やらかしからの目覚め
残り『3』
朝、すっきりと目覚め、隣に眠る美女を見て思う。
恥ずかしい。
昨日の晩のことを思い出し、眠っているこいつとどう顔を合わせればよいか分からなくなる。
俺、昨日はずっと泣いてたな。
殺人予告をしたあともしっかりと。
かなり甘えて、かなりチュッチュした気がする。
もうやだ…
だが、こんな時こそ落ち着きが肝心だ。
俺は何事にも動じない男だ。
今は冷静になって、着替えよう。
着ていた服を脱ぎ、用意された全く同じものを着る。
ハーネスベルトを着け、黒のハーフグローブも着ける。
いつもの格好に平穏な心が戻る。
「んん……?」
ベッドの上でもぞもぞ動く腕。
隣にいたはずの俺を腕だけで探し、自分の胸辺りも同じように探す。
その動作が……
「ん……おはよう……ぬし…」
「おはよう、腕」
微笑みながら挨拶をされ、こちらも同じように挨拶する。
俺に羞恥による顔の歪みはない。
俺は自分を律することのできる男。
決して、こいつに甘えたりなんかしない。
腕が腕で半身を立たせ、起き上がる。
「主……昨日はメロメロじゃったのぉ」
「…忘れろ」
「やじゃ」
ちっ。
俺と違って記憶力のいいやつだ。
「もっかい甘えてくれてもよいのじゃぞ?」
「やだ」
もう俺は甘えない。
俺は誘惑に強い男。
「……今ならおはようのちゅー……できるんじゃがな…」
禍々しい指で自らの唇を指し示す腕。
「…………」
まさか、あんなに怖かった腕がこんなに色っぽく見えるなんてな…
想像もしていなかった。
ベッドに上がり、キスをした。
「へへぇ」
ニヤつく顔がムカつく。
「さ、訓練行くぞ」
もうすぐ、俺はこいつと本気で勝負する。
俺も死ぬかもしれない大勝負だ。
もう気は抜けない。
「訓練には早いじゃろ……まだいちゃいちゃしてたいのぉ…」
「駄目だ。今日からは思い切り扱くからな」
「…………」
見るからに不満そうで、面倒くさそうな顔をする腕。
そんな顔をされても、俺の決意は揺らがない。
「いちゃいちゃせんとやる気でん…」
こいつ…
「分かった…何したい?」
「一緒に寝たい…」
「ん、昼までな」
「うむ…」
「むむむ?」
俺たち以外の知らない声。
俺も腕も体がピクっとし、固まる。
目を動かさずとも分かる。
声を聞かずともこの後の状況が分かる。
「お二人さぁん」
今、喋っているやつの顔があったとしたら、絶対にニヤニヤしているだろう。
本当に間の悪いやつだ。
「あれれぇえ? 朝っぱらからぬわぁにやってんのお?」
圧倒的に不利な状況と分かってのその口調。
本当に腹が立つ。
「おいアレス、お前┈┈┈┈┈┈」
「┈┈┈┈┈┈ちょっと黙って? それ以上動いたら大声出すよ?」
何言ってんだこいつ。
だが、俺が手に魔力を込めようとしているのがバレた。
さすがは魔王軍幹部のひとりだ。
ぶっ殺してやりたくなる。
「いいか? 動くなよ? オレはまた後で来るから」
「……何しに行くんじゃ?」
「え? 何って…」
アレスはそこでこちらに向けていた体を廊下に向ける。
そして…
「みんなを呼びに」
俺たちとアレスの追いかけっこが始まった。




