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友達は知らないある雨の日のドライブのこと

作者: 第六感

※友人制作の小説「第三者」から影響を受けて書きました。

「ん、長縄くん。あのさ  今から車とか出せる?」友達の友達から、突然の電話だった。


 上坂みやびの声をかき消すように窓を雨の音が打ち鳴らしている。そういう夜のことだった。

「実はさ  彼氏のこと  殺しちゃったかもしれない」

 あの日は雨が降っていた。親友の好きな人と、その人が好きな人の身体を車に乗せて長縄が山に向かったあの日。

「ごめんねこんな時間に急に」

「本当にごめん」

「いや 白河君はさ 免許まだ持ってないじゃない」

「だから 長縄君にしか お願いできなかったんだけど」

「ごめん」

 上坂はよくしゃべった。そんなにしゃべる娘ではなかったハズだったのに。

「私が彼氏と、なんか、うまくいってないって、聞いてた?」

「うん、そう」

「あーちゃんから聞いてたのか。なんだか不思議だね 私たちって 共通の友達多いじゃない なのにあんまり話したことなかったよね」

 そもそも彼女は内気な人間だった そう見えた

 彼氏さんと付き合い始めたのも 受験期の相談に乗ってくれていた先輩が、 一方的に告白し、 それを断りきれなかったからだった。

「だからって こんなことするつもりなんてなかったんだけどね」

「だめだよ! 警察なんて。……だめだよ」

「パパとママが……」

「……ごめん」

 上坂は黙った。 黙らせた。

 車内に、着信が響いた。聞いたことがない着信音だった。

「白河君からだ」

「出ていいかな」

「ありがとう」


『今みやびといるだろ』

 カーナビにしているスマホの上部に『あーちゃん』からの通知が見える。返信はできない。運転中だから手が離せなかった。

『こっちは白河といる』

『なんかいつもと逆だな』

 返信しなくても、彼女はお構いなしだった。平気で通知を重ねてくる。

 通知をきってやろうと手を伸ばしたが。

『ほんとはあたしがやった』

 既読にした。長縄は死体遺棄の最中に法律を守る自分が滑稽だった。しかし、何を送るべきか迷っているうちにスマホの画面が暗くなる。

 そして明るくなった。

『ってことにできないかなって』

『だけ』

『お前の車の話は私がしたんだ』

『まきこんで、ごめんな』


 いつの間にか上坂は泣きだしていた。白河とどんな会話をしたのだろう。彼なら黙って死体を埋めに行ったりしなかったのだろうか。

「うん、うん、もう帰ってくるから、切るね。私ちゃんとお別れできるかな」

 景色はすっかり山道だ。

「一度4人でキャンプに来たよね。高校卒業したときだっけ」

 思い出の山であり、そして長縄が先日相続した二束三文の山である。死んだ祖母もこんな使い道をされるとは思わなかっただろう。

「あっという間だったね」

「こんな斜面に歩ける道、あったんだね。前来た時は寄り付かなかったから」

「外、寒いだろうね。今日は」

 作業小屋から 大きなスコップを二振り取り出して深く深く掘った。

「じゃあ、ここね」


 目印が何もないところにした。掘り返したくなってもできないように。

「疲れちゃったね。まだ何もしてないのに。」


「まだこれじゃだめだよ。よくわからないけど、あんまり浅いとだめなんでしょ」



「それなに? へぇ、唐辛子? そっか。そうしたら野生動物が食べないのね」




「これくらいでいいんじゃない? 私じゃもう自力で登れないよ」






「ね、長縄君? 手を貸してよ」









「ん、ありがと」



 そのあとは黙って家まで送った。帰りの車の中では誰の通知も着信も会話もなかった。

 そう記憶している。


 この招待状によると、白河と上坂の結婚式は来月の6月1日らしい。あの秘密の日の翌日から、即座に長縄と上坂との距離はもとに戻った。そして、友達の恋人になってさらに少しだけ遠くなった。

 彼氏くんはいろんな人にお金借りていた。上坂は婚約指輪も取り返されたと泣き笑ったらしい。上手に。

 あれから3年経った。彼の身体は今日もまだ、見つかっていない。




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― 新着の感想 ―
[一言] 逆に彼氏くんの死体が見つかったらやばいと思うんですが
2023/09/29 10:23 あああああ
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