました箱を開けると、藤色のワンピースとネックレスと靴が入っていました。踝丈のワンピースはレースがお洒落で、平民が着るには敷居が高そうです。でも、一緒に入っていた手紙に、レストランのドレスコードに合わせてあるから、身につけて来なさい。と書かれていたので諦めました。
金額を考えたら負け。自分では買い取れないだろう服を身にまとい、ビクビクして寮を出るとマック様が待っていました。マック様にエスコートされるまま馬車に乗せられ、レストランに入ると、個室に案内されました。
「初めまして。君がミネアだね。その紫の瞳、顔立ち、間違いなく私の娘だね!」
と言われて、その人の腕の中に抱きしめられました。私が目を回していると、
「ルードリッヒ叔父様、ミネアがびっくりして固まっていますよ。取り敢えず座って、ゆっくりと話しませんか?」
マック様に促されて、彼の腕から解放された私は椅子に座りました。私達が席に着いたのを確認したのか、お料理が運ばれ、食べながら話す事になりました。
「それでね、媚薬を使われた事にもトラウマがあってね、私は女性が苦手になったのだよ。でも、記憶には無いけど状況証拠から私は誰かの処女を奪ったのは確かだったし、あの家のメイドは平民が殆どだったけど、下級貴族の令嬢がいない訳でも無かったから、後々問題を起こされないとも限らないと思ってね、結婚出来なかったんだ。
まぁ、数年経った辺りで大丈夫かなとは思ったけどね。結婚したいと思える令嬢との出逢いが無かったからね、そのままでいたらこの年まで独身が馴染んでしまってね。」
笑いながら話すルードリッヒ様。確かに私と顔は似てるかもしれないけど、実母が何処のお邸に雇われていたかは知りません。
「実母は私に関する事は一切話さないので、私のルーツは何一つ判りません。実母の中では私は存在してはいけないらしいですので、聞けませんでした。ですから条件に合うかもしれませんが、私からは何とも言えません。」
優しく抱きしめてくれたルードリッヒ様が実父なら良いなぁと思わなくは無いのですが、マック様の叔父様で伯爵様なのだそうです。男爵家ですら恐れ多い平民暮らしをしていたので、私には敷居が高過ぎます。悩んでいる処に義父が登場しました。今日の事はルードリッヒ様から手紙が届いていたそうです。
義父は昔、実母の勤め先の貴族の事を調べてくれていたそうです。実母はパーティの余興がわりに男達に差し出されたので、逃げ出して客室に隠れたそうです。ただ、そこには薬を盛られたルードリッヒ様がいて、ルードリッヒ様から実母は逃げ切れなかったそうです。
明るくなるのを待ってお邸からは逃げ帰って来た実母ですが、妊娠が分かった時は死にたかったそうです。その思い詰めた表情を見た義父が義祖父に相談して調査し、貴族の子を妊娠している実母と結婚する事に決めたそうです。お腹の子供が利用されるのを防ぐ意味と、義父の初恋の君を守る為に。
義父が調べた中にルードリッヒ様の名前は上がらず、余興に釣られた貴族達にはろくでなししか居なかった様です。義祖父で有る男爵はその事を知ったので、実母を受け入れたのだそうです。ただ、私に対する態度だけは困ったそうで、何とかならないかと義父に相談した結果、私を常に側に置いていてくれたのだそうです。
ルードリッヒ様と義父の話し合いの結果、私はルードリッヒ様の娘として籍を移す事になりました。但し、伯爵令嬢としての教養などを身に付けなければ発表出来ないので、手続きだけしておく事になりましたが、それに伴って学院にも報告しなければならないので、学年が上がる時に合わせて変更する事になりました。
実母がこの事を知ってお金を集りに来たらどうしようかと義父に相談すると、何故?と不思議がっていたので、何度かお小遣いを取られた件を暴露しました。義父は唖然とした後、実母が村から出る事は無いし、実母にはミネアを勘当した事にするから安心しなさい。と言われました。
