間違い
「騙すのは…気持ちええのお」
何だ…
何のことを言っている…
この不意打ちのことか。
それとも、形態の変わったその腕のことか。
それとも、こいつはこの4年間…
やめろ…
今はそんなことを考えている場合じゃない。
ああもう、視界がぼやけてきた…
やめろ…
怖い…
寂しい…
痛い…
見放さないでくれ…
ずっと俺のこと…
嫌だ…
嫌だ…
俺だって…お前のこと┈┈┈┈┈┈
「のお」
喋るな…
頭に響く。
「この勝負、もう後戻りは出来んのぉ?」
元よりそのつもりだ。
まだ変わった重心に慣れない。
「妾が勝ったら、一生をここで暮らしてもらう」
そうかよ…
体の震えが止まらない。
「じゃが妾は執拗い性格でのぉ」
知ってるよ。
左足をより大きく広げ、重心を調整する。
「妾が勝ったあと┈┈┈┈┈┈」
腕が不敵に笑う。
「┈┈┈┈┈┈主の彼女を殺そうと思う」
……………。
俺の彼女を……殺す?
命を絶つってことか?
こいつが…
彼女たちを…
震えはいつの間にか止まっていた。
代わりに、腹の底から何かが別の震えとなってやってくる。
片腕が無くなったことなど、気にもならないほど。
それはただ純粋に、愚直に、素直にそう思った。
魔術を使う。
『水の御業』ー水の龍
『焔の鉄槌』ー炎を纏った悪鬼
『暴食の黒球』ー黒い球体
『黄昏を彷徨う老木』ー木の化物
『泥を御する泥酔者』ー泥の巨大な猫
すべて蒼級召喚獣。
それが4体ずつ。
これが今の俺に出来る最大級の魔術。
見た目も能力もまるで違う召喚獣たちだが、込めた命令は等しく同じ。
「『ぶっ殺せ』」
最初で最後、最大の戦いが始まった。




