秘密の授業 ー結婚予約ー
―マオセロット視点―
シャルが飛竜を倒した。
飛竜は獣族に伝わる災厄に数えられる一体だ。
我々獣族はその厄災達に対抗出来るように子供の時から訓練を受ける。
そんな集団でも飛竜一体に大騒ぎだ。
それをシャルは一人で倒してしまった。
『強いやつの子を産め』
ウォルから何度も言われたことだ。
最初に聞いた時は別になんとも思わなかった。
強いことは魅力的だが、あくまで魅力のひとつだと考えていた。
だが、シャルが飛竜を打ちのめした時、その考えは逆転した。
シャルは私の前で力を見せた。
格好良く魔術を使って、格好良く倒した。
その時、下腹部の辺りがキュンキュンとしてきた。
『シャルの子を産みたい』
そう思った。
『獣族は強い遺伝子をもつ者に惹かれる習性がある』
これは私が王宮に来た時に初めて知ったことだ。
そして、『子を産む行為は結婚をしてから』という文化が獣族特有のものであることも。
シャルには悪い事をした。
期待させるだけさせておいて、お預けをしてしまった。
あの時、シャルからは発情の匂いがした。
いつもシャルは発情の匂いを出しているが、あの時は特に強烈だった。
その匂いに当てられて私も発情した。
だが、やはり子を産むのは結婚をしてからだ。
子を孕んだのに捨てられては、メスは身動きが取れなくなる。
だが、結婚の約束はした。
あれだけ匂いをつければ、シャルもその気になってくれるだろう。
シャルの子を産むのが楽しみだ。
エミリーとフィルティアには悪いが、シャルは私が頂こう。
―シャル視点―
俺は朝イチから土下座をしていた。
俺専属メイド(違う)のメイアさんに。
再度、部屋を見渡す。
執事服が散乱し、カピカピのティッシュがモノトーンの部屋にアクセントを加えるが如く無数にある、散らかった部屋。
掃除しようとは思ったのだ。
だが、マオの匂いを嗅ぐ度に我慢できなかったのだ。
朝早くには用事があると言うのに、俺は何もしなかった。
いや、ナニだけはしていたのだが…
「申し訳ありません…」
メイアさんに謝る。
こんな部屋を掃除させてしまうのだ。
謝らずにはいられない。
「い、いえ…部屋の掃除はメイドの性分ですので…」
メイアさんが珍しく狼狽えている。
両手を振ってあわあわしている。
メイドにとって、主人(違う)に頭を下げられるのは仕事柄良くないのだろうか。
「それよりも、朝はフィルティア様と用事があるのでは?」
「……はい」
「それなら尚更そちらに向かってくださいませ。ここは私がやっておきますので…」
頭を下げてくる。
「申し訳ないです…」
扉を閉めて、目的地へと向かう。
向かうのはフィルティアのところだ。
一睡もしていないが、目は冴えている。
なにせ、フィルティアからの呼び出しだ。
こんなことは今まで無かった。
期待せずにはいられない。
早朝だが、俺は元気いっぱいで彼女の部屋へ歩いた。
フィルティアの部屋の前に着き、ノックをし、扉が誤差がほとんど無く開かれる。
出てきたのは、裾の長いベストに、キュッとウエストの締まった濃緑の服、そして黒ズボン。
フィルティアは2人と比べてもおしゃれだ。
だが、これは彼女の私物ではなく王宮のものやメイドたちが持っている服だったりする。
フィルティアはメイドの着せ替え人形になっている。
改めて見ると、やっぱり細い。
「ど、どうも…呼ばれて来ました」
「ど、どうも…よ、呼びました……」
目が意図せず会ってしまい、お互い変な感じになってしまう。
ヤダっ。
なにこれ、出来たてカップルみたいで凄くいい!
「ど、どうぞ……入ってください」
小さく開かれていた扉が大きく開かれる。
「お、お邪魔します」
部屋は俺のものと変わらない。
だが、なんだろう……女の子の部屋って感じがする。
別に女の子らしい物が置いてあったりしないのに、そう感じる。
俺も意識してるってことだ。
女の子の部屋に入るのはいつぶりだろうか。
約50年振りくらいだろうか?
