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第6話 泣く幽霊

「よし、この辺でキャンプするか」


 旅程は順調だった。

 夕方も近づき、足も疲れてきた頃だ。

 しかし、なんだかもとの体よりも体力があるのか、思ったよりもハイペースで進めたように思う。


 街道から少し森に分け入ったところに、ちょうど良い窪地を見つけたので、ここに決める。


 落ちていた枯れ木を拾い、火をおこす。


 いつでも逃げ込めるように、すぐそばに結界テントを設置する。


 ちょうどいい倒木をベンチがわりにして、セナさんにいただいた包みを開いた。


「サンドイッチだ」


 やばい、めっちゃ嬉しい。


 元の世界でも、店で買ったものではない、誰かの作ってくれたお弁当って、久しく食べていなかったな。


 たまごのような具のものと、ハムと野菜のサンドイッチ。


 これがまた、水筒に入れてきたコーヒーもどきと、合う。


 小鍋を出し、持ってきた干し肉と、その辺でとったキノコのスープも作った。

 近くの小川で水は汲んだ。


 いやー、憧れだったんだよな、現地調達クッキング。

 お腹壊さないって最高。


「くはぁ〜、うめぇ〜!」


 スープのキノコを食べた時に、何故か少ししょうがのような刺激を舌に感じたけれど、まぁ大丈夫だろう。


 だって「りっぱないちょう」もちだし、俺。


 そうこうしているうちに、だんだんと空も暗くなり、炎の赤がくっきりと夜に映える。


 そうだ、と、上をむくと、期待通りの満点の星空だ。


「最高かよ」


 あちこち旅をしていたら、いつかオーロラなんかも見られたりして。

 期待と希望はどんどん広がるな。


「あとは風呂だな〜。温泉がほしいな〜。いっそ俺がこのへんに作ってやろうかな〜」


 なんて、気が大きくなり、鼻歌まじりにうそぶいていると、


 しくしくしく


 子供のすすり泣く声が聞こえてきた。


 え、幽霊?


 快適ソロキャンプ気分から一転、炎が照らす木々の影が、なんだかゾロゾロとさまようひとの形に見えるような気がして、急に心細くなる。


「そ、そうだ、こんな時こそ天使を呼び出し────ってあぁ────! 鏡持ってくるの忘れたぁ!!」


 そもそもあいつのことだ、就業時間外とか言ってでない可能性もあるが。


 それでもワンチャン呼び出してみることすらできないのは、己の失態を悔やむ。


 俺の大声にびっくりしたのか、泣き声が止んだ。


 意外と、向こうもビビっているのかもしれない。


 そう思ったら、また急に怖くなくなって、俺は食器類を片付けて寝る準備をはじめた。


 まぁ、念のために火は絶やさないよう、薪は多めに……。


 怖いわけじゃないぞ? 違うからな?




 さぁもうやることもないし、結界の中で寝るかと、薄っぺらい毛布の上に横になった時、またすすり泣く声が聞こえた。


 え、これ朝まで続くの? 睡眠妨害よ?


 しかもなんだか、狼の唸り声のような声まで、遠くの方から聞こえてくる気がする。


 森の外の風の音かもしれないけれど。


 どっちにしろ、このままじゃ寝られないな……。


 ふぅ、とため息をついて、結界テントから這い出た。


 泣き声はまだ続いている。


 耳を澄ませて、声の方へと近づいていく。


 え、まさかすぎて選択肢から抜け落ちていたけど、これガチの迷子の子供って可能性もある?


 でもそれだったら、助けてくらい言うよなぁ……。


 左手には即席の松明、右手には拾った棒を武器がわりに、警戒しながら進む。


 どんな罠があるかわからないからな。


 俺には弁当箱をセナさんに返すという尊いミッションがあるのだ。こんなところで、くたばるわけにはいかない。


 月明かりを頼りにしばらく進むと、声がやんだ。


 俺の気配に、向こうが警戒したのだろうか。


「なぁ、誰かいるのか? 人間か?」


 俺は声を張って語りかけた。


「俺はムラノ。危害を加える気はない。野営していたら声が聞こえて、気になって見にきたんだ」


 返事はない。


「助けが必要なら、返事するか出てきてくれ、いらないなら黙ったままでいい。そうしたら、俺は去るから」


 少しの静寂のあと、草むらが大きく動いた。


 ガサッ


 ああ、勇気を出してよかった。


 きっとこいつも、心細かっただろうから。


 ……たぶん。


 出てきたのは人間の子供だった。


 人間の子供を装った幽霊や妖怪じゃなければ、だけれど。


 






ごきげんよう。


つねに投稿時間を模索中の作者です。


読者さまが読みやすい時間っていつなのだろ。


今日はお昼にしてみましたが。


いつも迷います。何時がいいのかなー。リクエストゆるぼしてます。笑


なにはともあれ、読んでいただきありがとうございます!(90度おじぎ)


まだまだ小説書いて一年です。よちよち歩きの作者ではありますが、このあたまのなかのお話が文字になって、誰かのエンタメになれるのなら、それはめっちゃ光栄であり嬉しいです。


また来てください! お待ちしております(*´꒳`*)


もずの庵 店主




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