「育ててもらった上に学院にまで行かせてもらっているのに、恩を返そうともしない娘など必要無い。と言えば、喜んで勘当に賛成するだろう。」
と力無く呟いてます。実母は私が絡まなければ常識的な人間だそうで、実母の嘘を見抜けなくてごめんね。と謝る義父に、
「これまでの話を聞くに、済まないが、彼女は私にとって苦手なタイプのようなので、間違っても私に接触させないで頂きたい。ミネアを産んでくれた事には感謝するが、それだけだ。私との繋がりは今後も君とガーデンズ男爵の二人に限らせて欲しい。」
とルードリッヒ様が告げました。
この会食の後の話です。数日が経って、マック兄様から生徒会室に来る様に言われて赴いた所、何故か生徒会役員になってしまいました。伯爵家に入る為の勉強の話し合いだった筈なのに。
そして役員として活動をしている中、ポール様から軽くお誘いされたり揶揄われていたら、付き合ってると勘違いされた貴族の女性たちから虐めを受けてしまいました。私は誤解を解こうと頑張っていたのに、伯爵令嬢に成っていた事を暴露され、気が付いたらポール様と婚約していたのには驚きでした。
「ポール様はマック兄様を本当にお好きなのですね。私が従姉妹だからって政略結婚の相手に選ばなくてもよろしいのではありませんか?」
呆れたのでつい口にしてしまいましたが、この位許されますよね?暴露したマック兄様も笑ってますけど。私、振り回してくれるお二人に少し怒っているのですよ。
「ミネア、僕はマックの親友だと思っているけど、恋愛感情は持っていないよ。それに僕は恋愛結婚が良い。ルードリッヒ様には失礼かもしれないが、伯爵家と政略結婚する利益が我が侯爵家には無いかなぁ〜」
え?恋愛?ポール様が誰と?私がキョロキョロして辺りを見回していると、
「ミネア、結婚する迄には僕に恋させてみせるから、覚悟してね。それからマックには婚約者が居るよ。政略結婚というならマックの方だよ。」
「そうだね。僕は辺境伯の家に婿入りだからね。まぁ、隣の領地だから幼馴染だし、彼女は僕に夢中だから安心しているけどね。」
マック兄様の相手は4歳下の辺境伯の一人娘で、マック兄様は既に辺境伯の領地経営も学び始めているそうです。卒業後領地に行って仕事を学びながら彼女の卒業を待つそうです。
私は卒業後、王宮の文官を目指していたのですが、ポール様に婿入りしてもらう事になり、伯爵家に入る事になる様です。ルードリッヒお父様は公爵家から領地の一部を譲り受ける事になり、マック兄様とポール様は隣同士の領地経営をする事になりました。やっぱり仲良しです。
ポール様との結婚式の時に、やっと辺境伯令嬢を紹介してもらえました。彼女はとても元気で可愛いお嬢様でした。こんな可愛い妹だったら私も喜んで貢いだかも。と思ったのは内緒ですが、心の声が漏れるのは治っていなかったようで、マック兄様が笑ってます。
「辺境では怪我をしてもお医者様が少なくて、領民が苦労しています。良質のポーションは大変有り難いので、ミネア様のお話を伺って、是非、お友達にして頂きたいと願ってました。」
と笑顔でお誘い下さいました。領地運営はポール様がしてくれるので、私は辺境伯の隣りの領地で、のんびりと薬草を育てながらポーションの作成を頑張って、ルードリッヒお父様の領地の役に立って行こうと思います。だって、辺境伯と言う大口の顧客をゲット出来ましたからね。
数年が経ち、優しいルードリッヒお父様と頼もしいポール様、可愛くて元気な子供達に恵まれた私は思いました。とても幸せです。
絶世の美女 って、性別が男性だったら面白いかな? 性別を超えた麗しい人が目の前に現れたら………と思って書き始めたのですが、思い付くまま書いていたら、迷子になりました。
何時も通りのご都合主義で転生してもらったのに、ほぼ、自分の命を守る為にしか使っていないし、必要無かった?
虐めを書くのは嫌だったので、皆様の想像にお任せします。きっとテンプレみたいな事をされた思います(笑)