第1話 リゾートバイトをしに来たんですが…
「なぁ、知ってるか?」
「ん?」
「何年か前から封鎖してるキノランドのウワサ」
「キノランド?八十八政府が関係してるって聞いたが…そんなのこの国にいるやつは大体みんな知ってるだろ」
「いやいや、それは以前からあるウワサだろ?もっと最新のでよ、
実は、八十八政府がキノランドを封鎖したのは、やばいウイルスが蔓延して、島の人間ほとんどがゾンビみたいになっちまったかららしいぜ」
「は?ゾンビって、そんなのあり得るか?」
「でも実際この島からキノランドへの観光船を出してるやつも行方不明になってるしさぁ」
「あいつはたまたま何かの事故で行方不明になったんだろ?
それにもしもウイルスが蔓延したとしても、船ですぐ逃げれただろうし」
「いや…それがもし、八十八軍によって港を封鎖されていたのなら?」
2022年7月1日
島の南端にある建物の屋上からヘリコプターが飛んでいった。
その建物の屋上に残された二人は、間も無くして非常階段を降り始める
片方の学生服を着た方は、腰まである紅茶色の髪に、ワイシャツと赤いリボン、そして、リボンと同じ色の赤いスカートを身につけている女学生である。
もう一人は、桔梗色の短髪に紺色の着物を着たやけに美しい顔の少年だった。
「うーん…」
今日からアルバイト生活が始まる!という期待とは裏腹に日向は困っていた。
一つ上の先輩である紫郎と共に日本から八十八国までの長い距離を飛行機で移動した後、ヘリコプターでこの島までやってきたのだが、
到着後にこれといった案内もなく、途方にくれていた。
島の端の端…一番南にあるヘリポートに下ろされたが、ヘリコプターの乗員からは私たちのアルバイトについての詳細は教えてもらえなかった。
どこへ行ったらいいのかもわからず、とりあえずこの建物の屋上から出るために、(特に紫郎は)渋々長い階段を降りていた。
「一体アルバイトというのはどこにあるんだ?」
紫郎が眉間にシワをよせ、口を尖らせながら日向に話しかけた。
階段とエレベーターと聞かれれば、問答無用でエレベーターに乗っていたであろう紫郎は、日本からの長旅にもかかわらず、暑い日差しの中で、この長い階段を降りることに不満と疲労を感じていた。
「う~ん…私もよくわからなくて…」
きっと紫郎が着物を着ていなければ、そこまで疲れなかったのではないかと思いつつも、日向は自分の後ろをついてくる紫郎にそう答えた。
「紫郎先輩は何か知ってますか?」
「知ってたら階段なんて使わないぞ…!」
紫郎のわかりきった返事を聞き、日向は苦笑いを返しながら周りの風景をふと見渡した
「ところで、なんかこの街変じゃないですか?」
その街は、日向達が降りている階段の反対の方に広がっていた。
「ここではアルバイトはしたくないのだが…」
そう紫郎が言うようにその街は人気がなく、どの家も何年も使われていないような見た目であった。
扉が壊されている家が何軒もあったり、町中に黒いインクのようなものがこびり付いていたりしている。なんとなく、本能的に見てはいけないような気がした日向は、さっと目を逸らした
()
「そ、そういえば先輩…」
と日向が違う話を始めたその時だった。
———パァンパァンッ
近くで爆発音のようなものが2回聞こえた
「ひゃッ!!!???」
「!!」
紫郎は何かに気づき、さっと身をかがめた
「日向!銃声だ!」
映画をよく見る紫郎にはこの音が何なのかすぐにわかった。
「身を隠した方がいい!撃たれるぞ!」
と紫郎が日向のスカートの裾を引っ張っているのはわかっていたが、日向の目には違うものが写っていた。
「先輩!あそこに人が!!」
と言いながら日向は指をさす。
その人は、自身の右腕を抱えながら、手前の家の壁に寄りかかり、ずるりと背中を引きずるようにしてもたれかかった。
彼は今、生きているが、何かから逃げるようにして身を隠した姿を日向の目は逃さなかった。
咄嗟に助けに行こうと日向が階段を降りようとすると、
「日向!まさか助けに行くのか!?」
と言いながら、紫郎は勢いよく立ち上がり、日向を止めた。
日向は突然、選択を迫られた。
ここでじっとしているか、それとも見ず知らずの人間を助けるか…
『だってそんなに優しくしていたら、相手が学ぶはずのものを学べなくなっちゃうじゃないの』
大好きな母がそう言っていたことを思い出した。母を思い出し、日向の心はふわりとあったかくなった。
でも、今あそこで怪我をしている彼を誰が助けるの?
日向の心がそう思うと、母は煙のように消えてしまった。
それでも、日向の気持ちは変わらなかった。
「はい、行ってきます」
日向はそう答えると、紫郎を真っ直ぐ見た。
「これで行ってきます!先輩はここで待っていてください!」
と、元気よく顔の前に学生鞄を持ってきて見せた後、日向は放たれたように階段を駆け降り始めた!
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「だ...大丈夫か…?」
風のごとく行ってしまった日向をぼんやりと紫郎は見つめた。
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