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崖っぷち仲間

 何もかもを赤と金の鮮烈な色に染め上げながら、静かな夜の気配がひたひたと近付いてくるのを感じる。そんな夕暮れの中、子供たちが駆けて行く。楽しそうにじゃれ合いながら、笑いながら……時折声を顰めながら。


「ライラが出てきた!」

「ボスのお客さんたちは?」

「行った。食堂に行くみたい」

「じゃあ今だ!」


 わらわらと団子状態でふざけ合っているところを、擦れ違いざまの、農園の見張り当番の女性に声をかけられる。


「もう夕飯の時間だよ。遊びはほどほどにして食べに行きな」

「はーい!」

「お腹空いた!」


 元気に返事をする子供たちに目尻を緩めた女性は、そのまま農園の入口へ向かう。

 にこにこ笑いながら女性を見送り、子供たちはそのまま農園の囲いの前に集まってお喋りをする。


「ロナン、今だよ!」

「ああ、うん……」


 大きな声で笑ってお喋りに興じる女の子たちの声に隠れるように、小さくロナンと呼ばれた赤毛の少年は、歯切れ悪そうに返事をする。


「どうしたの?」

「今日もいっぱいなんでしょ? 急いで急いで!」

「……」


 急かされても尚、何かを迷うようにうつむくロナンに焦れたのか、少し体の大きな少年が背中を強めに押した。


「もたもたしてたら、この前みたいにベニー婆ちゃんが呼びに来ちゃうじゃん! 慌てたから、中をぐちゃぐちゃにしちゃってこの前大人たちが怒ってたんだろ! ボスまで凄い怖い顔で見に来てたんだから!」

「……わかったよ」


 諦めたように呟いて、ロナンがくしゃくしゃの赤毛を鬱陶しそうにぱっと払う。途端、その姿が霞のように揺らぎ、空気に解けるように消えた。しかしそこは、十数人の子供たちの輪の中だ。少年一人が消えたところで、視界の悪い夕暮れの強烈な色合いも相まって、外から見て気付く者はいない。

 そうしてロナンが空気から溶け出すように再び姿を現したのは、強固な囲いのその内側である。

 夕陽を受けて、ユーリアは美しくその花弁を赤色に染め上げていた。その下に重たげにぶら下がる金色に手を伸ばしたロナンは、ややあってその手を止め、足元へ視線を落とす。少年の足首程までの高さしかないその苗は、侵入者を意にも介さず、懸命に天に向けてその葉を伸ばす最中であった。それと同じくらいの大きさの苗が幾つも存在し、少年の周囲に放射状に広がっている。


「……ごめん」


 ロナンは耳を持たないそれらへ向かって、小さく謝罪の言葉を口にする。

 そして、再びユーリアの実へ手を伸ばし、


「はい、そこまで」

「……っ!?」


 金色の実に触れる直前、その手を掴む。

 大きく震える体と、零れんばかりに見開かれた目。

 驚愕と恐怖の中に、僅かな安堵の色が滲むのを見て、止められて良かったと心底思った。


「いやー、凄いね。子供たちが集まって、囲いの傍で大きな声を出して遊んでたって、誰も不審に思わないもん。皆が君を囲んじゃえば、そこから少しの間いなくたって気付けない。しかも入ってきた場所は物置部屋の前で、外廊下もない。通り過ぎる大人はいるけど、人目は少ない。手慣れてるわぁ。ここって盗みとか、色々やってたような子供も多いんだっけ? 一度タガの外れた価値観は戻りにくいってね。これはわからないわ。保護者の大人たちは余計に」

「なん、で……アンタが……」

「さっき農園から出て、食堂に向かったはずだって? 術士が目に見えるものだけに騙されちゃいけないよ。少年」

「……祈術か」

「さぁ、どう思う? ……君と同じ冥術かもしれないよ?」


 殆ど確信に近い考えから鎌をかけたのだったが、やはりビンゴだ。息を飲んで体を強張らせる様が、口にせずともどうしてそのことを、という思いを雄弁に語ってくれる。


「ロナン……そんな、どうして……」


 よろよろと歩み寄って来るのは、半信半疑で私の指示通りに、子供たちを欺くための蜃気楼を作り出したライラだ。

 信じられないとばかりに頭を振って、悲し気に美しい夜の瞳を涙の海に溺れさせるライラから、ロナンは痛みを堪えるかのように目を逸らす。

 外からは子供たちの驚き戸惑う声と、三兄弟の声が聞こえた。逃げ出そうとした子供がいたのか、ヴァイスの返戻の声も聞こえたが……やがて静かになる。よし、あっちも上手くいったようだ。


