魔王軍幹部と帰路!
食事を終え、その帰り道。
「ねぇねぇ、館の話って知ってる?」
「知らね」
珍しくカフからの振りなのにそれを容赦なくぶった斬るアレス。
「なんじゃ? 館の話って」
「えっとねぇ……」
「え、待って? 怖いならやめて?」
アレスが話を聞きたがらない。
「なぁにぃ? アレス怖いの?」
「全然? は? かかってこいよ」
そこからカフの怪談話が始まった。
「ある館に肝試しに入った男女がね、明かりのない廊下を慎重に歩くの。そこで一人の男の子が先導して前を歩くんだけど、今まで服をキュッ……と握ってた女の子の手の感覚がないことに気がついたの。でも何回か嫌がらせでそういうことをされてたから、今度もそれだろうと思って振り向きもしなかったんだって…」
カフ以外は静かにそれを聞き、アレスの足音が妙に耳に入る。
「そこからまた服を握る手に男の子も安心して、さらに奥に進みました……ようやく目的地に着き、後は出口を目指すだけです。『やっぱり何も無かったぞ。早く帰ろう』そう言って振り返った時………今まで自分の服を握っていたのは┈┈┈┈┈」
「┈┈┈┈┈┈はい怖すぎ」
と、いい所でアレスが話をぶった斬った。
「おいアレス、今いいとこ┈┈┈┈┈┈」
「┈┈┈┈┈┈はい何も聞こえませーん。幽霊なんていませーん」
耳が無いのに両耳を手で塞ぐアレス。
「アレスって不老なのにそういうの苦手なのか?」
「何が? 苦手ってなあに? え? 知らない知らない」
「えぇ? アレスってビビりだったのお?」
カフが片手で口を隠し、煽るように笑ってみせる。
「ビビる? 何に? オレがこの世で一番嫌いな言葉ビ、ビ、るだからね?」
このあともアレスの言い訳が続き、風俗街を抜けた。
「のぉ、お主」
「ん?」
後ろを歩く腕が話しかけてきた。
そこに振り向く。
「足痛くなってきた。おぶって」
「やだ。お前歩けるだろ」
見え透いた演技をする腕。
こいつはヒールを履いている訳でもないし、怪我をしている様子もない。
日頃からあんな激しい運動をしているやつがこんな事で音を上げるはずがない。
現に腕は口を尖らせる余裕があるようだ。
「本当にキツかったらアレスに頼め」
「やじゃ。アレスの上はゴツゴツしてて落ちそうになる」
「オレはビップのお姉さんしか乗せません」
「アレス乗せてー」
「うん話聞いてたー?」
腕が俺の隣まで小走りでやってきて、アレスがカフを自らの体に乗せる。
デカい馬に乗る女の子。
遊具に乗る子供。
これが魔王軍幹部と言うんだから、信じられないな。
「ところでさ、みんなってどうやって幹部になったんだ?」
「「「 ほほう? 」」」
3人同時に俺の方を向く。
その内のひとりが胸を張って口を開いた。
「オレは真魔さんと戦ったぞ。勝負に勝ったら仲間に入ってやるってな」
「おお」
で、負けたのか。
だが、あのちんちくりんな魔王は本当に強いんだな。
俺ではアレスに攻撃を当てることさえ出来なかったのだから。
「妾は話し合いじゃったな。それで承諾したんじゃ。ちょっと勢いに任せすぎたと思っとるがな」
「戦ったことは?」
「ないのう」
ふーん。
「カフは?」
「すぅぅ………あちしは……なんか……返事してたら…なって……ました…」
「…………」
まあ、カフらしいと言えばらしいのだが…
「まあ、それだけ実力があるのは確かなんだし…」
「そうだよね? やっぱりそう思う?」
「うん…」
「へへ……あぶねっ」
引きつった笑みで納得するカフ。
この子の実力なんて見たこともないし聞いたこともないが、何とか誤魔化せたようだ。
「あとさ、もうひとり幹部いるじゃん? 俺会ったことないんだよな」
「「「 あー 」」」
「妾はないの」
「あちしもぉ」
「オレもぉ」
全員ないのか。
カフ以上の引きこもりとは恐れ入るな。
そんなこんなで今日は少し寄り道してから、みんなで帰った。
ーカフの怪談話ー
全てルーシャから聞いた話で、これを聞いた後は一ヶ月間誰かと一緒に居ないと目も開けられないほど怖がっていた。
カフは魔王軍の中で一番の怖がり。




