鉄の証明
腕と廊下を歩く。
足は重たいが、彼女のことを話せて心は軽い。
先程の焦燥感も薄れ、明日に向けての活力が戻ってくる。
「お主、背伸びたのぉ」
「ん?」
確かに、ちょっと伸びたな。
以前は腕の方が高かったが、今は同じくらいになっている。
彼女たちはどのくらい成長しただろうか。
「腕は身長伸びないのか?」
「もう変わらっ┈┈┈┈┈┈┈!」
腕が躓き、体が床に近づいていく。
その動きが俺にはゆっくりに見え、後ろに結ばれた髪が靡くのを綺麗だと思う余裕すらあった。
故に、簡単にその鉤爪を持った太い指を掴むことが出来た。
「大丈夫か? やっぱ治癒魔術使うぞ?」
片方の手で腕の指を掴み、もう片方をその腕に添え、引っ張り、しっかりと立たせる。
普段のこいつなら、転ぶなんてことはありえない。
やはり、俺がつけた傷が痛むのだろう。
俺は手に魔力を込めようと……
「おぬし………お主……!」
何故か腕が狼狽えたように、掴まれている腕と俺の顔を交互に見ている。
「どうした?」
こいつの見慣れない姿に、俺も首を傾げる。
何かおかしな事でもしただろうか。
「妾の……腕……」
「あ」
その言葉にハッとする。
うっかりしていた。
俺は散々嫌っていたこいつの禍々しすぎる腕を触ってしまっている。
優しく、自然に、しっかりと。
この腕が原因で何度こいつを悲しい顔にさせたか分からない。
それをこんな急に掴んでしまっているのだ。
「これは…あれだ……急に転ばれたか┈┈┈┈┈┈!」
俺が言い訳をするよりも早く、腕が勢いよく俺に抱きついてきた。
太く、力強く、殺傷能力の高い腕が背中に回される。
今まで嫌悪していたそれに抱かれる。
誰かに抱きつかれるのは久しぶりだ。
つい、体を預けてしまいたくなる。
だが、いけない。
このままでは駄目だ。
「おい……腕…」
「ずっとこうしたかった…! お主に会ってから…ずっと…!」
そう言う腕は泣いていた。
今まで溜まっていた自分の気持ちを吐き出していた。
言葉を積む毎に腕の力が強くなる。
「離してくれよ…」
「やじゃ…やじゃ…! 一年も我慢させおって……」
嫌味を言われる。
我慢をさせていた覚えは無いが、俺にもその気持ちは分かる。最愛の彼女と会えないのはかなり辛い。
「今日だけ…今日だけは……!」
腕が締め付けられ、腕の大きな胸も強く押し当てられる。
全てが懐かしい。
全てが……
「妾を……否定しないでくれ…」
「…………」
糞が。
卑怯な言葉遣いしやがって…
「分かった……一生のお願いって言うなら…叶えてやる…」
これが俺に出来る最大限の抵抗だ。
体はほとんど動かないし、『一生』ならまた強請られる事もなくなる。
「………一年に一回じゃ…」
………そうだった。
こいつは強欲なやつだった。
「なら、何して欲しい?」
「……とりあえず…主の部屋に行きたい…」
「これは?」
「あほ…」
「ん」
腕を抱きかかえ、俺の部屋へと向かった。
絶対に間違いは起きさせない。
俺は鉄の男、シャル・テラムンドだから。




