表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
93/150

決戦前夜

『1』


「腕ってさ、好きな食べ物とかあるのか?」


訓練の休憩時間、適当に体を伸ばしながら会話をする。


明日はこいつを殺さなくてはならないのに、なんでこんなに緊張感が無いのだろう。

こいつは俺のことが好きだから、それに甘えているのだろうか。

はたまた…


「そうじゃのぉ……甘いもんが好きじゃの」


甘いものか…

そういえば、しばらくプリンを作ってないな。

また今度、作ってみるか。


………プリン?

また何か忘れている気が…

まあ…いいか…


魔王城(ここ)にそういう店あったっけか?」

「なくはないの」

「ん、今度行ってみるか」

「お、二人きりのデ┈┈┈┈┈┈」

「┈┈┈┈┈┈オレも行くぅ!」

「あちしもぉ」


後からいつもの2人が湧いてきた。


まあ、人数が多い方がいいだろう。




4人で甘いものがある店に来た。

そこは前に来たことのある店だった。


俺の隣に座る(ルーシャ)は少し気に食わなさそうにしている。


「シャル様!」


なぜなら、この死体(ゾンビ)の娘がいるから。


「シャル様……(わたくし)…寂しゅうございました…」


どうやら、この子は俺に惚れてしまったらしい。

1年ぶりだと言うのに、この惚れられよう。


ちょっと口説きっぽいことをしたら、ここまで懐かれてしまった。

嫌ではないのだが、隣に不機嫌そうな子もいるし、俺には彼女もいるから勘弁して欲しい。


「おい娘、妾の男に手を出すでない」

「違いますルーシャ様……お客様を持て成すのは(わたくし)共の務め……ですからこれは仕方のないことなのです…」


そう言って、椅子に座る俺の片腕に引っ付く死体(ゾンビ)さん。


胸がやわこい。


「何が仕方ないじゃ。妾たちとて客じゃぞ?」

「………シャル様…」


なんでこっちに目を向けるんだ。

そんな顔をされても困るだけなのだが。


「それより、僕は君の持ってきた料理が食べたいな」

「……畏まりました…」


さすがに誤魔化せなかったか。


残念そうに目を伏せる死体(ゾンビ)さん。



料理が運ばれてきた。

死体(ゾンビ)さんを含む4人で。


「ありがとう」


目の前に頼んだデザートが置かれる。


美味しそうなのだが、肝心のスプーンが無い。

未だここに残るひとりの店員に目をやる。


「シャル様……あーん…」

「おい!」


さすがの(ルーシャ)も声を張り上げ、椅子から立ち上がる。


だが、妙に忍耐強い死体(ゾンビ)さん。

立ち上がった(ルーシャ)を見ても、差し出されたスプーンを退けない。


悪い気はしないが、このままでは(ルーシャ)が不機嫌になってしまう。

もうなっているが、これ以上は駄目だろう。


俺は死体(ゾンビ)さんに耳打ちの体勢をとる。

そして…


「次はひとりで来るから……その時にしよう」

「っ…」


明日は(ルーシャ)と戦うのだから、こんなのは酷い嘘だろう。

だが、好きじゃない人にどう思われようと俺は気にしない。

(ルーシャ)の機嫌を取る方が大事…


「はい…! その時を楽しみにしております…!」

「僕もだよ」


死体(ゾンビ)さんに微笑み、彼女は仕事へと戻って行った。


「アレス……アレス…」


と、小声でアレスを呼ぶカフ。

下を向きながら、アレスをとんとんしている。


「ぱいなっぷる……ぱいなっぷる…」

「………すみませーん、パイナップルトッピングでくださーい」


アレスの声を聞き、了承の声を出す店員。


カフは相変わらずコミュ障らしい。


「シャルって…さ……彼女いるんだよね…」


と、珍しくカフが不貞腐れている。


アレスがなると思っていたが、今度はこの子か。


「そうだな」

「勝ち組かっ………ちっ」


えっ。


「それよりも、主は死なぬことを考えるべきじゃな」

「…そうだな」

「どゆこと?」


不貞腐れていない方のアレスが問いかける。


「妾たち、明日やり合うんじゃ」

「おっ、いよいよか」

「うむ」


なぜだろう。

少し照れている自分がいる。


戦うってことを周りに(しら)せているだけなのに、今更緊張してきた。


「シャル、ルーシャを選ぶとは挑戦者だな」


持ってこられたパイナップルをカフに渡しながら言う。


アレスがそう言うのも当然だ。

(ルーシャ)は幹部の中で最も強い。

アレスは捕まえられるし、アストラス(躯幹)を一撃で倒すほどの膂力(りょりょく)がある。


だが、(ルーシャ)は消去法で選んだのだ。

アレスは攻撃が当たらないし、最弱のカフは殺せない。

アストラスは何をしてくるか分からないし、剣術の対策なんてしていない。

故に、俺が勝ち目のあるのは(ルーシャ)しかいない。


「まあ、カフを殺せたらよかったんだけどな」

「えっ」

「じゃ、明日はよろしくな。腕」

「うむ、殺さぬように気をつけるとするかの」

「はっ、()かせ」




夜。

いよいよ、この夜を越したら決戦だ。

今は少し興奮しているためか、寝つけずにいる。


「起きとったか、主」

「ん」


今夜も(ルーシャ)が来た。


何となく、来る気はしていた。


酒と言うよりは香水が入っていそうな酒瓶と、ひとつの(さかずき)を持っている。


「ちょいと飲まんか?」

「毒でも入ってるのか?」

「あほ」


(ルーシャ)が俺の隣に座り、酒瓶を開ける。

上品な酒の匂いと、透き通った匂いが鼻を巡る。


上等な酒であることが俺にも分かる。


盃に(ルーシャ)が酒を注ぎ、それを渡してくる。

それを受け取り、注がれた酒に映った自分が見える。


それを仰ぐ。


半分ほど残し、(ルーシャ)に渡す。


(ルーシャ)が酒を飲み干した。


「……実はな…盃を渡すの………求婚って意味なんじゃ…」

「…………」


(ルーシャ)の持った盃に目をやる。


「そうか…」

「驚かんのか?」

「慣れてるからな」

「そうか…」


少し残念そうだな。

返事でも欲しかったのだろうか。


「返事は明日、生きてたら伝える」

「……うむ…分かった」

「…………」


酷い約束をしてしまったな…

相変わらず、俺は彼女以外の人には気遣いがないらしい。


「じゃ、明日は本気でやるからの」

「ああ、俺も本気でやる」

「うむ、おやすみの」

「ん、おやすみ」



スッキリとした体で、今日は眠りについた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] カフかわいい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