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第5話 たびだち(じゅんび)2

 広場に集まった屋台で、気になるものを順番に買って食べた。

 なかなか美味かったし、どれだけ食べても胃は痛くならなかった。

 ああ、素晴らしき世界。


 物価の相場もだいたいわかった。

 国は、転移者にずいぶんと潤沢な予算を割いていることも。

 最初にもらった資金で、しばらくは暮らせそうだ。


 気分は上々だ。


 しばらく街をぶらついてから帰ると、管理人室からセナさんが出てきたところだった。


 驚いて、背筋がのびる。


「あれっ? どうしたんですか? こんばんは」


 なんかわざとらしかったかな。あれ? の声が裏返った。


「おかえりなさい」


 ふわりと微笑むセナさんは、夜に見るとまた違った美しさがある。

 まぶしい。


「どうされたんですか?」


 まさかセナさんもここに住んでいるとかいうラブストーリーの始まりが


「これをお届けに」


 違うかった。

 

 異世界ご近所ラブストーリーは始まらなかった。


「えっと、それは?」


 セナさんの手には、焦茶色の、登山リュックのようなかたちの鞄。

 革がずいぶんとくたびれていて、年季の入ったものだと思う。


「ムラノさん、旅をしたいとおっしゃっていたので。ストレージリュック、です。ずいぶんなお古ですが。よかったら使ってください」


「ストレージってことは────たくさんものが入る魔法の鞄的なやつ?」


「ですね」


 え、めっちゃ嬉しいんだけど。

 ガチなファンタジーアイテムじゃん。


「うぉー! まじか、嬉しい。街で探したんだけど、スーツケース的なやつ売ってないから、荷物どうしようと思ってたんで。最終、人力でリアカーも候補に入れてたんで。めっちゃ助かります」


「よかった。といっても、ちょっと大きな鞄くらいの容量ですけど」


「十分です」


 パッキングは得意だ。


「温かいもの、冷たいものは、一日くらいは保持できます」


「まじすか、神じゃん」


 さっき見つけた粉コーヒーっぽいやつ、朝淹れて持って行こう。


「わー嬉しいなー」


 きゃっきゃとはしゃいでから、はたと気がついて、俺は震えた声できいた。

 タダでくれるとは言ってない。


「で、でも、そんな高機能だったらお高いんじゃあ」


 資金をいただいたといっても、仕事もまだ決まっていない身。

 いまあまり散財してしまうと、先の生活費が心配だ。


「いえ、かなりのお古ですし。私は使わないので、使ってくださるなら差し上げようと思って、持参したんです」


 微笑むセナさん、まじ女神だった。


「大切に使います! ありがとうございます!」


 俺は90度に体を曲げて礼をした。

 セナさんには絶対に何かお土産を買おう。そう誓いながら。





          ◇






 おだやかな朝の光の中、散歩するのは気持ちがいい。


 旅立ちの日にうってつけの天気だ。


 ああ、自由に過ごせるって、いいな。


 当たりスキルのカップルが今頃どこで何をしているのかは知らないけれど、とにかくハズレスキル万歳だ。


 負け惜しみではないぞ。断じて。


 で、必要なものはあらかたそろった。


 野宿用の結界テントとかいう、便利グッズまで売ってあった。

 このあたりは治安は良いらしいが、野犬など野生動物はいるらしいので。少々お高い買い物だったけれど、安全には変えられないと、即お買い上げだった。


 ロッタの街までは2日ほどらしいから、いまから旅行気分でサクっと行ってみようと思う。


「ということで、さっそくこの鞄を使わせていただきます!」


 仕事中のセナさんに会うなり、そう報告した。


 セナさんが働く建物は、役所のような場所らしい。

 俺が最初に連れていかれた部門以外にも、現地の人向けの部門もあった。


 これから働くにしろ商売をするにしろ、長いお付き合いになりそうだ。

 よかった。


 いや、別に、セナさんに会う口実が欲しいとか言ってないよ?




「もうですか」


 セナさんは驚いたように目を開いた。可愛い。


「お気をつけて。あっ、そうだ」


 といって、カウンターの下でごそごそと何かを探し、


「これも。私のお弁当ですが、よかったら」


 と、花柄の布の包みを渡してくれた。


「いいんですか?!」


「お弁当箱、ちゃんと返してくださいね」


 無事帰ってこいよ、との激励だろう。


 深い意味や特別な好意はないだろうが、とっても嬉しい。


 早すぎる旅立ちに、自暴自棄になっていないか心配されたかもな。


「ありがとう。大事にいただきます」


「はい。行ってらっしゃい。楽しい旅を」


 素晴らしい旅立ちじゃないか。うん。心配をかけないように、元気に帰ってこよう。






          ◇







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