誇り
ーマオ視点ー
シャルがいなくなって二年が過ぎた。
未だ連絡は来ない。
だが、私にはもう関係ない…
過去の私は誇りよりもシャルを選んだ。
今度はシャルよりも誇りを選ぶべきだ…
「っ!」
横薙ぎに振られた剣を防ぐ。
だが、勢いを殺しきれずにかなり吹き飛ばされた。
「訓練中に考え事か? マオ」
「少しな…」
毎日、激しい修行をする。
私に甘かったウォルもようやく真面目にやってくれた。
金竜を倒し、失った誇りを取り戻す。
そうすれば、シャルと会える。
そのための訓練だが、金竜には勝てる気がしない。
私では力不足だ。
「…………」
あの蜥蜴さえ住み着かなければ、こんな思いはしなくて済んだ。
シャルと別れるのは辛い。
だが、私は罪人だ。
誇りを無くした私にシャルも会いたくないはずだ…
「やるぞ、ウォル」
「ん」
ー
疲れた。
風呂に入り、さっぱりした。
…………寂しい。
シャルと別れてからずっとこうだ。
抱きしめてもらえないし、撫でてもらえない。
性欲だって溜まっている。
ひょっとしたら、私は抱かれれば誰でもいいのかもしれない。
それだったら、この寂しさを何とかできるかもしれない。
「ウォル」
「ん?」
試しに、ウォルに抱きついてみた。
「ま……マオ…?」
「…………」
違う。
何かが違う。
何も温まらないし、満たされない。
今日はもう寝よう。
抱きしめるのをやめ、部屋に向かう。
「ん、マオ、寝るのかい?」
サラが話しかけてきた。
サラはウォルの代わりに族長を務め、金竜のとこにたまに顔を出している。
両方とも傷は無い。
激しい戦闘はしていなさそうだ。
「ああ、今日も疲れたからな」
「じゃ、おやす………なんでウォルは泣いてるんだい?」
振り返ると、床に座ったまま蹲ったウォルがいた。
何でそうなったのか分からない。
「分からん」
「……仕方ないねぇ…慰めてやるかな」
「………」
ここからは二人の時間だ。
好きなやつとできて羨ましい。
私も金竜を倒してシャルと会ったら、もうあいつを離せる気がしない。
もう一度、愛し合いたい…
早く強くなろう。
ー
翌日。
三人で机を囲み、飯を食べる。
「そうだマオ、聞きたかったんだけどさ」
「なんだ?」
シャルの上着を椅子にかけていたところ、サラに話しかけられる。
「そのシャルって子にさ、求婚はしたのかい?」
「した」
「…………」
「お、やるね。じゃあ交尾もしたかい?」
「たくさんした」
「…………」
シャルとまたしたい。
他のオスと試そうと考えたが、体の熱が冷えただけだった。
やっぱり、金竜を倒してシャルに会うしかない。
だが…
「どうしたんだいウォル? 前々から優秀なオス探せって言ってたじゃないか」
サラが笑いながら、先程からムスッとしてるウォルに話しかける。
「まあ……な…」
はっきりしない態度だ。
むかつく。
「マオ、ジェフの子は優秀なオスなのか?」
「最高のオスだ」
「俺よりも?」
「龍王よりもだ」
分かりきったことだ。
私はシャルが大好きだ。
あいつのことを考えると、子宮が疼く。
匂いを嗅ぐと、したくなる。
撫でてくれるし、抱きしめてくれる。
甘い言葉を言ってくれるし、話してて楽しい。
龍王など、シャルに比べたらちっぽけだ。
「なるほど…なるほど……そんなにかぁ…」
目頭を押さえ、よく分からん返事をする。
むかつく。
「じゃあ…もっかいその子と会わせろ」
「…………私はもうあいつと別れた…」
「連れ去られただけだろ?」
「違う……今の私に獣族の誇りは無い…」
動かしていた手が止まる。
シャルはもう私のオスではない…
どちらかが優秀でも、片方がだめならだめだ。
私はシャルに相応しくない。
「なぁ、マオ」
「……?」
ウォルも動かしていた手を止め、私を真っ直ぐ見る。
こいつの真剣な表情はむかつく。
「金竜がここに来たこと、不運って思ってるか?」
「……? 当たり前だ」
「違うな。ぜんっぜん違う」
「なぜだ」
ウォルを睨みつける。
私たちは村を守護し、統率し、導く立場にある。
それなのに、不運ではないとこいつは言う。
わけが分からない。
「いいか? 獣族は強くなるためにいる」
「ああ」
当たり前のことだ。
そのために戦い、そのために子を産む。
「だがな、それは決して強き『群』を作るためのものではない」
「………」
「獣族は『個』に生き、『個』に在るべきだ。つまり金竜は己を鍛える絶好の機会。誰も不運だとは思っていない」
「…………何が言いたい?」
「それを考えろ。シャルの為にもな」
……?
シャルのため?
…………分からん。
こいつの言うことは回りくどい。
「まあ取り敢えずはそれが今後の課題だな」
「…………ん」
シャルのためになること……
やらねばならん事が増えた。