「ロナン、だっけ。事の重大さは……わかってるみたいだね」

「……」

「一応聞こうか。何でこんなことしたの?」


 子供たちの輪郭を曖昧に隠していた、赤と金の美しいコントラストは消え去った。夕陽はその名残で、迫りくる夜空に、僅かに紫と赤のグラデーションを残すばかり。山から吹き下ろされる涼しい夜風が、ユーリアを揺らす。

 彼の大人びた雰囲気がそうさせるのか、幻想的な光景の中佇む赤毛の少年は、絵画のようにいやに様になっていた。


「……金になるから」

「あらやだぁ、君みたいな子供がこれを売る? そんな良心的な市場があるの? どこ? 伝手は? 是非私にも紹介してくれない?」

「アンタ、性格悪いって言われない?」

「うふふ、褒め言葉として受け取っておくわ」


 暫し沈黙が続き、やがてロナンはふっと息を漏らす。精々十歳程度の子供が浮かべるには早すぎる、諦念の微笑みだ。


「これを渡すと、菓子とか玩具とかをたくさん貰えるんだ。……そうすると、皆喜ぶ」

「ああ……外の子たちね」

「オレは冥徒だ。そのせいで親から捨てられた。でも、その力で皆が凄いって喜んでくれたんだ。……だから」

「ロナン、そんなことしなくたって皆は……」


 目を潤ませてそう訴えるライラを、ロナンは憎々し気に睨んだ。


「アンタにはわかんないよ。美人で、優しくて、皆から好かれている。生まれた時から祈士のアンタには」

「ロナン……」


 歩み寄ろうとしたところを冷たく突き放され、酷くショックを受けた様子のライラの肩を軽く叩く。

 ライラも両親が亡くなり、ジュードに拾われるまでディルガームと二人、大変な思いをしたようだが、彼女には両親がいて、兄がいた。そしてこの容姿で、この性格で、祈士である。常に周囲の誰かに愛されて育ってきた。冥徒というだけで人として扱われず、忌み嫌われて生きてきたロナンの気持ちを、真に理解することは、残念ながら叶わないだろう。

 別の世界で家族に愛され、平和に暮らしていた私も同様だ。


「そうだね、子供って結構残酷だから。感情に素直な分、ちょっとでも気に入らなかったり、自分と違うところがあれば、平気でそれを口にして遠ざける。君も最初はそうだったんじゃない?」

「……ああ。死にかけてたところを、ここの大人に拾われて、飯も寝床も、心配せずに暮らせるようになったけど、人が怖くて、どうにも馴染めなかった。オレは明るい性格でもなければ特技もない。だからつまんないって。……けど、どうしようもなく寂しくなって、輪に入りたくて、この囲いの中身が気にならないかって言って、術を使った。その時はただ、カッコいいところを見せたくて、中にあった金色の実が綺麗だったから、一個くらいならって思ったんだ。それで戻ったら、皆凄いって言ってくれて……初めて、認められたような気がしたんだ。冥徒のオレが、実の親からも忌み嫌われたオレがだぞ? 嬉しかったんだ、生きてて良かったって、初めて思えたんだ」

「ロナン……」


 ライラが切なげに名前を呼ぶ。駆け寄って寄り添ってやりたいだろうに、先程拒絶された彼女は、それが出来ずに歯痒そうだ。

 ぽつぽつと自分の気持ちを吐露するロナンは、ユーリアの実を盗み続けた犯人は、普通の少年でしかなかった。

 誰かに認められたい。仲間に入れてほしい。そうして同年代の子供たちの気を引くために使ったのが、他の人と違う、けれど少年にとっては馴染みのある、不思議な力であっただけで。


