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第15話 シシカツサンド

「ピクニック日和だな!」


 今朝は心地よい日差しで目覚めた。すぐに、窓の外を見て声を上げた俺。


(ぴくにっくとはなんだ。肉か!)


 独り言だったのだけれど、頭の中に鼻息荒く返事が返ってくる。


(お弁当を持って外に出かける事だよ)


(ほほう)


 頭の中で会話する。


 この奇妙な感覚にも、意外と早く馴染むものだな。


 俺は窓を開けてのびをして、外の空気を吸った。


 暑くもなく、寒くもなく。


 元の世界でいう春くらいか。


 しかもこちらの世界ではやっかいな花粉症が無さそうだ。まぁ、環境が全然違うもんな。


(俺の体が強くなったのも一因かもしれないが)


(おお、何かわからぬが我のおかげか?)


(全然ちがうよ?)




 さて、当分の間、青猫亭を拠点にさせてもらうことにした。


 この世界になじむためにも、まずは街の外を散策してみるつもりだった。お弁当を持って。まぁ、つまり、ピクニックだよな。

 ニールも草原に用があるらしいし。


 もしかしたらまた魔物とかもいるかもしれないけど。


 ま、それも経験だよね。


 階段を降りて食堂に入ると、元気な声と笑顔がとんできた。


 朝から爽やかで大変気持ちが良い。


「おはようございます! 朝ごはんが出来たところですよ!」


「セリーナさん。おはようございます」


 俺はこの青猫亭の店主────セリーナさんに挨拶をして、席についた。


 しぼりたての果物ジュース。


 焼きたてのパンとベーコンのような燻製肉、鶏のものよりひとまわり大きな卵の目玉焼き。


 スープには色鮮やかな野菜がたっぷり。


 前世でも毎日こんな素敵な朝食を食べていたら、もう少し健康だったのだろうか。


 いや、そもそも朝からこの量は食べられなかったな。


 健康に感謝だ。りっぱないちょう、ばんざい。


(やるな、小娘)


(だから店主! セリーナさん! あっ、舌打ちもしっかり聞こえてるからな?)


 しばらくぶぅたれた気配がしていたが、俺が朝食に舌鼓を打っている間に、ニールもご機嫌になっていた。


 そりゃあ、美味いものには勝てないよな。毒だってさ。




「うまかったな」


 俺は門を目指しててくてく歩きながら、ぽつりと言う。


 脳内に、食い気味に返事がひびく。


(あの卵とかいうやつは、あと3つあっても良いな!)


(気に入ったのか、ニール)


 確かに美味かった。


 セリーナさんの焼き加減がまた、絶妙だった。


 しかし、あの卵は何の卵なのだろう。この世界にも養鶏とかあるのかな。いつか飼ってみても良いかもしれない。


 人里離れた場所で自給自足の生活にも憧れはある。




 まぁそんなこんなで、すっかりセリーナさんに胃袋をつかまれたあと、お楽しみの昼ごはんを受け取って出発した俺たちなのだった。


 顔見知りになった昨日の門番と談笑してから、少し草原を歩いてみる。


 途中、野犬が遠回しに俺たちを眺めていたりしたけれど、絡まれることもなく快適に歩いた。


 昼時、腹が空いたので適当な場所にシートをひろげて、セリーナさんからもらったランチボックスを開封した。


(おお! これがシシカツサンドか)


 まっていましたとばかりに興奮するニール。


 やめろ、俺の口から勝手によだれを出そうとするな。


「美味そうだろ」


 なぜか得意な気分で俺は胸を張った。


 作ってくれたのはセリーナさんだけど。


「いただきます」


 大きく口を開けて、豪快に頬張る。


 うん。


 思ったとおり、めっちゃ美味い。


 ストレージリュックに入れていたから、カツは揚げたてのほかほかサクサクだし、青猫亭の秘伝ソースは奥深い味わいだし、パンはふかふかだし、シシ肉は食べ応えがあり、ジューシーだ。


「うむ! 気に入ったぞ!」と、ニール。


「こら、いま食べてるんだから、急に口を開くな」


 ポロポロこぼれるだろ。行儀が悪い。


(すまん。つい。しかし、美味いな)


(だろ?)


 


『皆さん楽しそうですね』




 と、急に俺たち以外の声がした。


 あ、忘れてた。


 俺は声の主に心当たりがあったので、のんびりと、ポケットから手鏡を出した。


 鏡の中には、ぶぅたれた天使────フジが、金色の髪を指でくるくる巻き取りながらぶつぶつ文句を言っている。


「だって食べれないじゃん、仕方ないだろ」と、俺。


 いわば携帯電話みたいなもので、物は送れない。


「こんなにも美味いものを食えないとは、天使も大したことないな」と、ニール。


 なんでいちいち煽るかな。


 へーん! と、フジが口もとを捻る。


『僕だって、今、天界の粋をあつめた試みをしているんですから。そのうち食べに行きますからね!』


「え、くんの? こっちこれんの?」


 技術的に可能なの? フジって実は優秀なの??


 俺が驚いて目をくりくりとしていると、フジが悪魔のように悪い笑みをみせた。


『みてなさい! いずれ、そっちの美食を食べ尽くしてやります』


「いや、来るのはいいんだけどさ、天界をあげてこっちに侵略するとかはやめてよ」


 俺の飯テロが戦争の引き金をひいたとか笑えない。


『わかってますよ。お忍び旅ですよ。僕みたいな超絶美形がおおっぴらにおりたったら、僕の信者が量産されて、世界の宗教バランスが崩れちゃうでしょ』


「お、おおん?」


 毒で世界征服とか、美で世界を席巻とか、俺のまわりこんなやつしかいねぇの? なんで?


 ていうか、やっぱり宗教とかはあるのな。


 俺自身が興味がなくてもさ。


 知らない、無知っていうことは、相手の地雷を踏みがちだから、気をつけないとな。


 俺には口を滑らしがちな相棒もいることだし。


 なんにせよ、俺だけは客観的に冷静に物事を見ていこうと、強く心に誓った。





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