龍の訓練 ー補助魔法ー
ーフィルティア視点ー
「じゃあやろっか、二人とも」
龍王の臣下さんと戦うことになった。
「エミエミはなにを鍛えたい?」
ユノナキさんが指導してくれるらしい。
広い訓練場に他の臣下さんたちもいて、視線がちょっと怖い。
「剣ね」
「エミエミっぽいねっ、フィッフィーは?」
馴れない名前で呼ばれる。
「私は…補助魔法を…」
「補助魔法? 珍しいね」
ユノナキさんに目を丸くされる。
補助魔法を使ってる人は全然いない。
地味だし、上達しにくいし。
でも、シャルは私に補助魔法をかけて欲しいって言ってくれた。
私が唯一シャルよりも出来ること。
誰よりも出来るようになりたい。
「補助魔法はねぇ……プラプラー!」
後ろに向かって声を上げる。
プラネルセンさんがこっちに歩いてくる。
「どうしました? ユノナキ」
「フィッフィーが補助魔法やりたいんだって」
「ほお」
プラネルセンさんの糸目がほんのちょっと大きくなった。
この人は普段から優しい。
けど、赤黒い肌はまだちょっと怖い。
「なぜ補助魔法を?」
「えと…シャルに褒められたので…」
「ほおぉ」
顎に指を当てて、なにか考えている。
なんて思ったんだろう。
「いいですなぁ。想い人に扶翼するその健気さ……いいですなぁ…」
恥ずかしい。
なんて反応したらいいか分からない。
でも、悪い気はしない。
シャルに補助をかけて、シャルの役に立てて、シャルによしよしされて…
よし。
がんばろ。
ー
まず、ユノナキさんが出した召喚獣と戦うことになった。
丸く、黒い体にくるぶしから先の足だけが付いた怖い魔物だ。
「フィル、平気?」
「うん、平気」
エミリーは腕を組んでいつも通りにしてる。
私は使えない弓をもって、使える魔法の復習をしている。
多分、大丈夫だ。
「じゃ、始めるよ」
私たちの訓練が始まった。
ー
負けた。
二人がかりでも勝てなかった。
「おしかったね、二人とも」
悔しい。
一体の蒼級召喚獣に二人がかりで負けた。
シャルはこれと同じのをたくさん出せる。
シャルの強さを改めて感じてしまった。
エミリーは私よりも悔しそうだ。
剣をもちながら膝に手を置いて、息を切らしている。
私も体が重くなってる。
魔力が足りない証拠だ。
「ユノナキ…」
「ん?」
エミリーが息を切らしながらユノナキさんを呼ぶ。
「私たちは…いつこいつに勝てるの?」
「そんなに遠くないと思うよ。エミエミたちの目標はもっと先にあるんだし」
「…………そうね」
このままじゃシャルに追いつけない。
早くシャルに抱きしめてもらいたい。
もっとシャルに面倒をかけたい。
シャルに甘い言葉をかけてほしい。
それなのに…
今頃、シャルは何をしてるんだろう。
シャルはたまに私よりも寂しがり屋だし、えっちだから長く我慢できるとは思えない。
なら、他に女の人を作っても……
ちょっと寂しいけど、そっちの方が楽だと思う。
それより、今は強くならなくちゃいけない。
シャルに早く会うために。