「でも、これを中から持ってきたところを、大人に見られてたんだ。怒られる、追い出されるって思ってたら、『それをくれないか』って言われた。その時は、これが何なのかもオレは知らなかったし、誰にも言わないならって渡した。そしたら、次の日内緒でお菓子をたくさんくれて、そいつが言うんだ。『また昨日の実を持ってきてくれないか、代わりにお菓子や玩具をたくさん持ってくるから』って。流石にそれはどうかと思ったし、バレたらどうすんだって思ったよ。でも『一回に一個ずつならバレない。いっぱいあるんだから、ちょっとだけ貰ったっていいだろう? 大丈夫だよ』って。正直、迷った。でも、皆が喜んで、オレにありがとう、凄いって言ってくれて。だから、引き受けた」


 やはり、いた。

 スッと目を細め、憤りを殺す。

 そいつが黒幕だ。特別な力を持ちながら、まだ善悪の基準が曖昧になりがちな、幼い子供の心に漬け込んだ卑しい大人。私たちに濡れ衣を被せた、真犯人だ。


「最初の内はビビってたけど、皆バレないようにあれこれ考えてくれて、協力してくれたし、実際この実を盗ってることすらバレなかった。皆で協力して何かをするのも、仲間にして貰えたみたいで楽しかったし。でも、大人たちがそれに気付き始めて、ホームの中がバタつくようになって。ボスと祈士たちの話を盗み聞きしたんだ。それで、これがユーリアの実っていう凄く希少価値の高い実で、一個二十五リーガは下らないって聞いて、オレ、自分がとんでもないことをしてるんだって気付いた。だけど、辞めたらお菓子や玩具が貰えなくなる。皆オレに失望する。……仲間外れに、される。そう思ったら、辞めれなくて……」


 何処かで聞いた話だった。

 皆に頼られ、必要とされて、皆の望むままに進み続けた結果、両手では抱えきれない程大きくなり、良からぬ謀事を企てる者まで、気付かず内包するようになってしまった組織。それに苦悩する冥徒の青年。

 ──冥徒。冥の君に唆された悪しき心の持ち主。

 ──自分の欲のまま、神の恵みを消費しきる、卑しき獣。

 ──稀に人の形をとるものもいるが、それは人に非ず。

 そう言われて忌み嫌われる彼らは、誰より人が好きで、誰かのために身も心も削ってしまうような、優しい寂しがり屋で。

 神話の時代から現代まで言い伝えられ、今も尚、迫害され続ける彼らは、不思議な術が使えるだけの、普通の人間だ。同じく不思議な術を使うことの出来る祈士は、民衆に受け入れられているのに、何故冥徒だけが疎まれるべき存在として語られるようになったのだろう。


「私に嫌がらせしてたのはその大人の指示?」

「いやがらっ……アンタ、アレを嫌がらせで片づけるのかよ……。てかそれもオレだって気付いてたとか……はぁ……」

「嫌がらせする時に姿が見えなかったのも納得ね。姿を消せる……というよりは体の透過、とか? ユーリアの実も囲いをすり抜けて運べるってことは、触れているものにも使えるのね」

「……大体そんな感じ。嫌がらせ……はオレの独断。ボスが中庭の農園の中身が盗まれてる事件を解決するために、外部から人を呼んだって聞いたから、まずいと思って、ビビらせて追い出そうとしたんだよ。……包丁とか、鍬とかは悪かった。オレも焦って、何とかビビらせなきゃと思って……でも周りにディルガームさんとかライラとか、強そうな護衛もいたから大丈夫だろうと思って……」

「あら……? ここ数日、トーカさんが言うところの『嫌がらせ』が、芋を投げるとかその程度だったのは、もしかして逆に周りに人が少なくなったから、ということ……?」

「だ、だってそんなに怪我させる気はなかったし……。なのにコイツはひとりで居るから、ビビらせたいのに危ないもんは飛ばせないしで、どうしようかと思って……」


 う、嘘でしょ……!?

 居心地悪そうに目線をウロウロさせるロナンを見て、何だかドッと体の力が抜けた。

 だって、私は勝負に出るつもりで、死ぬ気はなくとも怪我は覚悟で、ヴァイスと大喧嘩してまでその策を強行したのに。餌をぶらさげても全然食いついて来ないから、推理がそもそも間違ってるのかとか考えたり、あんなに悩んだのに。

 まさか攻撃を仕掛けていた張本人である、悪になり切れない少年自身も困っていたなんて!