机に2人で座る。
フィルティアが俺の隣に座って顔を俯かせて、その短い髪を気にしている。
頬が若干赤い。
俺も同じく頬を赤くしているだろう。
さっきから顔が熱いのだ。
「……今日はどう言ったご要件でしょうか?」
世間話でもしてなるべく長くここに居たいのに、俺は話題が見つからずにいた。
「えっと……ここの、問題が…分からなくて……」
問題を指さす。
机には元々教材が置かれていたのだが、目に入らなかった。
頭がフィルティアのことでいっぱいだ。
だが………勉強だったか。
「ああ、ここですか……これはですね┈┈┈┈┈┈┈」
30分ほど問題について話す。
「┈┈┈┈┈┈と、いうことになります。大丈夫ですか?」
「うん、特殊属性の魔術は普通の魔術よりも多く魔力が必要になるから、魔力の高い魔物に使おうとすると、たくさん魔力が必要ってことだよね?」
「はい、完璧です」
この前の飛竜討伐の際に、俺の固定魔術が効かなかった理由が教材に書いてあった。
あれは込めた魔力が足りなかったのが原因だったのだ。
特殊属性のことが書いてある文献なんてほとんど無いから、探すのに苦労したものだ。
3人にも特殊属性の魔術を教えたいのだが、会得に頭を悩ませているのが現状だ。
それにしても、この問題ぐらいならフィルティアは難なく解けそうだが…
「あとね、補助魔法も使いたいんだけど……いいかな?」
補助魔法か…
思えば、この世界に来てから無双したいがためにほとんど攻撃魔術しか覚えてこなかったな。
この世界でも補助魔法は人気が無さそうだしな。
英雄譚の本しか読んだことはないが、補助魔法を使ってるところはほとんどない。
あったとしても、どうでもいいようなところでだ。
「構いませんが、僕は補助魔法なんてほとんど使えませんよ?」
「うん、大丈夫だよ……し、シャルなら……」
……なかなか口説き方が上手くなったじゃないか、フィルティアさん。
フィルティアは俺の口説き文句を真似するところがある。
俺もジェフの受け売りだが、これがまた可愛い。
「フィルティアに補助魔法を受ける人は幸せ者ですね」
「そ、そうかな?」
「ええ。可愛い人に世話を焼かれるのは、男の夢ですからね」
「そ、そっか……そうなんだ…」
頬を赤く染めながらそう言った。
「では、いきますよ」
「うん」
そう言って、フィルティアが耳を差し出すように顔を傾ける。
そして、俺は補助魔法、『聴覚強化』をフィルティアのとんがった耳に触れながら唱える。
これはまだジェフの屋敷にいた頃、メイドの入浴音を聞くために身につけたものだ。
「……どうですか?」
「うぅん、何となく……かな?」
フィルティアが首を傾げながら言う。
まあ、そんなものだろう。
俺も当時は効果が薄くて期待はずれだったのだ。
「じゃあ、やってみるね」
「はい」
先程のフィルティアと同じように耳を差し出す。
フィルティアの小さい手が耳に触れる。
聴覚強化を唱える。
瞬間、自分の聴覚が優れていくのが感じられる。
おお、これは凄いな。
唱えられる前は聞こえなかった風の音、廊下の足音、他にも色んな雑音が聞こえる。
自分にかけた時以上の効果だ。
「凄いですよこれ。僕がかけた時よりもかなり聞こえますよ」
「ほ、ほんと?」
「ええ、フィルティアは凄いですね」
素直に褒めると、フィルティアが「えへへ」と笑う。
どうやら、補助魔法は使う人物によって得られる効果が変わるらしい。
込める魔力量で変化しないのは実証済みだ。
そこらへんは攻撃魔術と逆だな。
ー
俺の覚えている補助魔法を全て教えた。
「ふう、これで全部です」
「うん、ありがとう」
「それにしても、フィルティアは補助魔法の性能がずば抜けてますね」
「シャルには勝てないよ」
「まさか」
今回の用事が全て終わってしまった。
楽しい時間はあっという間だな。
「……では、そろそろ部屋に戻りますね」
そう言って立ち上がる。
名残惜しいが、やることもないのに留まっているとどういう状況になるか俺は知っている。
気疎くなってしまうのだ。
女の子の部屋で会話を続けられるほど、俺のコミュ力は高くない。
「ぇ…あ………うん」
……そんな悲しげな声を聞いたら、出ていけないじゃないか。
全く、フィルティアは寂しがり屋さんだな!
