婚約相手
ーエミリー視点ー
シャルがいなくなって、もうじき一年が経つ。
毎晩ワクワクしながら寝て、毎朝期待しながら起きる。
今日も同じように目が覚めて、シャルの部屋を見に行く。
ー
「ん、エミリー」
「フィル」
たまにフィルと一緒に見に行くこともある。
私の護衛になってからは服装もしっかりとしたものになって、龍国の修行も上達していっている。
私も負けていられない。
「行きましょ」
「うん」
ー
いなかった。
ー
教室にもいない。
「まだ頑張ってるのかな…シャル…」
「そうね…」
シャルと別れて一年近く。
そろそろ、我慢の限界が近づいている。
シャルに会いたい。
また抱きしめたいし、抱きしめて欲しい。
最近、ずっと寂しい。
何をするにも、シャルが頭の片隅にいる。
「ここに居たか、エミリー」
「お父様…」
私のシャルを連れ出した張本人。
まだ怒りの感情はあるけど、協定で決まっている事だ。
理解はしている。
フィルが辞儀をしている中、お父様が私の前に立つ。
「お前に見合いの話がきている」
「断ってください」
ふざけないで欲しい。
お父様だって、私がシャルと付き合っていることを知っているはずだ。
それなのにこんな話を持ってくるなんてのは許さない。
「隣国の商談だ。話してこい」
「嫌です」
国の事情なんて知らない。
私は私のしたい事をするだけだ。
「駄目だ、行け」
「…………」
お父様も強情だ。
いつもは私に甘いくせに、国のことになるとこうなる。
こうなったお父様は絶対に引かない。
それなら…
「お父様も私の邪魔をするのですか?」
はっきりと敵意のある目を向ける。
龍国で鍛えたのだ。
お父様くらいは素手でも簡単に倒せる。
「何も『受けろ』とは言っていない」
「………ならなぜ」
「表面上のやり取りは必要だ。魔王城へ攻め入る時、戦力が無くては始まるまい」
「……!」
意外だ。
お父様がシャルをそこまで気に入っていたなんて。
「お父様もあの男を見たあとでは、他の者などエミリーの相手にさせる気は無いからな。見合い相手はちゃんと蹴飛ばしてくるのだぞ?」
「はい…!」
自然と笑顔になって、返事をする。
お父様がお父様でよかった。
お父様もシャルを気に入っていて、私もシャルが大好きだ。
結婚だってできるし、子供だって…
シャルの帰りが待ちきれない。