「まぁ……道理で。我慢比べも何も、向いてる方向が違うのでは引っ掛かりようもないもの。でも、一度トーカさんに声を掛けたのよね?」

「……この前、何でか急に『出来るだけたくさん採ってきて』って言われたし、採ってる途中で、外で大人が呼びに来たからテンパって、農園もぐちゃぐちゃにしちゃったし、ボスもすげー怒ってたし……だからもう、オレどうしたらいいかわかんなくて、そしたらコイツがひとりで座ってるのが見えて……気付いたら声かけてた」


 それは多分、誰かに止めて欲しかったのだろう。

 悪いことだとわかっていて、本当は辞めたくて、それでも辞められないところまで来てしまって。自分でどうにかなる範疇を超えてしまった。だから、ジュードが事件解決のために連れてきたという私に、無意識にSOSを出したのだ。

 良かった。犯人への囮として、周りから人を遠ざけるという策は、全く無駄という訳じゃなかったんだ。


「大体事情はわかったわ。そういう事ならきっと大丈夫よ、ロナン。ちゃんと説明すればジュードならわかってくれる」


 ロナンがユーリアの実を盗んでいた経緯を聞いたライラは、自らがあれ程怒りに震え、悲しんだことを昇華させたらしい。腰を屈めてロナンに視線を合わせ、子供を慈しむ母親のような、温かな目を向けている。本当に優しい人だ。罪を憎んで人を憎まず。一度拒絶されたロナンに、そっと手を差し伸べる様は、正しく聖女の如く。

 ──でも、それじゃあ駄目だ。


「いいえ、ライラ。ロナンは自分が悪いことをしているという自覚がありながら、自分の意思でそれを続けた。脅されたのでもなくね。責任はロナンにあるわ」


 ライラの差し出した手を押し下げて、罪悪感と喜びの狭間で葛藤しながらも、僅かに片手を上げかけていたロナンに、冷ややかな声でそう告げる。


「トーカさん……!?」

「子供とはいえ、もう善悪の判断くらいつく。自分で聞いたものね。これがそんなに大事なものなのかって。だから私、言ったわよね。これを売ったお金で、君たちはご飯を食べてる。なのに、それが誰かに盗られて減っちゃったら、当然入ってくるお金も減る。そうなると君たちのご飯の量を減らさなきゃいけなくなるって。貴方、今回もたくさん採るように頼まれて、その通りにするつもりだったんでしょ? 売ることが出来るユーリアの実の数が減って、貴方は自分を拾ってくれた皆を飢えさせるかもしれなかった。恩を仇で返してたのよ。わからないはずないわよね?」

「……ああ、その通りだ」


 ロナンはライラへ伸ばしかけた手を見つめ、それをぎゅっと握りしめて頷く。


「それって、ライラと一緒にボスの所に行ってごめんなさいってすれば、それで済むような問題だと思う?」

「思わない」

「その通り。もう子供だからとか、そんな甘っちょろいこと言えるような範疇はとっくに超えてるの。貴方は自分の罪を償わなきゃならない。被害総額はどれくらいかしらね。私たちのユーリアの実と数を合わせてたって言うんだから、相当な額になるわよ。どれくらい働けば返済出来るのかしら? ……ああ、農園も荒らしてユーリアを駄目にした。また育って実が成るまでの期間、本来のままなら収穫出来たはずの実の分の金額も補填するならもっと?」

「トーカさん、そのくらいで」


 ロナンに畳みかければ、彼の顔色は薄暗くてもわかる程みるみる悪くなっていく。堪らずライラが口を出してくるが、首を横に振る。


「いいえ、止めないわ。ライラ、その心の広さ、優しさは貴女の美徳よ。でも、いつ如何なる時でも優しくすればいいってもんじゃない。……それじゃロナンのためにならない」

「え……?」


 呆けたように目を丸くするライラには答えず、可哀そうな程真っ青な顔で震えるロナンの前で、腰を屈める。


「幸いここのボスは貴方と同じ冥徒よ。貴方の冥術は素晴らしいし、汎用性も高い。貴方に回したい仕事なら幾らでもあるだろうし、重宝してくれるんじゃないかしら。それで地道に借金は返済して貰うとして……そもそも、ここに今後も置いて貰えるよう、謝らなきゃいけない。ロナン。怒ってる相手に謝る時、どうすれば相手の怒りを鎮めて、謝罪を聞いて貰えると思う?」

