おかえりなさい
母国に着いた…
ー
懐かしい街並み。
ー
懐かしい道。
ー
懐かしい王宮…
「………」
四年ぶりの光景だ。
以前よりも少し小さく見える。
この先に彼女たちがいる…
どんな時でも可愛くて、どんな表情も素敵で、どんな反応でも俺を癒してくれた彼女たち。
この四年間、そんな彼女に会いたいがために頑張った。
辛くても鍛えて、泣きたくても鍛えて、彼女が常に頭の中にいた。
だけど…
そんなに頑張ったのに、今は会うのが怖い…
四年間、ずっと会いたかったはずなのに…
今は一歩一歩が重い…
「…………」
無くなった右腕を触る。
もうそこに腕と呼べるものは無い。
今、触っているのは肩だ。
………もう彼女を抱き締めれなくなってしまった…
力強く抱き寄せれなくなって、やりたかったお姫様抱っこも出来ない…
…………まあ…別に今すぐ会わなきゃいけないわけじゃないよな…
なら、まだ心の整理はつく。
まだ大丈夫だ…
まだ…
…………。
とりあえず、中に入ろう。
ー
俺の部屋に来た。
懐かしい…とはあまり思わない。
最初に来た時から家具は変わっていないし、どこにでもある部屋だ。
だが、壁に掛けられたものに目が止まった。
それは二つの首飾り。
エミリーから貰った『竜殺し』と『竜滅ぼし』の紋章が付けられたもの。
懐かしい。
確か、竜殺しを貰った時にエミリーに『忠誠の誓い』をしたんだっけか。
あれから色々あったが、あの時のエミリーは可愛かったな…
もうあの時の感情は残っていない。
あるのは『いい思い出だった』という記憶だけ。
もう彼女の顔すらもよく覚えていない…
……今日はそれを思い出すために来たんだ。
なら、ここにいる場合じゃないだろ…
ー
「…………」
やって来たのは教室前。
目の前には扉がある。
どこにでもある木造の扉だが、この前に立つのは緊張する。
「…………」
ドアノブに手をかけようとするが、届かない。
近づけば近づくほど手が震える。
「…………」
と、汚れた袖が目に入る。
飛び散った血が服についたままだったのだ。
…こんな格好では彼女たちに会えない。
身嗜みは重要だ。
部屋に戻ろう。
ー
よし。
準備は整った。
綺麗なシャツ、綺麗なズボン、温かみのあるベスト。
この格好をするのも懐かしいな。
これなら大丈夫だ。
どこも問題ない。
扉を開け、教室に向かう。
ー
「…………」
怖い…
毎日この扉を開けるのを楽しみにしていたはずだ。
ここを開ければ、彼女たちに会えると。
だが、今となってはなんだ…
会いたかったんじゃないのか…
何のために四年間も鍛えた…
何のためにここに来た…
何のために…
何のために『腕』を失った…
「…………」
今日はやめとこう…
まだリオンとフォウにも会っていない。
父さんと母さんにも会わなきゃだ。
その後からでも遅くはないさ…
遅くはないはずだ…
その後は…
「………」
………………帰ろう。
俺は体を後ろに向け、歩みを進めようと…
「シャル…?」
心臓を握られたような気がした。
体が急に硬直し、目を声に向けて見開く。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈。
そこには二人がいた。
もう見ることはないと思っていた人。
いつまでも会いたくて、いつまでも会えないと思っていた人。
見ただけで視界がボヤけ、頬が震える。
「シャル…!!」
ああ…
よかった…
彼女だ…
彼女の温かさだ…
忘れない…
もう二度と…
「おかえりなさい…シャル…」
「ただいま…二人とも…」




