追いかけっこ
残り『2』
アレスを捕まえた後、腕が馬に乗っかって尋問をしていた。
「お主は何も見ていない。よいな?」
「はひ……僕はさっき見たことを誰にも┈┈┈┈ピギャっ!」
「違うじゃろ?」
「はひ……忘れるでござる…」
「よし」
俺は素直に腕を凄いと思う。
あんなに足の速いアレスを、俺も含めてたとはいえ捕まえたのだ。
アレスが全力で逃げ回っていたかは分からないが、俺では追いつけない速度だった。
俺はこんなやつを殺さなくてはいけないのか。
アレスが腕から解放される。
「ふぅ………で? あれってどう見てもシャルから迫ってたよな?」
おい。
「ま、色々な」
「ほへぇ」
興味の無さそうな返事だ。
まあ、興味を持たれたら困るのだが。
「なあなあ、なんかお詫びでもしようか?」
「…?」
アレスが?
全く期待できないんだが…
「まあそんな顔すんなって。お前たち二人ってアレだろ? ほら、アレなんだろ?」
「アレってなんだよ。お前の思ってるアレでもソレでもないと思うんだが」
こいつの考えていることは分からないが、とにかく違う。
俺たちはアレな関係でも、ソレな関係でもない。
断じて違う。
「で、今なら詫びとして俺の背中に乗せてやれるんだが…どうする?」
アレスの背中か。
腕が言うにはあまり乗り心地は良くないらしいが、その速さは体験してみたい。
「じゃあ、お願いできるか?」
ー
「いぃぃぃいいやっはあぁぁぁぁあ!」
アレスのテンションの高い声が前から後ろに流れていく。
「アレス! ストーップ! ストーップっ!」
今は俺と腕を乗せたアレスが思うがままに野原を走り回っている。
その速さはハッキリ言って怖い。
腹が浮くような感覚が常にあり、いつ落ちてもおかしくない感覚になっている。
「あひゃひゃひゃひゃ! オレは止まることを知らない男。そう! オレは止まることを知らない男!」
「お主それ言いたいだけじゃろ! 早く止まれ!」
この速度では景色どころではない。
周りは全て残像として映り、細やかな色なんてあったものじゃない。
しかも、腕も落ちないように俺に抱きつき、その大きな胸がやわっこい。
不味い。
非常に不味い。
アレスから落ちそうだし、色々と堕ちそうだ。
「アレス! 止まらないと事故が起こ┈┈┈┈┈┈」
ぽさっ
「「 あ…………… 」」
何かが落ちる音。
俺の背中にあった温かみと柔らかさがなくなった。
アレスもそこでようやく止まり、2人で音の方向を見ると…
「「 …………… 」」
そこには案の定、アレスから落っこちた腕が横たわっていた。
「だ………大丈夫か…? 腕…」
ようやく言葉が出た。
そして、ゆっくりと起き上がる腕。
その動作に怒りはない。
だが、何の感情もないのが逆に気になる。
立ち上がる腕。
そして、ゆっくりとこちらに片方の腕を向けてくる。
「やべっ!」
アレスのその一言で俺も察する。
腕は今、臨戦態勢に入っている。
あいつの魔術の破壊力は俺もよく知っている。
だが、逃げたらそれはそれで駄目な状況になるだろう。
だが生憎、手綱を握っているのは俺ではなかった。
アレスは逃げた。
ー
アレスはまだ腕から逃げている。
「おい! 今のうちに謝った方がいいんじゃないか?!」
「バカ言うな! あれは結構ガチな方で怒ってるやつだ! 捕まったらもがれる! 色々もがれる!」
もがれるって何?!
すぅ……………いや待てよ…
「なぁアレス…」
「なに?!」
俺は駆け巡る視界の中、冷静な声を出していた。
そして、俺の冷静な考え。
完璧な考え。
最も平和的な解決策。
「別に腕はさ………俺に怒ってるわけじゃな┈┈┈┈┈┈」
「┈┈┈┈┈┈わああああ! 今から降りるの超危ない! マジで危ない! どんくらい危ないって言うと本当に危ない!」
アレスが足を止めてくれれば解決する問題なんだが。
腕はその危ないところから落っこちた訳だが。
「ぎゃっ!」
と、腕が足元に魔術を撃ってきた。
土煙が上がり、直ぐに遠ざかる。
「おいシャル! 迎撃準備!」
「ああ?!」
迎撃ってなんだよ。
こいつ、俺にまで怒りの矛先が向くようにしようってのか?
だが、まあ…
あれだな。
安定しない足場での訓練もしておくべきだよな。
…………よし。
ー
ボオオオン!
魔術を放つ。
「ナイスヒットだシャル! このままやっちまえ! ワンモアポイント!」
アレスがこの状況をかなり楽しんでる。
俺も腕と戯れが出来て、気が軽くなっている。
「おいアレス! これ大丈夫なんだよな?!」
「安心しろ! なんたって操縦オレ、動力源オレ、全部オレの究極┈┈┈┈┈┈」
「┈┈┈┈┈┈ちょっ、うるさい!」
アレスの言葉を振り払い、魔術を放つ。
ボアァァァアン!
当たった。
「よっしゃ! どんどんいくぜ!」
俺も声を張り上げていた。
ー
捕まった。
まあ、十分に訓練できたのだから良しとしよう。
なぜかアレスと一緒に正座させられているが。
この後、俺たちの言い訳は長きに渡って行われた。