「おおっとぉ! フィルティアに教えたい魔術があったんでした」
大仰にそう言って、元の位置に座った。
「教えたいもの?」
フィルティアが少しだけ身を寄せてくる。
「ええ、土魔術の一種なんですが」
即興で嘘をつく。
だが、教えたくなったから、一概に嘘とも言えないだろう。
俺は机に右手を向ける。
そして、人形生成を唱える。
机に手のひらサイズの人形が創り出される。
見た目は角ばっているが、泥で作られているため、表面は艶々している。
そいつをフィルティアに向けてお辞儀をさせる。
執事がするようなお辞儀だ。
「まだ創造魔術は教えていませんでしたね。フィルティアには先取りで教えちゃいます」
創造魔術。
土属性に分類される魔術だ。
召喚魔術とは異なる。
「やった、先取りしちゃった」
そう言って、彼女はいたずらっぽく笑った。
やだ!
胸がドキッとする。
それから小一時間、創造魔術を教えた。
フィルティアは創り出すことは出来ても、動かすことはあまり出来なかった。
だが、一緒に居られただけでも十分幸せだ。
「それでは、授業の準備をしてきますね」
「うん、授業でね」
未だ名残惜しいが、授業の準備をしなくては。
俺は膝に手を置き、立ち上がろうと…
「っと、その前に」
そう言って、手に魔力を込める。
水、火、固定の3つの魔術を使って、小物を作る。
出来たのは水の塊の中心に爛々と光る炎を入れたもの。
水は蒸発も沸騰もせずにただ留まっている。
炎は熱量よりも、光量に魔力を使った。
そんな調整ができるようになったのも、練習の成果だ。
「どうぞ」
フィルティアに差し出す。
「え…………?」
フィルティアはそれを両手で受け取ったまま、口をぽかんと開けている。
あれ?
思っていたリアクションと違うな。
長耳族の文化だとこういうのは失礼にあたるのだろうか。
不躾なことをしたと後悔してしまう。
「し…シャル………これって…」
「え、えっと……失礼でしたか?」
「そんなこと!」
フィルティアがばっと頭を上げて否定してくる。
……んん?
「僕からフィルティアへの気持ちです」
「…………」
フィルティアは再度俯いて、片手で胸をギュッ抑えている。
……なんだろう、この反応は?
ただ、エミリーには誕生日にインテリアを、マオにはプリンをあげたから公平にしようと思っただけなのだが…
「………ありがとう…大事にするね」
「ええ、ありがとうございます」
お互いに感謝を述べて、俺はその場を去ろうとする。
「シャル…!」
と、フィルティアに引き止められた。
先程から様子がおかしいな…
「どうしました?」
「えと………今夜…空いてますか?」
「…? ええ、空いてますよ」
「なら…………こ、今夜……私の、部屋に……来て…ください…」
おっと、フィルティアからのお誘いですか、もちろん息子の方はいつでも元気ですぞ。
不眠不休で扱いてもまだまだイケますからな!
ただ、いつもの口調と違うのが少し気になるな。
何かやってしまったのだろうか。
「ええ、もちろん行きます」
「うん……待ってる」
まあ、とりあえず今夜は眠れない夜になりそうだな!
ハッハッハ!
……あれ?
マオの時はそういうのは結婚してからということだったが…
ま、いっか。
―フィルティア視点―
「僕からフィルティアへの気持ちです」
シャルに綺麗な小物を渡された。
彼の魔術によって作られたそれはとても幻想的だった。
受け取った瞬間、気持ちが高まるのを感じる。
シャルが私のことをそんなふうに想ってくれていたなんて。
自分の普段身につけているものを渡す行為は、『求婚』の意味。
そして、自分の魔力で創ったものを渡すのは『最愛の証』だ。
嬉しい。
とても嬉しい。
私はシャルのことが好きだ。
村の男衆から助け出してくれたあの日からずっと…
胸が苦しい。
シャルが私を欲してくれている。
そう考えると、すごく胸がドキドキするのを感じる。
「………ありがとう…大事にするね」
「ええ、ありがとうございます」
そう言って、扉を開けようと…
「シャル…!」
彼を引き止める。
告白を受けた後の了承の意味として、取るべき行動は知っている。
夜、一緒に寝ることだ。
「…………こ、今夜……私の、部屋に……来て…ください……」
たった一言だけなのにとても緊張した。
『シャルと一緒に寝る』
えっちなシャルのことだ。
今夜、私は女になるのだろう。
