魔王軍幹部と食事!
店に着いた。
クリーム色の建材に、黒の椅子。
天井には綺麗に象られた魔光石があり、いい雰囲気だ。
「いい所だな」
「そうだろ?」
「デートに良さそうじゃな」
…………こいつが言うと少し意識してしまう自分が嫌だ。
わざと言っているんだとしたら、かなりの使い手だな。
「お主、今想像したじゃろ」
「してない」
「ふぅうん」
めんどくせ。
「…?」
席に着き、俺は少し違和感を感じた。
違和感の正体は斜め前に座る女の子。
カフだ。
極度のコミュ障で引きこもりのこの子。
そんな子が雰囲気の良い店で平然としているのだ。
かなりの違和感を感じる。
「なあカフ」
「……?」
「なんかいつもみたいにソワソワしてないな」
「……え、今あちしのことバカにした?」
「してな┈┈┈┈┈┈」
「┈┈┈┈┈┈プクすー! おま! ちょっ、おまおまおま! ついにシャルにまでコミュ障認定されちゃったかあ!」
してないのにアレスがうるさい。
まだ先程のことを根に持っているらしい。
「違いますぅ、前にルーシャと一緒に来たことあるだけですぅ」
「…………それほんと?」
「ほんとじゃな」
俺が来る前の話だろうか。
アレスはここを自慢したかったから、こんな反応をしているのかもしれない。
「オレ……誰からも誘われてない…」
あ…
「いや、アレス誘っても来なかったじゃん」
「いやでもそ………ルーシャさん、なんかやっぱどうなのよ?」
「おい、急に妾の方きたな」
結局、アレスが悪いんじゃないか。
「でぇももうちょっと気にかけてくれてもいいんじゃない?」
上体を仰け反り、またも面倒くさい反応をするアレス。
「アレスめんどいね」
「うわそういうこと言うんだ? いいの? 傷ついちゃうよ? オレ傷ついちゃうよ?」
「アレスって女々し………」
カフの言葉が収まる。
料理が運ばれてきたため止まったのだが、その運ばれ方が奇妙なため、俺たちも口を開けない。
普通、盆を持つ店員が視界に映るはずだが、それがいない。
料理を手で持ってきているのではなく、長すぎる盆でかなり離れたところから持ってきているからだ。
「…………」
盆は今もピクピクしていて、厳しい状況なのが分かる。
「これって…こういうサービス?」
「いや……ミスター常連のオレも初めてだ…」
「アレスあんたこれで二回目でしょ?」
「実質常連みたいなとこある」
気楽な会話をしている間、誰も盆に乗った料理を取ろうとしない。
「あの……そろそろ…っ」
盆の持ち主が限界の声を上げる。
その人は死体だった。
不老と言えば真っ先に思い浮かぶ種族のひとつ。
つぎはぎの肌をしており、そこの境界には縫い目がある。
薄緑と灰色の肌が混雑していて、ショートヘアの子だ。
乗せられた料理をテーブルに置く。
と、死体の子が転んだ。
「………ちょっと行ってくる」
俺はあの子のところへ行くことにした。
「大丈夫ですか?」
「は…はい……お騒がせしました…」
死体の子は長い盆を脇に抱え、申し訳なさそうな顔をしている。
「いえ…なぜそんなやり方を?」
「えと……私が近くにいると…料理に臭いが…」
なるほど、そういう事か。
なら、なんでこんな所で働いてるのか気になるな。
「別にあなたからは何も臭いませんよ?」
「いえ…」
「…なら、少し御手をよろしいですか?」
「…? はい…」
つぎはぎの色をした手を取り、自らの顔に近づける。
「いい匂いですよ。自信もってください」
「っ………そんなことは…」
俺の手をキュッと握り、自信の無さそうな彼女。
「本当ですよ。もし他のお客が嫌がるなら、僕にだけ手渡ししてくれればいい。それなら構いませんか?」
「………あなたに……だけ…」
………あれ?
なんかおかしいな…
「あの……お名前を伺っても…よろしいですか?」
「はい、シャル・テラムンドと申します」
「シャル様………あなたに会えたこと…嬉しく思います…!」
おおう…
「僕もあなたの運んだ料理を食べれて嬉しく思うよ」
「っ……ありがとうございます! シャル様!」
……………。
「ただいま…」
「……お主、あまり惚れられ過ぎるのはどうかと思うぞ?」
「別にそういうつもりは……」
「ところでさぁ」
と、アレスが不貞腐れずに口を開く。
だが、この後なにを言うかは大体わかる。
「この料理うまいよな」
「……? そうじゃな」
あれ?
また嫌味を言われるかと思ったが、そうではなかった。
俺も目の前の料理に手をつける。
大きな甲殻類を丸々使い、赤いピリ辛のソースが良い味だ。
「確かに美味いな」
「でもさぁ、こういう料理にパイナップル入れるやついるじゃん? ああいうのってどう思う?」
パイナップルかぁ…
そういうのもあったなぁ。
「俺は許せない……なぁ」
「パイナップルは別で食べたいのぅ」
「そうだよな?」
「…………」
あ…
「で、カフはどうなん?」
「っすぅ……一番好きな料理……だけど…」
あ、やべ。
……いや、待てよ?
「え? アレス、これわざと言ったんだとしたら……」
「いやいや、そんなことする訳ないでしょ? だって┈┈┈」
「┈┈┈┈┈┈アレス…そんなことするんだ…」
「いやいや聞いて? カフの好物って知ってたらこんなことするわけないでしょ? だって┈┈┈┈┈┈」
「┈┈┈┈┈┈アレス…酷いよ…」
「いやいやいや、全然知らん。え? 好きなんだ、逆に、パイナップルインスープ」
「え……昨日の昼…話してたくない?」
「いやいや知らん、知らんすよ。無いんすもん、記憶」
それからもアレスの言い訳が繰り広げられた。
その間、俺と腕だけがパクパクと料理を食べ、賑やかな食事を終えた。
「こういうのもいいの」
「…まあな」




