獣族の誇り ー放棄ー
ーマオセロット視点ー
「それで、なぜ村の様子が違う?」
久しぶりの実家で話す。
木の匂いと、懐かしの家族の匂い。
落ち着く匂いだが、話す内容はそうではない。
「ふむ……話して欲しいか?」
「当然だ」
「分かった」
ウォルは腕を組み、目を閉じる。
真剣な表情だ。
「実は┈┈┈┈┈┈┈」
「┈┈┈┈┈┈金竜が住み着いただけだよ」
隣から懐かしい声がする。
セラだ。
「セラ……今いいとこだったんだが…」
「遅い方が悪い」
懐かしいやり取りだが、それよりも聞き捨てならないことがある。
「金竜とは……本当か?」
「ああ、本当だ」
ウォルを睨みつける。
金竜は飛竜なんぞよりも断然強い。
そんなのが住み着いたのだ。
なぜ、そんな一大事を教えなかったのか分からない。
「なぜ黙って帰った」
「昔から言ってるだろ? 優秀なオスを狙えと」
「どういうことだ?」
それと帰ることが関係あるのか?
こいつの言うことは回りくどい。
「シャルって子はどうだ?」
「どうだとは何がだ」
「良いオスかって話だ」
「最高のオスだ」
ウォルが何を言いたいのか分からない。
今はシャルの話よりも金竜のことだ。
「それで、なぜ何も伝えなかった?」
「………じゃあ、あの時伝えてたらマオはどうした?」
あの時…
フィルの村から帰ってきた時…
まだシャルに惚れていなくて、授業もおもしろくなかった時…
「帰って……いただろうな…」
「そういうことだ」
「…………」
確かに、ウォルのおかげでシャルと色々できた。
だが…
だが……
「私は次期族長だ…」
「そうだな」
「獣族の誇りはどうする…」
「…………」
族長は村を護らなくてはいけない。
そこに私はいなかった。
獣族としても、族長としても失格だ。
「金竜はどこに住み着いたんだ…」
「中央鉱山だ」
最悪だ。
獣族の貿易の要になっている鉱山。
そこに居られては金が入らん。
衰退していく一方だ。
「転居できないのか?」
「それこそ獣族の誇りが無くなるな」
……近頃は悪いことばっかりだ。
シャルはいなくなるし、金竜が出てくるし…
「私は責任をとらなくてはいけない」
「別にいい」
「いいや、とる」
族長としての義務を放棄していたんだ…
数年では到底返しきれない。
………………………………。
シャルとの生活は楽しかったな…
色々なこともできた…
初めては全部シャルにあげたし、たくさんえっちもできた…
知らない私を知れたし、最高の男と付き合わせてもらった…
これ以上、彼に求めてはいけない…
私はもう、シャルに会わない…