「ええ、もちろん行きます」
「うん……待ってる」
扉が閉められる。
まだ朝だと言うのに、すごく興奮してしまった。
ベッドに寝転がる。
自分で済ませてから授業に出ることにしよう。
シャルが私を助けてくれた日から、自分を慰めるという行為を覚えた。
あの日以来、ずっとシャルのことを想いながらしている。
今夜は頭の中でではなく、実際にされてしまうのだ。
……今日は念入りに体を洗っておこう。
―シャル視点―
フィルティアに夜のお誘いを受けた後、すっかり片付いた自室にて、俺はメイアさんに相談を受けていた。
「用ってなんでしょう?」
「はい、実はエミリーお嬢様の授業についてなのですが」
俺は悟った。
『あ、これめんどくさいやつだ』と。
メイアさんは俺と同じく、メイド兼教師だ。
エミリーは未だに俺以外の授業に出ていない。
俺の担当教科は言語学、歴史、算術、魔術学だ。
算術と魔術学は普通にやっているが、言語学と歴史はほとんど手付かずだ。
本当はやらなければいけないのだが、歴史はそこら辺の劇でも見させておくとして、言語学は他国にでも行った時に実用も兼ねてやろうと思っている。
「シャル様の授業に対する秘訣をお教え願えないでしょうか?」
「秘訣……? んー、僕は単にお嬢様と仲良くなっただけと言いますか…」
「仲良く……ですか…」
そうだ。
思えば、エミリーが授業に出てきてくれたのは、誕生日プレゼントをあげたり、魔術の実用性を示しただけだ。
メイアさんの担当は礼儀作法とダンスだったっけか。
「実用性を示してあげれば良いのではないでしょうか?」
「実用性……ですか?」
「はい、やって得をするようなものじゃないとお嬢様の性格上やらないと思います」
「なるほど……礼儀作法の説得は出来そうですが、ダンスはどうしましょう……」
ダンスか…
エミリーはパーティに出席はするが、ダンスはやらない。
実際に使う場にいるのに使わないのは単に嫌いなのだろう。
なぜ嫌いなのか…
あれ?
でも、俺とは普通に踊ってたよな。
なら、俺以外のやつと踊るのが嫌いなのかな?
パーティは社交ダンスみたいに誰かと踊るからな。
つまり…
ぐへへ。
エミリーのやつめ、可愛いじゃないか。
「ダンスは僕にも分かりかねますね」
「左様ですか……まずは礼儀作法の説得を致します。シャル様の授業後に生徒様方とお話をしても?」
ん?
フィルティアとマオにも話すのか?
同じ立場の人にも説得してもらうのだろうか?
「はい、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
―メイア視点―
授業が終了した。
時刻は夕方、既に授業は終了している時間。
だが、念の為、扉に耳を当てて確認する。
音がしないのを確かめると、ノックをする。
入室の許可がおり、部屋に入る。
「お嬢様、フィルティア様、マオセロット様、お時間をよろしいでしょうか?」
御三方が了承の声を発する。
事前にお嬢様たちに話しておいてくれたのだろう。
何ら抵抗を受けずに済んだ。
いつものお嬢様なら一目散にお逃げになられただろう。
不満そうな顔をしてはいらっしゃるが、それだけだ。
「じゃあエミリー、きちんと話を聞いてあげるんですよ?」
「分かってるわよ」
シャル様が席を外す。
備え付けの部屋に移動して、論議する。
「単刀直入に申します。お嬢様、授業にお出でになってはくれないでしょうか?」
「嫌よ」
亮然と言われてしまった。
だが、ここまでは予想通り。
「フィルティア様とマオセロット様も、よろしければ礼儀作法の授業にご出席願えないでしょうか?」
「む? 礼儀は要らないな」
「そう? 私は受けてみたいな」
フィルティア様が了承の意を示してくれる。
「ほう、なぜだ?」
心の中の自分が不敵な笑みを浮かべる。
御二方をお呼びしたのは幾つか理由がある。
これがそのひとつだ。
「……だって…シャルの前で無作法は出来ないでしょ?」
フィルティア様が頬を若干赤くして答える。
と同時に、お嬢様がハッとした顔をするのを目端に捉える。
「その通りです。人前で誤った作法をするのは、印象がよろしくないでしょう」
どうやら、お嬢様はシャル様に懸想なされているご様子。
ならば、想いを寄せる相手に印象が良くなるというを実用性を示せば良い。
シャル様はまだお若いのに、明哲なお方だ。
