表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
98/150

旅立ち


「騙すのは…気持ちいいなあ」



ッッッッッッッッッッ!!!!



「┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈!!?!?」


突如、(ルーシャ)が血相を変えて後ろを振り向く。


普通なら有り得ない事態。

有り得ない事象。


(ルーシャ)の背後に突如として現れた黒い球。

それが現れた瞬間、空気が変わる。


全てが白と黒に移ろい、全ての音がその黒球に吸い込まれ、全てが終わりへと向かう。


「┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈!!?」


(ルーシャ)が何やら叫んでいるが、俺には聞こえない。


これは俺が仕掛けた最大級の魔術。

最初から仕掛けられた俺の策。


ただ単純な、魔力の暴力。


(ルーシャ)が地面に自らの腕を突き刺し、吸い込まれないように抵抗する。


「…………」


結末を知っている俺はそこで顔を伏せた。


敵の死際(しにぎわ)を見ないのは愚の骨頂だろう。

万が一に敵が生き残りでもしたら、そこで終わりなのだから。


だが…

顔を伏せざるを得なかった。


理由は分からない。

最後の最後で何をしているんだ…




    .   ・     .•                                                 .                                             .            •.      •                  ・  .                                          .           •      .        ・                                                    ・.         .      

.




終わった。


あいつとの戦いが終わったのだ。


達成感は無い。

だが、やるべき事はある。


「…………帰ろう」


体を無理やり起き上がらせる。

背中を壁に押し付けながら。


体中が痛く、重い。


足下の地面のみを見ながら、出口へ向かう。


歩く度に体が大きく揺れ、慣れない体の重心に振り回される。


今はとにかく足を動かすことを考える。


他のことはもう…………考えたくない…




「…………」


出口に着いた。


五つの扉があり、一つは埋もれたように塞がれ、三つは固く閉ざされている。

そして、一つは俺を迎えるように大きく開いていた。


待ち望んでいた光景。


だが、やはり心に高揚はない。


歩く。



歩く…




歩く……





ー魔大陸の住人視点ー


いつも賑やかな大通り。

いつもの受付からいつもの道を眺める。


多種多様な人たちが歩き、時には喧騒もある私好みの街。

だが、今日はやけにみんな静かだ。

人は沢山いるのに、みんな黙って同じ方向を黙って見ている。


それが気になって、私も外に出てみる。


いい天気のいい空気。

胸が軽くなるのを感じる。

だが、みんなの視線の先を見ると、それが急に暗くなったように感じた。


みんなの視線の先を歩く一人の人間。

人間なんて、全く珍しくもなんともない。


だが、その人は異様だった。


とても綺麗な白髪(はくはつ)の髪は光を反射し、彼の周りが他のところよりも輝いて見える。

袖を(まく)って見える腕は逞しく、美しく、エロい。

完璧と言えるほどに整った顔立ちで、今すぐに声をかけたくなる衝動に駆られる。

誰もが目を引かれるのも当然の姿だ。


だが、違う。

その青年がここまで注目されるのはそれだけじゃない。


片腕が無いのもそうだが、それよりも注目すべきは目。

幸福が抜け落ちたそれは、見ているとこっちまで不幸が襲いかかってきそうだった。

だが、それに嫌悪感はなく、あの美丈夫になら見られたいとまで思ってしまう。


その青年がとある店の前で止まり、そちらの方へ向かっていく。

私の方に。


「…!」


思わず、びっくりしてしまった。

心臓が緊張、または恐怖でドキドキしている。


「………」


近くで見ると、かなり格好いい…

彼の顔に釘付けになり、今すぐに体を捧げたくなる。

その逞しい腕と体に抱かれてしまえば、きっと抜け出せなくなるだろう。


「…………」


彼は何も言わない。


私の前でただ立ち尽くしているだけだ。


「……!」


ハッとする。


そういえば、私は働いているのだった。

ここに用があるのかもしれない。

もしかしたら、私に一目惚れ………ではないか…


「あの……馬車のご利用…でしょうか…?」

「………」


彼が頷く。


自分の考えが当たって、残念な気持ちになる。


肩を落としたくなるのを我慢して、受付に案内する。


「では、名前と住所、行き先をお願いします」


(よど)むことなく言えた。

毎日言ってることだから当然だけど。


彼がペンで個人情報を書いていく。


「………」


彼の名前はシャル・テラムンドと言うらしい。


…………テラムンド!?

テラムンドって……人国の大貴族の家名だ。

貴族とかに(うと)い私でも知っている。

というか、貴族の名前なんてテラムンドしか知らない。


ジェフ・テラムンドとロウネ・テラムンドが魔王様に何かしらお手伝いをしてるのはみんな知っている。

なら、この人はそのご子息なのだろうか…


そんなことが…


偽名?

よりにもよってそんな名前を?

……いや…そもそもこんな状態の人が嘘をつくとは思えない。

なら、なんでこんな普通の店に…


……書き終えたようだ。


「行き先はレノアーノ……遠出するんですね…」


私も何回か行ったことのある国だ。

あそこはいい国だったなぁ。


「お駄賃はレノアーノでもお支払いできますが、どうなさいますか?」

「………」


すると、彼が手のひらをこちらに向けて…


「えっ…?!」


思わず、声を上げてしまった。


その手のひらの上にはどこから取り出したのか、大きくて綺麗な宝石があった。


こんなに凄いのは見たことがない。


私の拳と大して変わらない大きさの宝石が受付に置かれる。


「こんなっ……受け取れません…!」


私だって宝石は好きだ。

だけど、こんなに凄いものを渡されたら、逆に怖い。

相手は本物の大貴族様だ。

借りとかそういうのは分からないし、後が怖い。


「………」


と、またも宝石を差し出してくる。

今度は小指の爪くらいのものだった。


それは小さく見えるけども、店にあったら間違いなく目玉として展示されるものだろう。


「……で……では……お預かりします…」


恐る恐る受け取り、慎重に両手でギュッと握る。



馬車の手配を済ませ、彼は旅立っていった…


私は自分の部屋に彼の筆跡が残る紙と、彼がくれた宝石を大事にしまう。


「…………」


格好よかったなぁ…

体も鍛えられてて、凄く抱きしめてほしかった…

匂いも素敵で、お金も持ってて、きっと素は紳士なんだろうなぁ…


あの人の想い人になれたら、どれだけ幸せだろう…


「………」


しばらくは彼のことを想ってすることになりそうだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