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第2話 煽る天使

 そうだ、トラックの件、後で説明するって言ったよな。


 俺の最期は、あっけないものだった。




 トイレに閉じこもり、便座に座っていたはずの俺。


 でも後悔はなかった。


 念願のコッテリ脂と激辛唐辛子のマリアージュは、やはり素晴らしかった。たとえ、その後に苦難が待ち受けていようとも。

 なんて浸っていた俺は、

 爆発のような轟音を聞いた直後、意識を失った。で、気がついたら別の場所にいた。


 見渡す限りにただただ白い異質な空間には、にこにこと笑う子供が一人。


 ああ、天使ってこんなイメージだよな、って、日本人の大多数が納得しそうな子供だった。

 くりくり金髪ぱっちり碧眼で、コスプレなのか本物なのか、背中には真っ白な翼。


「死んじゃいましたねぇ〜」


 ただし、口を開かなければ、だ。

 なんでそんな煽り口調なんだ。なんか腹立つぞ。


「死んじゃいましたって────まじ?」


 ま、温厚が服を着たと言うに相応しい俺は大人らしく冷静に返したが。


「俺はトイレに入ってて────え、病死ってこと? それとも、あの爆音が何か」


 そういえば、もう腹が痛くないぞ。死んだからか。


「トラックの運転ミスですね。でもあなたの尊い犠牲のおかげで、道を歩いている小学生は怪我ひとつなく無事でした」


 ああ、そろそろ近くの小学生が帰ってくる時間だったか。


「つまり子供を避けたトラックがアパートに突っ込んできたってわけだな」


「そういう感じです」


「ま、起こったことは仕方ない、か。で、ここは何なの? 天国?」


「飲み込みが早いですね。元の人生に未練はないんですか?」


「ほっとけ」


「ふむ。────まっ、あなたがたは知らないと思うんですけどぉ」


 と、天使はまた煽り口調で言う。


 黙っていればとびきりに可愛らしい子供なのに、ニヤついた表情で台無しだ。


 おい、ひとと喋る時に顎を突き出すな、顎を。


 俺の目線に気づいたのか、天使は顎に手を当てて引き戻した。そのまま考えこむようなポーズを作る。

 なんだか胡散臭いな。


「僕が担当している世界が、超人手不足でして」


「は?」


 急に何?


「あっ、地球じゃないですよ。別の世界。でね、数十年前に大きな争いがあったんですよね。いまは落ち着いて平和なんですけど、いかんせん人口が増えない。人口が増えないと文化の発展も遅い。なので、こっちで亡くなった人を、スカウトして、転生させてもらってるんです。転生した方は、レアなスキル持ちが多くて、重宝されるんですよ」


「転生ってことは、赤ちゃんからやり直せってこと? 記憶は?」


「ああ、違います。精神も得意なことも知識もそのままです。即戦力が欲しいのでね。体は違う世界には持って行けないので、ていうかそもそももう使えないですし。新しい体をあちらで用意しますので、便宜的に転生という言葉を使っています。あ、だから、体は精神の年齢よりも多少若い体にしてます。だって長く働いてほしいし」


 おいおい、サラッと社畜がほしい宣言してないか?


「あ、精神の年齢って、あなた方の世界でいう精神年齢とは別ですからね。ぷぷっ。それより若いと赤ちゃんになっちゃうんで」


「誰が精神年齢5歳だよ」


「いいツッコミ」


「やかましいわ」


 何をやらされてるんだ、俺は。満足そうに頷くこの子供に。


「でさ、話の続きだけど。それ、断っても良いわけ?」


「強制労働じゃないので。職業案内所にて新しい身体が獲得したスキルを確認していただき、適性があれば要職のご案内があります。稀にスキルがしょぼ……適性がない場合は、街で自由に暮らしてくださいと、実質の肩たたきにあうこともありますし────」


 肩たたきって言っちゃったよ。


「勝手に連れて来といて、クビってひどいね」


「人生いろいろですから」


「ガチ他人事」


「そうでもないですよ。その分、手厚く助成も出ますから。転生者全体でみたら、役に立ってくださる方が圧倒的に多いのでね。それ以外の方も比較的、丁重に扱われます。前世ではできなかったスローライフを楽しむ方もいらっしゃいますし、暇な時間を研究に没頭した結果、多大な功績を残された方も」


「ま、自分次第だよな」


「前向きですね」


「あからさまに意外そうな顔するなよ」


「良い事です。じゃ、そろそろ職業案内所にお送りしますね。他にも何名か転生の同期さんがいらっしゃいますので、心強いかと思いますよ」



          ◇



 黒のパンツスーツに白いシャツ。

 この職業案内所の建物内には、美女と同じ服装の人たちがたくさん働いていた。制服なのだろうな。


 時折漆黒のサングラスをかけた人もいて、なんだか映画の中の諜報機関みもある。


 俺は右も左も分からないまま、この職業案内所に連れてこられたって言うか、転送されたわけだけれど、どういった職業を案内してくれるのかはいまだ説明はなく、知らないし。

 ここで並んでねとアテンドしてくれた気のいい小柄なおじさんも、「各々の適性を見てから」、としか教えてくれなかった。

 実際のところ、見た目通りのスパイ養成機関であってもおかしくはないのだ。







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