「え……と、……相手の好きな物を持ってく……とか……」


 窮地に追い詰められても思考を止めない。素晴らしい、この子は将来有望だ。

 ロナンが必死に考えて絞り出した答えに満足した私は、にやりと笑って人差し指を立てつつ補足する。


「その通り。ジュードの好きな物とか知らないけど、今回の場合はアイツが今、喉から手が出る程、欲しい物……つまり、貴方を唆してユーリアの実を持って行ってる馬鹿の事よ」

「……へ」


 あ、キョトンとした顔は結構年相応だ。そうだよ、子供がそんな無理して、大人びたような辛気臭い顔なんてしなくていい。

 そうやって、何にも考えないで、素直に感情を表に出してもいいんだよ。


「その馬鹿をふん縛ってジュードの前に転がして、『僕がこの馬鹿に唆されてユーリアの実を盗んでましたごめんなさい。盗ったユーリアの実の分は働いて返すのでここに置いて下さい。手始めにこの馬鹿を捕まえてきました』って言えば、多分爆笑しながら謝罪を受け入れてくれるわよ。貴方の交渉次第では、そこで借金の減額も狙えるわ」

「ま……待ってよ! オレが捕まえる!? そんなのどうやって……!」

「幸い、私もその馬鹿に用があるのよ。協力してあげる。この私にユーリア泥棒の濡れ衣なんて被せやがって、真正面から喧嘩を売ってきたんだもの。百倍返しでも足りないわ」

「濡れ衣って……アンタ、ボスが外部から呼んだ専門家とかじゃないのかよ!?」

「あ、私? 実は私もユーリアの実を売ってるの。寧ろ商売敵って奴。しかもあと二日とかでその馬鹿捕まえないとアンタらのボスに殺される。崖っぷち仲間よ」

「そんな仲間嫌だ!!」


 やけくそで明るい語り口にしたのだが、恐らく目が死んでいたのだろう。引き攣った顔でロナンに叫ばれる。

 よしよし、それだけ叫べれば上々だ。元気が出てきたようで何より。


「で、どうする? ジュードの奴には、証拠が揃って犯人を捕まえる時には、人を貸してやるみたいなこと言われてるし、出来れば貴方を借りたいんだけど?」

「……っやる! 自分でしたことの始末は、自分でする!!」

「よっし、交渉成立ね」


 一瞬泣き出しそうな顔をして、目頭に力を入れて涙を堪えるロナンは、勇ましい顔つきで大きく頷いた。

 それを確認してからロナンに手を差し出せば、今度こそ躊躇いなく、力強く手を握られる。


「トーカさん」


 途中から私たちのやり取りを静かに見守ってくれていたライラが、頃合いを見計らって私を呼んだ。


「うん? 何」

「ありがとうございます。……本当に、色々と」

「礼を言われるようなことなんてしてないわ。汎用性の利く術を使える冥徒で、犯人側から寝返った子供は使いやすいなって思ったから、そうしただけ」


 ライラのお礼に軽く手を振って答えれば、彼女は心底おかしそうに笑った。


「ねぇ、トーカさん」

「……何よ」

「トーカさんは、ちょっと素直じゃなくて、言葉もひねくれてて、一見厳しく、気難しい方に見えますけど……本当は、私なんかよりよっぽど優しくてお人好しな、素敵な方ですよ」

「はぁ? 私が優しい? お人好しぃ? そんなわけないでしょ」

「いいえ! 私にはそう見えるので、私にとってのトーカさんはそうなんですよ!」

「……ライラ、目が悪いんじゃないの」

「残念! 私、山ひとつ挟んだ距離にいる人の顔だって見えるんですよ!」

「いや本当に目良すぎるでしょ」


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