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そんなので差別化できると思うな!

「ああ一宮錬、齢十代にして死んでしまうとはなんと嘆かわしい事か」


 脳に直接響く美しい声。


 ぼんやりと白ばむ視界は徐々に輪郭を取り戻し、目の前の声の主の容姿も明確にする。


 優し気な目元、豊満な胸、強い風が吹けはだけてしまいそうな布を纏う女性。

 彼女の背中には四枚の純白の翼が生えており、頭の上には天使の輪っかのようなものが。


 少しおっとりとしたお姉さん系の現実離れした美貌をもつ彼女を見て、少し頭が痛んだ。

 


 ああそうだ。



 記憶が、死ぬ直前までの記憶がフラッシュバックする。


 絶賛引きこもりニートをしていた俺は推しVTuberの一番くじを買うために早朝に自転車を飛ばしていて――トラックにはねられたんだ。


 体に残る衝突の余韻を感じて、悪寒が走る。

 浅くなる呼吸と共に体の震えが止まらなくなる。


「ああ可哀想に。死んだショックでそんなに震えてしまって、私が温めてあげます」


 二三歩の距離をふわりと飛んで、彼女は俺を抱き寄せる。

 温かい体温と柔らかい体躯、ミルクのような甘い匂いが体を包んだ。


「もう大丈夫ですね」


 むぎゅーっと柔らかい胸を押し付けながら、天使様は微笑む。


「はい大丈夫です」


 ゆっくりとした動作で彼女は離れて、少し頬赤く妖艶な笑みを見せる。


 震えは収まったが、今度は心臓がどきどきしてしょうがない。


「私の名前はパドラ。この世界と違う世界を繋ぐ女神です。不幸なことに一宮錬は死んでしまいました……推しの限定タペストリーが欲しいばっかりに前方不注意で」


「あんまそこ言わないでください。ちょっと恥ずかしいので」


 こほんと咳払いをして、


「ともかくあなたはこのまま人生を終わらせるにはあまりに生きていなさ過ぎます。中学生から高校二年生まで五年間引きこもって人知れない理由で死んでしまう……こんな悲劇他にありましょうか!」


 両手を天高く上げて、叫ぶ。


 気を取り直したようにパドラは冷静な声で語り直した。


「ですからあなたには新たに異世界で第二の人生を送ってほしいのです」


「第二の人生」


「聞いたことはありませんか?いわゆる異世界転生です」


「それを言うなら異世界転移では」


「そうですか?まあ細かいことはいいじゃありませんか。とにかく私はあなたが報われないと気持ちがスッキリしないのです。無論このまま天国へ逝くのも構いませんよ、記憶やあなたが生きてきた軌跡はすっかり失われてしまいますが」


 まるで秘密の賭けを相談してきたようなにやついた表情。


 俺は少し戸惑いながら、こくりと頷く。


「よろしい。ではこちらをご覧ください!あなたの旅路をサポートするための珠玉のスキルたちです!!」


 彼女が手を振ると、ぶわりと半透明の電子版のようなものが周囲に拡散する。


『魔力極大上昇』


『宝剣アマノムラクモノツルギ』


悪魔の右手(ドレインオーガ)


 他にもいくつものスキルが宙に整列する。


 その一つ一つがよく見るとスキル――ゲームの中の勇者や冒険者が操るような恰好良い能力だった。ぱっと見全て世界を揺るがすようなチート級のスキルのようだ。


「全部は駄目ですよ。私も全部差し上げたいところなんですが、さすがに主神に怒られるのでどれか一つにしてくださいね」


 液晶画面を操るようにスワイプすると、宙に浮かぶスキルたちも移動していく。

 いくらスワイプしても英雄的な力を持つであろうスキルばかりが現れる。

 じっくり読み込んでも実は外れ能力でしたーみたいなスキルは見当たらない。


 パドラの方をちらっと見ると、視線に気付いて恥ずかしそうに微笑む。


 俺はつい口から感想を零してしまった。


「普通だ……」


「どうかなさいましたか?この空間に時間の概念はございませんので、いくらでも時間をかけて選んでよろしいのですよ」


 少し心配そうに彼女は言う。


「違うんですよ……時間とかそういうのじゃなくて、普通過ぎるんです」


「普通?わ、私頑張ってスキルを見繕ったのですがお眼鏡に叶いませんでしたか?」


 目に涙を浮かべ、悲しそうなパドラ。


「違うんですよ!普通っていうか普通じゃないっていうかああもう分かんないかな」


 言語化に手間取り、頭をかいて叫ぶ。



「なんでこんなに手厚いんですか!?」



 びくりとパドラは肩を震わせて、なにを言っているのか分からないという顔をする。



「いやもう異世界転移もの黎明期の手厚さ!自由度が高過ぎる!そんなによりどりみどりで大丈夫なの!?クソザコスキルで一発逆転ですらないし!全部のスキル鬼つよだし!」」



「ざまあとか復讐とか通報とか流行る昨今!人が良すぎるよ女神!あんたどんだけいい人なんだよ!テンプレもいいとこだよ!むしろ一周回って外しに来てるよ!」



「実は女神がクソで俺を騙してましたーとか、舐め腐った態度取って一緒に冒険することになりますとか、そういうのじゃないと採算が取れないよ!なのになんでそんなに女神なの?相場は駄女神じゃないの?」



「え、えへへ」


「褒めてない!褒めてないぞ女神!そんなんじゃ激動するweb小説で生き残れないと言ってるんだっ!!」


 びしっと指を差し、言い切った。


 言いたいことを言い終わり、はあはあと息切れを起こす。


 「つまり、」パドラは自分の唇に人差し指を当てて告げる。


「無能力で異世界サバイバルがしたいということですか?」


「スキルは欲しいです!!」

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