「そういうものか?」
「そういうものだよ」
フィルティア様とマオセロット様のやり時が続く。
お嬢様が何やら考える素振りをしている。
「……私も受けるわよ!」
よし。
上手くいった。
「……ほう、なら私も受けよう。シャルからの印象は良くなりたい」
……シャル様も罪なお人だ。
三人もの方に恋慕されるとは…
「では、授業は予定通りに」
「………ええ、分かったわ」
「お願いします」
「よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
ダンスの方を忘れてしまったが、また後日にしよう。
こうして、お嬢様たちは授業に出てくれるようになった。
―シャル視点―
時刻は夜、フィルティアの部屋へと向かうため、月明かりのみの廊下を歩いていた。
念入りに体を洗い、身だしなみを確認しての、隙のない態勢で挑む。
今夜、俺は漢になる。
フィルティアの部屋に着いて、ノックをする。
扉が開かれる。
目に写ったのは、ネイビー色のパジャマを着たフィルティア。
フィルティアもその気なのか、何もしていないのに頬が赤くなっている。
この世界での成人は早い。
15歳になれば大人として見られる。
フィルティアは俺と同じ11歳。
この世界では大人の準備をしている年齢だ。
そういったことをするのもおかしくはないのだろう。
……多分
「こ、こんばんは。フィルティア」
「う、うん。こんばんは……シャル」
朝の時のようなたどたどしいやり取りをして、部屋に入る。
フィルティアがベッドの縁に座ったので、何となく隣に座る。
「「 ………… 」」
沈黙が流れる。
どうしよう。
何を話そうか…
「そ、そういえば、メイアさんとの話はどうでしたか?」
「え…? ああ、うん……三人で受けることにしたよ」
「そうですか、頑張ってくださいね…」
「うん…」
2人とも俯いてしまう。
やばい!
会話が続かない!
そういったムードってどうやって作るんだ?
オラに知識を分けて欲しいところだが、生憎、頼れる人物はこの場にいない。
メイアさんに聞いて来ればよかったな。
あの人なら何でも知ってそうだ。
「明かり…消しますね」
「う、うん…」
天井の明かりは魔光石と呼ばれるもので少量の魔力で長くもつものが使用されている。
しかし、高価が故にあまり普及していない。
こんな使用人室にもそれが用意されているのは、この国が裕福なのだろう。
明かりを魔力で消す。
本当はスイッチで消すのだが、俺にそれは必要ない。
光がだんだん薄らいでいく。
部屋を月明かりのみが照らす。
「「 ………… 」」
暫時、沈黙が流れる。
だが、これは意図的な沈黙だ。
ムード作りってやつだ。
フィルティアの肩に手を回す。
ピクッと跳ねるが、抵抗はしない。
少し撫でてから、背中、腰へと移る。
体の強ばりが無くなるのを感じ、フィルティアの前へと移動して、ベッドに寝転がす。
フィルティアは手を放り出して、俺を少し潤んだ目で見ている。
彼女のその細い腹に手を置く。
そして、胸部へと滑らせる。
柔らかさなど微塵もないのに、俺のオスの部分は確実にそれを胸として見ていた。
初めて揉む女性の胸。
50年以上切望していたそれが、今、俺の手の中にある。
頭がどうにかなってしまいそうだ。
こんなに興奮したのは初めてかもしれない。
女性の胸を揉んで、その顔を見て、反応を見て…
フィルティアの息遣いが聞こえる。
温度と湿度を持った妖艶な息。
脱がせようと、ボタンに手をかける。
1つ、2つと丁寧に外していく。
最後の3つ目にかかったその時┈┈┈┈┈┈
ウゥゥウウゥゥウウウウン!!!
耳を劈く音がする。
初めて聞く音だが、何の音かは直感で理解出来る。
警告音だ。
警告音が小さくなり、代わりに声が走る。
『緊急! 緊急! 飛竜接近! 飛竜接近! 非戦闘員は直ちに避難せよ!』
「飛竜?!」
フィルティアが胸元を抑えて半身だけ起き上がる。
警告音を聞いて膝立ちしていた俺は、焦りとは別の感情を抱いていた。
それは憤怒。
俺の初夜を邪魔したことによる激情がフツフツと湧いてきた。
「……フィルティア、行って来ますね」
「え…?」
声音は冷静だった気がする。
この溢れる怒りをフィルティアが感じていないと思いたい。
扉を開けて、糞竜の元へと向かう。
その日、俺は『竜殺し』に続き、『竜滅ぼし』の称号を得た。