第12話 ムラノはスキル「毒使い」をかくとくした
「ここがロッタだな」
近づいただけでわかる。ここは人の集まる街だ。
城壁にぐるりと囲まれた街の中からは、人々の喧騒が漏れ聞こえる。
城門には門番がいて、街の中に入る人間を検査していた。
その列に並んで、待つことしばし。
俺の順番がやってきた。
(ニール、余計なこと喋んなよ)
(わかっておるわ)
金属製のかぶとに鎖帷子を身につけ、腰に剣を下げた恰幅の良い門番が、俺の顔を見て目を細めた。
「いらっしゃい! 見ない顔だね?」
「はい、旅をしていまして」
なるべく柔らかく笑って答える。人当たりの良さはどの世界でも重要だろう。
「この街には何をしに?」
「お料理が美味しいと聞いて」
嘘はリスクが高い。素直さがいちばんだ。
門番は目を糸にして笑った。ほらな。
「がははは! それは間違いないな。目当ての店は決まっているのか? まだなら、『青猫亭』がおすすめだぞ。料理は美味いし、二階の客室に泊まることも可能だ」
おお、いい情報。寝食が確保できたら最高だ。お値段はこれから相談だけれど。
幸い、今の俺の懐はほっかほかにあたたかいので、超高級宿でもない限り大丈夫だろう。
「訪ねてみるよ。ありがとう」
にこやかに通り過ぎようとしたら、
「あっ、ちょっと待て」
呼び止められた。
まだ審査は終わってなかった。
かと思いきや、門番はチャーミングなウインクをよこして、
「イノシシのシチューが絶品だよ」
「へぇ! うまそうだ」
「なんというか、秘伝のスパイスが絶品なんだよな。他の店どころか、他の街でも食べたことがない」
それは期待がふくらむな。この門番、いい人。
「ありがとう、行ってみます」
そう言って進み出すと、再び思い出したように引き止められた。
「あっ、この街は初めてなんだよな? 登録を頼む」
「登録?」
「カードは持ってるか? 銀色のやつだ」
「あ、これかな?」
俺は作ったばかりの身分証明カードを取り出した。
「そう。それを、この玉にかざしてくれ。それで本当に終わりだよ」
「わかった」
言われるがまま、台の上に置かれた水晶玉にカードをかざす。
タッチ決済みたいなやつだな。
ピコン
音と同時に、透き通った玉に文字が浮かぶ。
『ムラノ 28さい ・スキル りっぱないちょう 毒使い ・前科 無し』
やっぱり、「りっぱないちょう」だけがひらがなだ。
他はこの世界の文字でつづられていた。
へぇ、前科まで出るんだな。
あれ、ちょっと待てよ。
「え?」
思わず声を上げると、門番が俺に問い返した。
「ん? どうかしたか」
「いや、何でも」
(毒使いってなんだよ、聞いてないぞ)
門番に愛想笑いをしながらニールに問いただすと、呑気な声が返ってきた。
(我の英知の賜物だな)
いや、答えになってねぇ。
「毒使いか、珍しいな」
ほぉら、やっばい。
急に、頭からつま先まで、ジロジロと見られる。
こんなふうにスキルがバレるなんて聞いてないよ。
っていうか、そもそもさ、勝手にスキル増えてんのが問題なんじゃん。しかも毒使いって。
俺っていうより、ニールの力だし。
俺はニールの宿主ではあるけどさ。俺のスキルじゃなくね?
幸い、門番には、ニールの存在はバレてなさそうだが……。
まっすぐに目を見ながらしげしげと顔を覗き込まれて、俺はほほえみながら門番を見返すことしかできない。
これ、たぶん、目を逸らしちゃいかんやつや。
うむ、と、門番が立派に膨らんだ腹をたたいた。腰回りの肉が揺れる。やっぱりこの国はご飯が美味しいんだろうな。
「ま、俺の目は確かだからな! こんな澄んだ目のやつに悪さはできねぇよ! 毒と薬は紙一重だしな。あっ、俺がこう言ったんだから、悪さすんなよ!?」
門番の漢気に、俺はブンブンと頭を縦に振った。
「もちろんです! ありがとう」