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奉仕転生〜死んでも奉仕する〜  作者: 白アンド
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記憶

ーエミリー視点ー


シャルがいなくなって三年が過ぎた。


毎日のように朝から見合いの予定が詰まっている。

どれだけ蹴飛ばしても、どれだけ相手にしなくてもその数は減らない。


昔まではシャルしか私を愛してくれる人はいないと思っていた。

けど、本気で私を好きなやつは案外いるようだ。

それでも全員シャルみたいに話は面白くないし、賢くも優しくもない。

頼りにならないし、したくもない。


もう面倒くさくなってきた。


「こんにちは、王女様」

「ええ」

(わたくし)、スカイラド家が長男、ユガ・スカイラドと申します」


スカイラド家。

家柄、歴史、功績、忠義、財力、人望、領地、領民からの支持、魔術、その他。

全てがテラムンド家の劣化の家。


「本日はお日柄もよろしいようで」

「そうね」


返事をするのも面倒くさい。


最近は何もかもが楽しくない。


「姫様はご趣味などはありますか?」

「剣術ね」

「それは素晴らしい。ご兄弟は?」

「いないわ」


(めかけ)の子はいるらしいけど、顔も見たことがない。

そういえば、私はシャルの弟にも会ったことがない。

どういう子なんだろう。

シャル似かもしれない。

シャル似…


それなら…悪くないのかもしれない…


「あなたの瞳は美しいですね」


急に口説いてきた。


目なんか合わせたくないけれど、見られたのなら合わさざるを得ない。


「ありがとう」

「そうです。(わたくし)つい先日、スカイラド家の魔術を覚えまして」


スカイラド家のみが使うことの出来る魔術の話だ。

実際はスカイラド家の中でしか教えられていないというだけのもの。

上級魔術の強力な魔術だけど、テラムンド家に比べれば弱小もいいところだ。


(わたくし)が歴代で最速の会得者だと、父様に褒められてしまいましたよ」

「そう」


よくもその程度で自慢できたものだ。


シャルは十歳で(あお)級魔術を二つも会得したという。

テラムンド家でこいつの年齢(十二)なら蒼級の一つや二つは覚えているだろう。


程度の低い男だ。


「お嬢様、スカイラド様、お時間です」


フィルが時間を(しら)せてくれる。


少し予定よりは早いけれど、よくやってくれた。


「まっ…待たれよ…! フォルテス殿」


見合いがようやく終わろうと言う時、スカイラドが立ち上がった。


「待てと言われましても……お嬢様の貴重なお時間を割くおつもりですか?」

「いえ…そんなつもりは…」


フィルも言うようになった。

これも私が傍にいた影響だろうか。


「た…確かに(わたくし)はあなたの魔術には程遠い……だが…それでも………時間を延ばしてはくれないだろうか…」


…?

なんでここでフィルの話が出てくるのだろう。

フィルの魔術が凄いことと、こいつが見合いをするかどうかは関係ないはずだ…


……………もしかして、こいつ…


「フィルは女の子よ」

「……………え?」



久しぶりに見合い相手を蹴飛ばすことになった。




いつもの訓練を終えたあとも見合いの予定が入っている。

毎日毎日、多くの者と話すのは疲れる。

そろそろ減ってはくれないだろうか。


今はその予定を無視して、王宮の屋根に乗っかっている。


お父様の言いつけを無視したのは初めてだけれど、罪悪感は無い。

ここからの夜景は綺麗だし、懐かしの場所でもある。


しばらくはここで一人になりたい。




「ん、エミリー」

「フィル」


フィルがここまで上がってきた。


怒られるかと思ったけど、その表情はいつもの顔だ。


「みんな探してるよ」

「別にいいわよ」


ちょっと怒られた。

悪い気はしない。


フィルが歩いてきて、私の隣に座った。


「ここ、綺麗だね」

「……昔、シャルがここで花火を見せてくれたのよ」


シャルとの懐かしい記憶。


最近、彼との記憶が薄れてきている気がする。

まるで、彼と会っていたのが夢みたいで、既に終わったもののようになっていて…

彼がいた日常よりも、彼のいない日常の方が身についてきて…


「……大丈夫? エミリー」

「…?」


気がついたら、涙が出ていた。


寂しいのには慣れていたはずなのに、どうして急に…


「ごめんなさい…」

「別にいいよ。どうしたの?」


……この子も随分と頼りになるようになった。

昔はかなり寂しがり屋で、面倒くさくて、シャルに頼りきりだったのに今では私よりも強くなってしまった。


「……シャルの記憶が……思い出せなくなって…」

「………そうなんだね…」


フィルはどうなんだろう。

こんなにシャルと会っていなくて、記憶が薄れたりしないのだろうか。


「でもね、大丈夫だと思うよ」

「………なんでよ」

「だってエミリー、忘れたくないって思ってるでしょ? なら大丈夫だよ」

「………そうかしら…」

「そうだよ。そのためにエミリーは頑張ってるでしょ」


そうだといいな。

そうじゃないと駄目な気がする。


私はシャルに会うために頑張って、シャルに褒められるために強くなる。

そして…


「僕は┈┈┈┈」


フィルがこちらに顔を向け、口を開く。


「┈┈┈┈そうやって頑張るエミリーが大好きですよ」

「………今のシャルの真似?」

「うん」

「…ちょっとドキッとしたわ」

「私でしてたらシャルの時もたないよ?」


それもそうだ。

シャルは凄く口がうまい。

欲しい言葉と、ドキドキする言葉をいつもくれる。


「ありがとうフィル、また頑張れそうよ」

「それはよかった」


フィルが優しく笑う。


今日は明日に備えて寝よう。

そして、また強くならねばならない。



シャルと新しい日常をつくるために。



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